menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

戦略・戦術

第70回 『最近聞くセルフ・コンパッションとは何か?』~自分の扱いを変え、自分もチームも成長させる!?~ 

継続経営 百話百行

(2)仕事のストレス解消のためにセルフ・コンパション

1) 仕事のストレスは増大している

米国疾病予防管理センターによれば、現在、全被雇用者の4分の1が、
生活上のストレス要因の最たるものは自分の仕事であると感じている。
WHO(世界保健機構)では、
ストレスを「21世紀の健康を害する世界的な伝染病」と呼ぶ。

2015年後半にIBMインスティテュート・フォー・ビジネスバリュー
70カ国余りの21産業5247人の経営幹部を対象に実施した調査によると

テクノロジーと根本的に異質なビジネスモデルにより、
競争的な環境がますます混乱するにつれて、
自分たちの事業の「範囲、規模、スピード」が、加速し増大していると報告された。

その結果として、ヒステリックな働き方になるという。
いつでも、どこでも対応できる、過度につながった仕事は、
非常に負担が多いのだ。

仕事が、最近のテクノロジーの進化、例えば、パソコン、スマホなどで
メールや、SNSなどにより、どこにいても、どこでも
仕事環境につながる。それにより、常に仕事モードでいるため
ストレスにつながっているようだ。

グローバル ヒューマン キャピタル トレンド2014の調査によると
回答者の70%が、自社の業績管理制度を「現在、評価中」
または、最近「見直し、改訂した」と回答。

過度な成果主義に基づく業績管理は、従業員のエンゲージメント(自社と顧客との関係性、愛社精神)を低下させ、パフォーマンスの高い従業員との関係を悪くし、更にはマネジメント層の貴重な時間までムダにしてしまう。
としている。

さらには、
過剰労働の従業員に対する不十分な対応を
65%の経営者が「緊急」または「重要」課題ととらえているものの、
44%がこの問題に対する準備が整っていないと街回答。
回答者の57%が、リーダーが厳しいスケジュールを管理するのを支援すること、社員が情報の流れを管理するのを支援することにおいて、自分の組織が「弱い」と感じ、この課題に早急に取り組む必要があるとしていた。


仕事のスピードが速まって激務になったために生じるストレスと
バーンアウト(燃え尽き症候群)が、世界的に増大していることは
明らかである。

アジア、欧州、アフリカ、北米、南米で10万人以上の被雇用者に
行った調査では、鬱、ストレス、不安は、
2014年度従業員援助プログラムの精神衛生の全症例のうち、82.6%を占め、
これは2012年の55.2%を大きく上回った。

グローバル・コーポレート・チャレンジの一環として、
185カ国4500企業の150万人の社員を対象に行われた
大規模な縦断的調査では、
働く人の約75%が中度から高度のストレスレベルを経験していることがわかった。
具体的には、従業員の36%が職場で強い、あるいは極度に強いストレスを感じ、
さらに39%が中度の職場ストレスを感じていた。
職場で上昇し続けるストレスのレベルは、
ネガティブなストレス、健康、生産性には
直接的かつマイナスの関連性があることから、心配されるべきものだ。


2)仕事で挫折の時、ダメな行動パターン

仕事で挫折を感じた時、人が取る典型的な行動は2種類ある。
防御反応として
・相手を責めるか、
・自分を責めるか

相手を責めると、
防衛的になって自分の責任を小さく考えれば、
失敗の痛みは和らぐかもしれないが、学びを得る機会が犠牲になる。

自分を責めると、
自分を痛め付ければ、その時はそれが当然だと思っても、
自分の可能性を不当に低く評価することにつながり、
自己成長が妨げられる。

では、他人が挫折したときだったら、どうするか?
もう少し寛容さを示したり、理解したり、
励ましたりするのではないだろうか?

この種の態度を自分自身に向けることを
セルフ・コンパッション(自分への思いやり)と言い
近年かなり集中的に研究されている分野である。

3)従来のストレスマネジメント法

上司から叱責されて、自分の仕事の進め方が悪いと感じる時。
仕事で自分が思うように成果を上げられず、
他者から後れを取っていると感じる時。
自分には能力がないと感じて、自己批判をすることはないだろうか。

こんなときに、従来は

・ストレスの原因を取り除くことに主眼を置いた「問題解決法」
・問題に対する考え方やとらえ方を修正する「合理的思考法」
・他者への相談方法として「カウンセリング」

のどれかをしてきた。

問題解決法は、問題の原因が明確かつ単純な場合や情報収集できる場合、
有効。
しかし現実の問題は、原因が理不尽な上司だったり、
自分や家族の重い病気だったりするなど、原因が複雑で、
一般的な方策を試しても、解決に至らないケースも多い。

