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採用・法律

第158回 ファミリー憲章で企業の未来を拓く

中小企業の新たな法律リスク

ファミリー憲章で企業の未来を拓く

田中社長:今日はお時間をいただきありがとうございます。実は最近、同族企業の経営権争いについての話を耳にするようになりまして、他人事ではないなと感じているんです。うちは幸い、今は家族仲も良好で問題はないのですが、私が引退した後、次の世代、さらにその次の世代になった時にどうなるかと考えると、少し不安で。

 

賛多弁護士:なるほど、ファミリービジネスを経営されている多くの方が同じような懸念をお持ちですよ。世代交代が進むにつれて、創業時の思いが薄れたり、家族間の関係性が変化したりすることは十分に考えられますからね。

 

田中社長:そうなんです。うちは息子が一人おりまして、将来は会社を継いでほしいと考えています。ただ、息子が入社することになった時、他の従業員たちがどう思うか、というのも気になっていまして。「どうせ社長の息子だから」と、彼らのやる気を削いでしまわないかと。かといって、全く会社に関わらせないのも違う気がしますし、そのあたりのバランスが難しいと感じています。

 

賛多弁護士:従業員のエンゲージメントを気にされているのですね。それは非常に重要な視点です。そのお悩みは、ファミリーとビジネスの関係について、明確なルールがないことから生じているのかもしれません。そうした将来のリスクに備え、企業の持続的な成長を促すために「ファミリー憲章」を定めるという考え方があります。

 

田中社長:ファミリー憲章、ですか?憲章というと、何だか大げさな響きですね。うちはまだそんな大企業でもありませんし、家族間のルールをわざわざ文書にするなんて、少し水臭いような気もします。今は暗黙の了解で上手くいっていますから。

 

賛多弁護士:お気持ちはわかります。しかし、その「暗黙の了解」は、社長ご自身の世代までしか通用しないかもしれません。世代が進み、いとこ同士、はとこ同士となると、関係性も希薄になり、創業者の思いも伝わりにくくなります。ファミリー憲章は、将来起こりうるかもしれない「お家騒動」を未然に防ぐための、いわば「転ばぬ先の杖」なのですよ。

 

田中社長:転ばぬ先の杖、確かに、揉め事が起きてからでは遅いですからね。でも、それはあくまで家族内の問題であって、従業員には直接関係のない話ではないのでしょうか。

 

賛多弁護士:それが、大いに関係あるのです。むしろ、従業員の方々のためにこそ、ファミリー憲章が重要になるとも言えます。あるファミリービジネスの会社で、こんな事例がありました。経営陣の刷新を検討する中で議論が紛糾したため、外部のコンサルタントが創業家以外の役員たちに匿名でインタビューを実施したのです。すると、「どうせ●●家の会社だから」「●●家でなければ社長になれない」といった、普段は聞けない本音が次々と出てきたそうです。

 

田中社長:うっ、それは耳が痛い話ですね。うちの社員も、口には出さなくても同じように感じているかもしれません。

 

賛多弁護士:その会社では、この結果を受けて、「グループ企業の取締役会の半数以上を、創業家出身者以外とする」というルールをファミリー憲章に盛り込みました。このように、ファミリーのビジネスへの関わり方について透明性のあるルールを設けることで、非同族の従業員の方々が「この会社には公平なキャリアパスがある」「能力があれば自分も経営に参画できる」と感じられるようになります。これは、彼らのモチベーションを維持し、優秀な人材の定着を促す上で非常に大きな効果があります。

 

田中社長:なるほど!ファミリー憲章は、単に家族内のルールというだけでなく、従業員に対する会社の姿勢を示すメッセージにもなるのですね。それは考えてもみませんでした。従業員の安心感につながるというのは、確かに大きなメリットです。

 

賛多弁護士:その通りです。特に事業承継の方針が明確に示されていることは、従業員にとって重要です。経営者が突然交代したり、後継者を巡って社内が混乱したりすれば、従業員は安心して働き続けることができません。ファミリー憲章で後継者の選定基準や育成方針を定めておけば、そうした不安を払拭し、経営の安定性を社内外に示すことができます。

 

田中社長:ファミリー憲章の重要性はよくわかりました。では、具体的にはどのようなことを定めればよいのでしょうか?

