2 人は不完全ないきものであるという事実と不安心理
人という生き物は、集団のなかで自分の弱みを見せることや、不完全な面を見せることについて、常に不安を抱えているものです。一方、人は誰一人として完璧ではなく、むしろたくさんの弱みを合わせ持つ存在です。とすると、弱みを隠して生きることは、自分自身を隠し、本当の自分を知られることを畏れながら生きることと近似します。このような畏れが組織内に蔓延していると、安心して自分を開示し合い、信頼関係を築き、必要な時には助けを求めて成長の機会を互いに提供し合うチャンスが得られません。こうした、人間が根源的に持っている心理的な背景をベースとして、エドモンソンは、組織内のコミュニケーション研究の中で、以下の4つの不安を指摘しています。
3 心理的安全性を脅かす4つの不安
➀「無知だと思われる不安」
人は、自分が何かを知らないと思われることを怖がります。みなさんも、本当は知らないことなのに「知らない」と言えず、知っているふりをした経験はありませんか。それは、知らないと伝えることで自分の評価が下がり、馬鹿にされるのではないかという不安があったからではないでしょうか。
人はだれしも、すべてのことを知っているわけではなく、むしろ知らないことがあって当然です。にもかかわらず、このような不安を抱いてしまうその感覚が、エドモンソンのいう「無知と思われる不安」なのです。
無知と思われる不安があると、わからないことがあってもわからないと言えず、つまり、質問や率直な相談ができなくなります。それによって、一人で問題を抱えてしまい、対応の遅れやミスにつながる可能性が高まります。
➁「無能だと思われる不安」
人は、自分が能力がない人間だと思われることも怖がっています。能力がないとみなされると、仲間として必要ではないと思われるのではないかという根源的な不安があるからです。そして、人は社会的動物であり、自分が所属する集団(組織、社会)から見放されると、生存自体が脅かされるという運命を背負っています。そこで、無能であることを隠すことで社会から排斥されないように振る舞おうとします。これが「無能だと思われる不安」がもたらす結果です。
それにより、自分の失敗を周りに言い出せず、隠そうとします。また、失敗を自分で取り返そうとして、かえって損害を広げてしまい時には、取り返しがつかなくなることがあります。
➂「邪魔をしていると思われる不安」
人は、自分が他者の役に立つことを望み、人の邪魔になることを畏れます。特に、仕事の場面では、皆が忙しくしている状態で自分が話しかけたり質問をすることで、相手から邪魔だと思われるのではないか、と考えがちです。みなさんも、忙しそうにしている人に声をかけるのをためらった経験が、一度はあるのではないでしょうか。
「邪魔をしていると思われる不安」があると、積極的に人に質問したり、会議で長引くような話題の発言を控えるようになります。その結果、重要な点を質問できない、有意義な意見が埋もれてしまう、といった可能性につながります。
④「ネガティブだと思われる不安」
人は、自分がネガティブな人物だと思われるのを恐れています。できれば、争いやトラブルは避けて、円満な状態を望む気持ちがあるからです。他方で、一見ネガティブな意見の中にも、組織内では、指摘が必要なこともたくさんあります。また、あえて周囲とは異なる意見を挙げることで、お互いに思索が深まり、良い展開になることもしばしばあります。
「ネガティブだと思われる不安」が強いと、率直なフィードバックや相互の指摘が封じられます。また、既存の決定事項をおかしいと思っても、反論する勇気が出ません。それによって、重要なリスクの指摘が得られず、問題が放置されます。
このような4つの不安を軽減し、心理的安全性を高めることで、活発で柔軟なやりとりができる良い組織が出来上がるのです。