合理的思考法は、自分の思考や感情を観察して、
その思考の根拠や反証となる事実を探して、
考え方やとらえ方を修正する方法である。
「自分には才能がない」ことの根拠や反証を探すと、
すべてが人より劣っているわけではないなどの反証が思い浮かび、
希望が生まれる。
ただし、悩みが解決されないままになると、
「自分はダメな人間だ」といった批判的思考が頭の中を占め、
認知を修正しようという動機を維持することが難しい。

カウンセリングは、カウンセラーに聞いてもらうことで、
癒されたり、解決策をアドバイスしてもらったりする方法である。
カウンセリング中は、できそうだと思える。
しかし、その場を離れてしばらくすると、自己批判的思考が頭をもたげて、「やっぱりできない」と感じ、「カウンセラーにまた聞いてもらおう」と依存心だけが増幅することがある。

このように従来のストレスマネジメント法は、
そもそも問題を突き止めることが難しく、
仮にそれができたとしても、問題自体がなくならなければ、
再発する可能性があるという限界があった。
加えて、従来の方法では、自分でコントロールできない問題には、
ほとんど対応ができなかった。

4)ストレスマネジメントの推移

人生の悩みや苦悩は、何かに満足できないことから生じる。
つまり、大成功や完璧を求めるために
・ちょっとした成功を喜べなない
・他者と比較して自分のほうが劣っている
と思い、常に不満足感を抱えて生きることになる

自分の幸せを追い求める心が、
かえって否定的感情を継続的に生み出し続ける。
「頑張っても満たされない。なぜだ?」

その結果、アメリカでいろいろ模索されるようになった。
そこに、仏教の考え方があてはまった。

仏教の幸福の形:現在自分にあるものをそのまま受け入れれば、
満足や安心といったポジティブな感情を経験できる。

これは、不安を抱えていた1960年代のアメリカのヒッピーたちによって注目された。

1960年代に米国のヒッピーたちによって注目
1970年代 科学者の卵たちが修行を経験し、瞑想研究や普及活動を行うようになった。
1980年代 少しずつ科学的な研究が公表され始めた。瞑想法が広く知れ渡ったのである。

いまこの瞬間に、判断をすることなく、さまざまな感覚に気づき、
それを描写し、受け入れることが、マインドフルネス(mindfulness)


1979年 米国の医学者ジョン・カバットジン博士
    8週間のマインドフルネスに基づく
    ストレス低減法(MBSR)をまとめる

1991年 MBSRの成果をまとめた著作がに出版
    以来、鬱病、不安症、摂食障害、不眠症などの精神疾患へと
     適用範囲を広げている。

2000年以降 脳科学者による瞑想研究も多く公表された。
      代表的なものとして、瞑想時にDMNが低下することが
      明らかになっている。

2010年以降 マインドフルネスのワークショップが企業内外で開催
      グーグルやフェイスブックなどでの導入も進む

2014年 マインドフルネスが『TIME』誌で特集

2003年 セルフ・コンパッションという概念が登場

マインドフルネスは判断することなしに、
さまざまな感覚を受容することに重点が置かれている。

セルフ・コンパッションは自己の感情や思考を優しく受け入れ、
他者との共通性を認識することが中心。

コンパッションは、「思いやり」「優しさ」とは異なる。仏教の
・あらゆる人の幸せを願い(慈)
・あらゆる人の苦しみがなくなることを願い(悲)
・あらゆる人の幸せを喜び(喜)
・偏りのない平静で落ち着いた心(捨)
からきている。

発展 米国の自己心理学者クリスティーン・ネフ博士
   自尊感情を高めることが幸福ではなく、
   自尊感情が高くなくても、セルフ・コンパッションが高い人は
   自己受容しており、幸福感が高く、不安や抑鬱が低いこと実証

   英国の臨床心理学者ポール・ギルバート博士
   他者との温かい愛着関係を思い出し、
   優しく安全でつながっている感覚に気づき、
   それと同じ優しさを自分に向けることで、恥や罪悪感といった
   強い否定的感情などを和らげる心理療法である


5)ストレスを解消(レジリエンスを高める)

障害や不健康な緊張(英語ではディストレス(distress))を
引き起こすストレスは、個人とビジネスの成功に直接悪影響を及ぼすから、
大きな心配の種である。

世界中の150万人以上の従業員を対象とし、
12年をかけたグローバル・コーポレート・チャレンジの調査では、
たとえば極度に高いストレスを抱えた従業員の63%が
平均以上の生産性を上げた。

しかし、この数字はまったくストレスを感じないと答えた人々では、
87%に大きく上昇した。

同じ調査で極度に高いストレスを抱えると訴えた従業員の77%が、
平均以上に高い疲労レベルを感じ、
長期的バーンアウトの初期症状を示した。
事実、バーンアウトは、慢性ストレスの遅行指標である。

