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故事成語に学ぶ(3)狡兎死して走狗烹らる(こうとししてそうくにらる)

指導者たる者かくあるべし

主君に裏切られる韓信

 秦末の混乱の中で、漢の劉邦、楚の項羽の間に割って入り天下を目ざす道を側近の蒯通(かい とう)から説かれた韓信だったが、主君の劉邦の恩を裏切れないと、漢の武将としてとどまることを決断した。
 説得に失敗した蒯通が言い残した言葉が、「狡兎死して走狗烹らる」であった。狩りにおいて獲物のすばしっこいウサギが死ねば、猟犬は不要となり煮て食べられてしまう。
「劉邦が項羽を破ってしまえば、戦の天才である韓信殿は、やがて恐れられ邪魔な存在となるでしょう」
 もはや主君に忠義を尽くす道は叶わない。決断しなければ身を滅ぼすしかない。不気味な予言だった。
 やがて劉邦は韓信の活躍で垓下(がいか)に項羽を破り、天下の覇権を手に入れ漢王朝の祖となる。劉邦は韓信を疎んじて楚王に移封する。さらに「韓信に謀反の疑いあり」との讒言を受けて劉邦は韓信を捕え、兵権を持たない淮陰の地方官に追放した。予言通り、韓信は邪魔者になったのだ。

 

 時や遅し

 ことここに至り、韓信は劉邦に不信を抱く。盟友と図って謀反を企てる。しかし襲撃対象だった劉邦の妻の呂后と太子にばれて、韓信は捕縛され斬られた。
 宮仕えとは、往々にしてこうしたことが起きる。組織に忠義を尽くしても、能力が傑出していればこそ、うまく使われ、不要となれば邪魔者扱いされる。決断のタイミングは必ずあるが、遅れれば切り捨てられる。
 宮仕えでなくとも、こうしたことは組織の常である。決断できずに窮地に陥った企業にコストカッターとして迎えられ、あらゆるわがままが許され、業績がV字回復すれば、それまで見逃されてきた強引な企業運営と私物化が洗い出されて罪に問われる。
 目的が果たされれば、三顧の礼で迎えた天才的な企業運営能力など不要なのだ。いや邪魔となる。

  「あの時、忠告を聞いておけば」
 韓信は縛り上げられ斬られるに際して、こう述懐した。
 「わしは、あの時の蒯通の計略を採用せず、かえって女子供の手にかかった。これも天命というものだろうな」
 劉邦の恨みは深く、韓信の一族郎党は皆殺しとなり、天下統一戦での功績は全て消された。
 『史記』の著者の司馬遷は、韓信伝をこう結んでいる。
 「もし韓信が道理を学び、控えめで自分の手柄を誇らず、その能力を自慢しなかったならば、後世、皇室の廟に祀られたであろう。おのれの枠から抜け出る努力をせず、天下が収まった後になって反逆をはかった。一族が皆殺しになったのも当然かもしれない」
 有能なるものが天下を取るか取らぬかは、紙一重の差なのだ。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『世界文学大系5B 史記★★』司馬遷著、小竹文夫・小竹武夫訳 筑摩書房
『中国古典選21 史記四』田中謙二・一海知義著 朝日新聞社
『中国古典名言事典』諸橋轍次著 講談社学術文庫

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