menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

情報を制するものが勝利を手にする(17)
ついに時代は李鴻章に追いつかず

指導者たる者かくあるべし

 日清戦争の講和に向けて、あえて露仏独という列強三国の干渉を呼び込んだ李鴻章の策は、中国の近代化を遅らせ、やがてその弊害が全身にまわる、文字通り毒薬だった。

 日清講和条約の批准、締結を機に李鴻章は北洋大臣・直隷総督を解任される。しかし、あくまで西欧化を拒み、攘夷に拘る“清議”という儒教論理ゲームにふける宮廷、官界は激動する世界を前になす術もなく、清国の外交は李が担わざるを得なかった。

 条約締結後、彼はロシア皇帝ニコライ二世の戴冠式参席のため、ペテルブルグに向かう。そして、ロシアとの間で同盟密約を結ぶ。

 日本の大陸進出を恐れる光緒帝の命でもあったが、両国は日本を仮想敵国として朝鮮半島を含めて攻守同盟を結ぶ。したたかなロシアは、日本の影響を排除した満州(中国東北三省)の利権を要求し、シベリア鉄道の三省通過を認めさせた。

 この密約が極東でのロシアの影響力の膨張を招き、日露戦争の引き金となる。そして中国の近代化はさらに遅れ、半世紀にわたり泥沼でのあがきを続けることとなったのは、歴史に見る通りである。

 その足で李鴻章は欧米を歴訪する。各国のパワーバランスを図りながら、李鴻章が終生夢見た祖国の近代化の支援を得るための行脚だったが、成果はなかった。

 ドイツのハンブルグでは、引退したかつての鉄血宰相・ビスマルクと会う。李鴻章74歳、ビスマルク81歳。苦心惨憺の末、近代化を成功させたビスマルクは「近代化のカギは軍事の強化にある」と語り、李鴻章はこう嘆いた。

 「人の数なら中国も十分にある。指導者と軍制の欠如が問題だ。私は三十年にわたり、貴国と同じになれるように、自国の人々に警告してきた。けれども依然として弱体なのはお恥ずかしい限りだ」

 近代化に先んじた日本はどうか。薩長主導の明治政府で政治から遠ざけられながら「日清戦うべからず」と強く主張し李鴻章に共感していた旧幕閣の勝海舟は、日清戦争後、枢密院顧問の立場で、こう警告している。

 「日本人もあまり戦争に勝ったなどと威張って居ると、後で大変は目にあふヨ。剣や鉄砲の戦争には勝っても、経済上の戦争に負けると、国は仕方がなくなるヨ。そして、この経済上の戦争にかけては、日本人は、とても支那人には及ばないだらうと思ふと、おれはひそかに心配するヨ」

 時代を読んだ賢者の予言に聞く耳を持たなかった日本もまた、ここから泥沼の中であえぐ半世紀を経験するのである。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

参考文献

『李鴻章―東アジアの近代』岡本隆司著 岩波新書
『日清戦争』大谷正著 中公新書 
『新訂 蹇蹇録』陸奥宗光著 岩波文庫
『氷川清話』勝海舟著 江藤淳・松浦玲編 講談社学術文庫
『日本の歴史22 大日本帝国の試煉』隅谷三喜男著 中公文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情報を制するものが勝利を手にする(16)相撲に負けて勝負で勝つ前のページ

中国史に学ぶ(1) 赤壁の戦いの真実次のページ

関連記事

  1. 人を活かす(7) 武田信玄の城

  2. 交渉力を備えよ(21) 口約束では味方も説得できない

  3. 万物流転する世を生き抜く(29) ナポレオン軍、冬に飲み込まれ自壊

最新の経営コラム

  1. 第24話 政府が推進する「人的資本経営」と中小企業の人事戦略

  2. 第253回 社長の一問一答「男性社員の育児休暇取得について」

  3. 第79回 塩原元湯温泉(栃木県) 1200年の歴史を誇る黒・白・緑の極上湯

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 人間学・古典

    第116講 「論語その16」 命を知らざれば、君子たること無きなり。
  2. ビジネス見聞録

    ビジネス見聞録WEB p3|今月のビジネスキーワード「メタバース」
  3. マネジメント

    第7回 中央アジアに迫る中国の影
  4. ブランド

    <事例―4 リーデル(B2BとB2C)>購入頻度が限られる食の容器市場で、独自の...
  5. 健康

    第44号 「感情のコントロールが上手な人」
keyboard_arrow_up