悪いストレスが生産性に影響を及ぼしている。
ストレスを解消し、レジリエンスを高めるには。

1.マインドフルネスのエクササイズを取り入れる

2. 認知負荷を区分しよう

インスティテュート・フォー・アプライド・ポジティブ・リサーチの共同創設者で、『幸福優位 7つの法則』の著者であるショーン・エイカーによると、
人は毎秒1100万ビットの情報を受信しているが、
実行を司る脳の中の思考センターで効果的に処理しているのは、
40ビットにすぎない。

あるタイプのタスクから別のタイプに切り替える時に
雑音を締め出すのは難しく、
米国心理学会の最近の調査では、40%も能率が落ちるということを
考慮すれば、区分が役立つ。
切り替える時には、可能な限り状況の変化を避ける。
一日のうちに、特定の仕事に関連する活動のためだけの時間をつくり、
その他のことはしない。

3. 仕事と切り離された休憩を取ろう

勤労する一日を通して、誰もが経験するエネルギーと
生産性の山と谷に注意を払うことが重要である。
これをウルトラディアン・リズムと呼ぶ。
精神の集中、明瞭さ、エネルギーなどのサイクルは、
通常90分から120分の周期であるから、
ほんの数分でも仕事から離れて、エネルギーと
注意力をリセットすることが役立つ。

このアプローチに関するエビデンスは、
アンダース・エリクソンの研究に表れている。
エリクソンは、バイオリンの名手が練習時間を区切って90分以上は続けず、
間に休憩を取ることを発見した。
研究によると、業務活動と、短時間であってもその活動から
離れる時間のバランスを取ることが、より大きなエネルギー、
気持ちの明瞭さ、想像力、精神の集中を促進し、
究極的には働く一日を通してレジリエンスに向かう能力を育む。
長期的な効果としては、1日、1週間、1カ月にわたって
エネルギーを温存し、バーンアウトを予防する。


4.精神的な敏捷性を開発しよう

心理学者リンダ・グラハムはこれを
「休み、一歩下がり、思考し、観点を移し、選択肢をつくり、賢く選ぶ」
と表現している。

動揺している子どもに対して、よく「自分の言葉で言ってごらん」など
と言うが、これは、感情を停止させレッテルをつけることが、
脳内の感情的な中心部ではなく、
考察する中心部を活性化させることにつながるからである。
要求度が大きく高業績を目指す、
いずれの職場でも役立つ貴重なスキルといえる。

5.コンパッションを養おう

レジリエンスのスキルセットで最も看過されがちなのが
コンパッションの育成である。
自分へのセルフ・コンパッションと他者へのコンパッションの両方がある。
カリフォルニア大学バークレー校のグレーター・グッド・サイエンス・センターの研究によれば、
コンパッションはポジティブな感情を増し、
ポジティブな職場の人間関係をつくり、
協力関係とコラボレーションを高める。

 

次のページ(3)セルフ・コンパションとは、どうすれば良いのか?

1

2

3 4

第69回『日本の誇れる経営者の歴史』~今一度、経営の素晴らしさを先人の功績から学び直そう~前のページ

第71回 『日本高齢化加速、人口ビジネスを知っておこう』~人口ビジネス!それでは行き詰まるどう変化するか?~次のページ

関連セミナー・商品

  1. 経営に活かす「リーダーの言葉」

    音声・映像

    経営に活かす「リーダーの言葉」

  2. 「リーダーの名言講話集」

    音声・映像

    「リーダーの名言講話集」

  3. 飛躍するASEANに未来を見るCD・ネット配信講座

    音声・映像

    飛躍するASEANに未来を見るCD・ネット配信講座

関連記事

  1. 第5回 続・どうしたら、変わり続けられるのか?

  2. 第3回 お客様に繰り返しご利用いただく会社創り

  3. 第21回「経済は縮小傾向が続きそうだ」

最新の経営コラム

  1. 第183回 菊寿司 @福島県相馬市原釜 ~地魚主体の握り

  2. 第七十一話_禁断の組み合わせから地域活性化へ - 和歌山県田辺市のうなぎ販売展の革新的ビジネスモデル

  3. 第179回 米国に制裁されても反米しない華為

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. そのひと手間を、誰かが見てくれている。

    教養

    第118回『そのひと手間を、誰かが見てくれている』(著・中谷彰宏)
  2. 税務・会計

    第2回 有償解除を活用して、担保を外しなさい!
  3. マネジメント

    逆転の発想(27) 戦場で負けても政治で勝てる(豊臣秀吉)
  4. 社長業

    Vol.76 「志が最強の武器」
  5. 健康

    第38号 「世界No.1」
keyboard_arrow_up