 

賛多弁護士:まずは、会社の土台となる「理念や価値観」をファミリーで共有し、明文化することが第一歩です。なぜこの事業を始めたのか、社会に対してどのような価値を提供したいのか、といった創業の精神を再確認し、次世代に引き継いでいくための核とします。

 

田中社長:経営理念の共有ですね。それは大切ですね。

 

賛多弁護士:ええ。その上で、より具体的なルールを定めていきます。例えば、ファミリーが会社のオーナーであり続けるために、株式が分散しないよう譲渡や相続に関するルールを定めます。さらに重要なのが、ファミリーメンバーの入社や役員就任に関するルールです。「創業家出身であれば無条件で入社できる」のではなく、「他社で一定期間以上の就業経験を積むこと」や「特定の役職に就くには相応の能力や実績が求められる」といった基準を設けるのです。これにより、能力のない親族が安易に重要なポストに就くことを防ぎ、従業員の不公平感をなくすことができます。そのほかにも、次の経営者をどのような基準で、どのように選び、育てるのかを明確にする後継者の選定・育成方針や、定期的にファミリー会議を開催するなどして家族間で会社の重要事項について話し合い、意思統一を図るための意思決定の仕組み作りも欠かせません。

 

田中社長:なるほど、多岐にわたるのですね。すべてを一度に決めるのは大変そうですが。

 

賛多弁護士:もちろん、最初から完璧なものを作る必要はありません。大切なのは、まず家族で会社の将来について真剣に話し合うプロセスそのものです。ある会社の事例では、三代目の従兄弟たちが約2年間、毎月集まって議論を重ねて憲章を作ったそうですが、その過程自体が相互理解を深め、コミュニケーションを充実させる素晴らしい機会になったと聞いています。

 

田中社長:確かに、普段は仕事の話はしても、会社の未来や家族としての関わり方について、息子とじっくり話す機会はあまりありませんでした。

 

賛多弁護士:ええ。まずは社長の思いを伝え、息子さんの考えを聞くことから始めてみてはいかがでしょうか。そうして家族としての共通認識を築いた上で、少しずつルールを明文化していくのです。それは、田中社長が大切にされている従業員の方々にとっても、会社の未来を明るく照らす道しるべとなるはずです。

 

田中社長:よくわかりました。ファミリー憲章が、家族のためだけでなく、従業員のモチベーションや会社の持続的成長にも不可欠な経営ツールであるということが、腑に落ちました。これは「転ばぬ先の杖」として、今から真剣に取り組むべき課題ですね。まずは、息子と会社の将来について語り合う場を設けることから始めてみます。

 

賛多弁護士:素晴らしい第一歩だと思います。その対話が、御社の次の100年を築く礎になりますよ。具体的な進め方で迷われたら、いつでもご相談ください。

***

ファミリー憲章は、単に同族間の争いを防ぐための内向きなルールではありません。それは、ファミリービジネスの強みである「長期的な視点」や「迅速な意思決定」を維持しつつ、弱みとなりうる「公私混同」や「経営の不透明性」を排除するための、極めて戦略的な経営ツールです。特に、ファミリーのビジネスへの関与の仕方を明文化し、従業員に示すことは、非同族従業員のエンゲージメントを高め、優秀な人材の確保・定着に直結します。少子高齢化が進み、人材獲得競争が激化する現代において、従業員から「働き続けたい」と思われる企業であることは、何よりの強みとなります。ファミリー憲章の策定は、企業の未来への重要な投資と位置づけ、早期に着手することが望まれます。

執筆:鳥飼総合法律事務所弁護士町田覚

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