育児・介護休業法の改正法が2025年10月1日から施行されます
深謀社長は、東京都八王子市でアウトドア用品の製造・販売を事業とするA社を経営しています。
最近、深謀社長は、同業の会社の社長から、育児・介護休業法の改正法の施行に伴う就業規則の見直しが大変だったという話を聞いて、大変驚きました。深謀社長は、同法の改正のことを全く知らず、A社でも何の対応もとっていなかったからです。
深謀社長は、長年、カヌーやカヤックの同好の士である賛多弁護士の法律事務所を訪問しました。
深謀社長:育児・介護休業法の改正法が施行されたという話を聞いたのですが、私は全く初耳で、当社でも何の対応もしていません。どのような改正がされたのでしょうか。
賛多弁護士:確かに育児・介護休業法は頻繁に改正され、その内容も非常に複雑化しているので、企業がそれに対応していくのは本当に大変だと思います。
今回の改正法は2024年5月に可決・成立したのですが、その改正事項は、2025年4月1日と同年10月1日に段階的に施行されることになっています。この度、社長が聞いたのは、後者の10月1日から施行される改正のことだと思います。
深謀社長:改正の内容を具体的に説明してくれますか。
賛多弁護士:2025年10月1日から施行される改正事項は、①柔軟な働き方を実現するための措置等の義務付けと、②仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務付けの2つです。まず、①から説明します。
深謀社長:お願いします。
【①⑴育児期の柔軟な働き方を実現するための措置】
賛多弁護士:事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下の5つの措置の中から2つ以上を選択して導入し、労働者がその中から1つ利用できるようにすることが義務付けられます。
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⑴ 始業時刻等の変更(フレックスタイム制、時差出勤の制度のいずれか) ⑵ テレワーク等(10日以上/月) ⑶ 保育施設の設置運営等(これに準ずる便宜の供与をするものを含む。) ⑷ 新たな休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年) ⑸ 短時間勤務制度(1日の所定労働時間を原則6時間とする) |
なお、労使協定を締結することにより、①勤続1年未満の労働者、②週の所定労働日数が2日以下の労働者、③時間単位で休暇を取得することが困難と認められる業務(例えば、国際路線等に就航する航空機において従事する客室乗務員等の業務)に従事する労働者を当該措置の利用の対象外とすることができます。
深謀社長:分かりました。当社では、⑴と⑵の措置を導入しようと思います。具体的には社内でどのような手続をとればいいのでしょうか。
賛多弁護士:御社の就業規則に、当該措置の内容を規定する必要があります。それから、注意しなければならないのは、事業者が本制度の措置を選択する際には、あらかじめ、過半数組合等(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、そのような労働組合がない場合においては、労働者の過半数を代表する者)から意見を聴かなければならないこととされています。
深謀社長:そうですか。早急に当社の就業規則を見直す必要があるので、その際にもアドバイスをお願いします。①については、以上ですか。
- ⑵柔軟な働き方を実現するための措置の個別の周知・意向確認】
賛多弁護士:いいえ。このような「柔軟な働き方を実現するための措置」を労働者に個別に周知し、その意向を確認する必要があります。具体的には、3歳未満の子を養育する労働者に対して、子が3歳になるまでの適切な時期(3歳の誕生日の1か月前までの1年間。すなわち、1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)に、事業主は、ⅰ柔軟な働き方を実現するための措置として選択した2つ以上の措置の内容、ⅱ対象措置の申出先(例:人事部など)、ⅲ所定外労働・時間外労働・深夜業の制限に関する制度について個別に周知し、制度利用の意向の確認を行わなければなりません。
そして、個別周知・意向確認の方法としては、ⅰ面談(オンラインも可)、ⅱ書面交付、ⅲFAX、ⅳ電子メール等のいずれかとされています(ⅲ、ⅳは労働者が希望した場合のみ)。
なお、個別周知と意向確認は、労働者に制度の利用を控えさせるようなものは認められません。
なお、厚生労働省の指針では、労働者の家庭や仕事の状況が変化する場合があることを踏まえ、その労働者が選択した制度が適切であるかを確認すること等を目的として、その後も定期的に面談等を実施することが望ましいとされています。
深謀社長:詳細に説明していただいて、どうもありがとうございました。
- ⑴妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前の個別の意向聴取】
賛多弁護士:それでは、次に②仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務付けについて説明します。
まず、個別の意向聴取についてです。事業主は、ア労働者が本人又は配偶者の妊娠・出産等を申し出た時と、イ労働者の子が3歳になるまでの適切な時期(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)に、子や各家庭の事情の実情に応じた仕事と育児の両立に関する事項(ⅰ勤務時間帯(始業及び終業の時刻)、ⅱ勤務地(就業の場所)、ⅲ両立支援制度等の利用期間、ⅳ仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等))について、労働者の意向を個別に聴取しなければなりません。
この意向聴取の方法は、①のそれと同じく、ⅰ面談(オンラインも可)、ⅱ書面交付、ⅲFAX、ⅳ電子メール等のいずれかとされています。
なお、厚生労働省の指針では、この意向聴取は、アイのほか、「育児休業後の復帰時」や「労働者から申し出があった際」などにも実施することが望ましいとされています。
深謀社長:そのように聴取した労働者の意向を踏まえて、当社としてはどのような対応をする必要があるのですか。
【②⑵聴取した労働者の意向についての配慮】
賛多弁護士:改正法は、その点についても規定しています。事業主は、聴取した労働者の仕事と育児の両立に関する意向について、自社の状況に応じて配慮しなければなりません。具体的には、勤務時間帯・勤務地にかかる配慮、両立支援制度等の利用期間等の見直し、業務量の調整、労働条件の見直しなどです。
また、厚生労働省の指針では、子に障害がある場合等で、労働者が希望するときは、短時間勤務制度や子の看護等休暇等の利用可能期間を延長すること、ひとり親家庭の場合で、労働者が希望するときは、子の看護等休暇等の付与日数に配慮することが望ましいとされています。
深謀社長:当社も、就業規則の見直しなど必要な対応を早急にしようと思います。賛多先生、詳しく説明していただいて、どうもありがとうございました。
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育児・介護休業法は、育児休業、介護休業その他育児や介護をする労働者のための休暇や短時間勤務等の労働時間の措置について定めた法律ですが、近年、頻繁に改正され、その内容は非常に複雑なものになっています。
2024年5月の改正法のうち、2025年4月1日から施行された改正の内容は、「中小企業の新たな法律リスク」第142回で説明されています。
今回の改正法の2025年10月1日からの施行に伴い、各企業は、まずその内容に適合するよう就業規則等を見直す必要があります。
就業規則の具体例は厚生労働省のWEBサイトにありますので、参考にしてください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/000103533.html
まだ、改正法への対応をしていない各企業の経営者は、厚生労働省のWEBサイトなども参照した上で、早急に対応に着手する必要があります。
「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 橋本浩史



















