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マネジメント

稲盛和夫に学ぶ、社長のための会計と経営判断

楠木建の「経営知になる考え方」

会計は経営の実態を映す「操縦席のメーター」である

 『稲盛和夫の実学』を読むと、経営にとっての会計の意味がよく分かる。経営の目的は企業の長期的な成長と利益にある。会計はその手段だ。手段である以上、目的を達成するための性能を最高水準にまで引き上げなければならない。

 損益計算書や貸借対照表にあるすべての数字は、会社の実態を正しく表すものでなければならない。これらの数字は飛行機の操縦席のコックピットのメーターが示す数字に等しい。数字が経営の実態を表す唯一の真実でなければ経営者は目的に到達することができない。

 こうした稲盛の思想は、固定資産の減価償却をめぐる考え方に明確に反映されている。

 機械を買うとなぜ減価償却が必要になるのか。経理担当者はこう答えるだろう。機械は使っても形を変えずに残っている。原材料のように使えばなくなってしまうようなものとは違う。だから何年も動く機械を買ったのに、一時にすべて費用として落としてしまうのはおかしい。

 そうかと言って、散々使った挙句、捨てるときに初めて費用に落とすというのも非合理だ。その機械がきちんと動き製品を作ることができる耐用年数を決めて、その期間にわたって費用に計上するのが正しい――ここまでは納得がいく。

利益を先送りしない、数字に嘘をつかない経営

 しかし、である。経理の常識では、法定耐用年数に従って償却することになっている。例えば、セラミックの粉末を成型する設備は、陶磁器・粘土製品・耐火物などの製造設備に該当する。耐用年数は12年と定められている。

 ところが、稲盛の経験ではセラミックの粉を四六時中練れば、機械の保守をきちんとしていてもせいぜい5、6年しかもたない。償却は実際に機械を正常に使える年数で行うべきはずだ。

 これに対して、経理の専門家はこう考える。決算書上は6年で償却したとしても、税法上は12年で償却しなければならない。

 もしそうすれば、最初の6年間は償却が増えて利益が減る。ところが税金計算では法定耐用年数での償却となるので、利益が減ってもその分の税金は減るわけではない。税金を払って償却する有税償却になる。しかも、実務的にも償却計算が二本立てになって煩雑になる――。

 しかし、稲盛の原理原則からすれば「有税であっても償却すべき」という結論になる。

 6年でダメになるものを12年で償却したら、実際に使っている6年間は償却が過小計上されることになる。その分が先送りされてしまう。発生している費用を計上せず当面の利益を増やすというのは原則に反する。

 そんなことを平然と続けているような会社に将来はない。慣行に流され、償却は経営的な判断としてどうあるべきなのかという本質的な問題が忘れられてしまっている――法定耐用年数によらず、設備の寿命から判断して「自主耐用年数」を定めて償却を行う。これが稲盛の選択だった。

常識に流される会社は、原理原則を失う

 物事の本質にまで遡らず、「常識」をそのまま受け入れれば、自分の責任で判断する必要はなくなる。とりあえず人と同じことをしておけば、何かと差し障りもない。

 しかし、経営者がこのような考え方であれば、次第に原理原則を踏み外し、手段の目的化に陥っていく。どんな些細なことでも原理原則に忠実に、徹底して考える。それは大変な労力を伴う。しかし、普遍的に正しいと信じることができる判断基準を持たなければ、筋の通った経営はできない。

 企業経営は3つの場で評価される。競争市場と資本市場と労働市場だ。このうち経営者の立場で一義的に重要なのは製品やサービスの競争市場での稼ぐ力だ。

 古今東西、長期利益は経営の優劣を示す最上の尺度だ。長期利益を稼いでいれば、株価も上がり、結果として資本市場の評価もついてくる。儲かる商売があれば雇用を創れる。

 相対的に高い給料や労働条件で、労働市場での評価も上がる。真っ当な競争があれば、長期利益は顧客満足のもっともシンプルかつ正直な物差しとなる。おまけに法人所得税を支払って社会貢献もできる。長期利益はすべてのステークホルダーをつなぐ経営の王道だ。

稲盛和夫が貫いた「売上最大、経費最小」の思想

 稲盛はこの王道を突き進む経営者だった。「土俵の真ん中で相撲をとる」にこだわったのも、長期で継続的に稼ぐ力をつけるためだった。

 「売上を最大に経費を最小に」――稲盛の稼ぐための指針はシンプル極まりない。要するに売上から費用を引いた残りが利益。だとしたら、売上を最大にして、経費は最小にすればいい。

 ここから「値決めは経営」という稲盛の経営の根幹をなす原理原則が出てくる。

 製品の値決めを営業担当の役員や部長に任せておいてはいけない。値段を安くすれば誰でも売れる。お客さまが納得し、喜んで買ってくれる最大限の値段を見極める。それよりも低かったらいくらでも注文を取れるが、それ以上であれば注文が逃げる。このギリギリの一点で値決めをする。値決めは売るため、注文を取るためという営業上の問題ではない。経営の使命を決する問題であり、最終的には経営者が判断すべき重要な仕事に他ならない。

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