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戦略・戦術

「社長の覚悟」は、必ず社員に伝わる。債務超過・倒産寸前から連続黒字企業に再建した辣腕経営者の「社長の選択肢」(第1話/全8回)

日本レーザー「人を大切にしながら利益を上げる経営」の極意

社長なら迷わず「損」の道

―― 素晴らしいV字回復ですが、なぜたった2年で復配まで達成できたのでしょうか?

 1年目は、これまで経営者らしい仕事を前任者がしていなかったので、とにかく無駄をなくして利益を出すことに専念したことで、なんとか黒字に持っていくことができました。ただ2年目は、実力以外の「運」の部分でも助けられた面があります。

 経営者が選択に迫られた時に、その決断を支える2大条件があります。1つは、経営者を取り巻く状況を冷静に判断する聡明さ。もう1つが、その状況を判断した上で、どういう手段を取るかの意思決定をするか、ということです。多くの経営者は、「得か損か」で判断します。私はそこに「正しいか正しくないか」で判断する基準も加えて欲しいと思うのです。この判断軸が、私の経営人生を大きく変えました。

 ところがここに落とし穴がある。私は正しいと思ってやるんだけど、内面「自分がやりたいから正しい」と思い込みたがるんです。

―― それはよく分かります(笑)

 そこでもっと踏み込んでみると、「自分にとってその時は損かもしれない」と思う一方「でもこれをやるのがきっと正しいと思う」「でも損だよね」という葛藤があります。その葛藤が生じた時に、「損」を選ぶのが結局正しい道だと分かったんです。

 また「簡単か、困難か」という選択。これも、困難を選ぶ。日本電子と日本レーザーの修羅場を経験してこなければ、なかなか気がつけなかったと思います。

 債務超過の原因となった前社長、会長には退職いただきました。退職金は払う必要は本来は無かったんですが、色々と考えて、やはり退職金を出すのが「正しい」と判断して、しっかり支払いました。

 また、個人株主が辞める時に、普通は親会社が株を買い取るんですが、私が社長として乗り込んできたのに、それをしないと「近藤は決意が足りない」と思われると思った。だから自分で買い取ることを決めたんですが、債務超過の株をいくらで買うのか、という問題がありました。1円でも良かったんですが、元々額面で買った人はいい顔をしないなと思った。そこで考えて、額面の500円。計300万円を自腹で買う事にしました。一見損ですが、破綻したら丸々損するなんて考えてたら経営なんてできませんからね。

「社長の覚悟」は必ず社員に伝わる

―― 身を削る判断が再建の核になったのですね。その後は順風満帆に進みましたか?

 1年目に黒字を出し、ようやく本格的に再建を進めようと言う段階で、社内の士気は実は下がっていました。「あいつは腰掛けで日本レーザーにきている」「近藤のキャリアのために苦労させられるなんて、やってられないよ」…と、私に対する批判や陰口が聞こえてくるようになりました。

 ふざけるなとも思いましたが、自分がプロパーなら、同じことを思うかも知れないと気づいた。そこで、実際は再建後に親会社に戻る道もありましたが、全て断り日本電子の肩書も捨て、日本レーザーの社長だけに専念することを決めました。「これで同じ船に乗ったわけだから、皆でぜひ力を合わせて頑張ってほしい」と伝えました。ほとんどの社員は驚き、喜んでくれました。ここから流れが大きく変わりました。

 この後、奇跡的な円高で2年目には予想外に大幅増益できたんです。損だけど正しい道を選んできた結果として、運も向いてきた。後付け講釈ですがね(笑)

 でも経営とは運も味方につけることだと信じています。死に物狂いで経営してきた社長なら、誰もがこういう「風が吹き始める」経験をしているんじゃないですかね。

 細かい取組みや手法については本編を聞いてください。とにかく何が正しいかを考えて抜いて、良いと思ったら信じて進む。これが経営者の仕事だと思います。


■近藤宣之(こんどうのぶゆき)氏/日本レーザー 代表取締役会長

 社員を幸せにしながら26期連続黒字を続ける、信念の経営者。
 東証一部メーカー日本電子の最年少役員だった氏は、1994年、2億円近い債務超過で倒産寸前に陥った子会社・日本レーザーの再建を託され社長に就任。かつて、労働組合委員長として1000名規模の人員整理に直面。その後もアメリカ法人の再建を次々と成し遂げた手腕を買われての抜擢であったが、リストラを一切行なわず、再建の混乱に残ってくれた全社員の力を集結して2年で累損を一掃する。
 「会社は社員のために、社員は会社の成長のために力を合わせて働く仕組みなくして、持続的発展はあり得ない。赤字になると人を切ってしのぐ経営は危機に弱い」と思い至った氏は、雇用の確保と社員の成長・活躍支援を経営の最重要課題として掲げ、独自の幸福経営モデルへと改革。2007年には、経営の自由度を高め、自らが信じる理念を貫くため、全社員の出資と個人保証6億円を負っての借入金で親会社からの独立を果たす。
 この間、「70歳まで生涯雇用」「女性管理職3割」「年功型から同一労働同一賃金、実力主義型への移行」などをいち早く実現しながら、一貫して黒字を維持。同社を自己資本比率55%の実質無借金、10年以上離職率ほぼゼロの超ホワイト企業へと育て上げた。2018年より代表取締役会長。
 1944年東京生まれ。慶應義塾大学工学部卒。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」中小企業長官賞など、受賞歴多数。人を大切にする経営学会副会長。千葉商科大学大学院商学研究科特命教授。東京商工会議所一号議員。著書に『中小企業の新・幸福経営』(日本経営合理化協会)『ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み』(ダイヤモンド社)ほか多数。

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