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国のかたち、組織のかたち(87) 強大な相手と対峙する⑬(合従策か連衡策か 上)

指導者たる者かくあるべし

 蘇秦(そ・しん)の戦略

 外交においても、企業活動においても、巨大な勢力がガリバー的存在として立ち現れた場合、生き残りをかけて取るべき道は二つに分かれる。個々には弱小でも、ガリバーに立ち向かう意思を共有する仲間を糾合して対処するか、出現した強大ガリバーと良好な関係を築いて生き残りを図りながら力を蓄えるか、だ。

 古代中国においては、前者を「合従(がっしょう)策」といい、後者を「連衡(れんこう)策」という。

 紀元前4世紀、統一王朝の周が統治力を失うと、中国のヘソともいえる黄河中流域(中原)の覇権をめぐり、小国家が分立して戦いが続く戦国時代に突入した。諸勢力はやがて、秦、燕、趙、韓、魏、斉、楚の7か国に糾合されてゆく。「戦国の七雄」の時代だ。その中で、最も西に位置する秦は強大な兵力と経済力を養い、背後を襲われる憂いもなく、東に位置する他の6国を圧迫し始めた。6国は存亡の危機に立たされる。

 その時代に、外交理論家の蘇秦(そ・しん)が現れる。蘇秦はまず秦に仕官を願い出て「現状維持」を訴えるが容れられなかったことから、持論の合従策をたずさえて、「互いに争った過去の経緯を乗り越え6か国が協同して秦に対抗すべきだ。それが国の生き残りと民を安んずる道だ」と説いてまわった。

 思惑の違いを乗り越えてライバルたちを束ねる弁論

 外交を説くといっても、放浪の弁舌家でしかない蘇秦が各国の王、諸侯を信頼させ、同意を得るのは大変だ。司馬遷が書いた『史記』には、彼が駆使した弁論術の詳細が書き留められている。トップとの面会がかなうと彼はまず、その治世と軍備の充実ぶりを誉めて、話を聴く気にさせる。その上で地政学上の弱点を並べて、合従の構想を具体的に示す。個別に秦との和睦を求めても、必ず領土の割譲を求められて、その輩下にくだり、民の不安は拭えないと述べて、連衡策の愚を強調した。

 王、諸侯が隣国との協調の障害を訴えると、「私が使者として説得しましょう」と仲介作業の一任を取りつける。たとえばこんな風に。

 蘇秦はまず、最も北方にある燕に向かう。一年をかけてトップの文侯への謁見がかなうと、蘇秦は、「軍備は十分、軍糧も数年分ある。他国との間には易水という天然の要害もあり安泰だ。だがその安泰も。南の隣国の趙が障壁としてあるからだ。秦が燕を攻めないのは、あまりに遠くて、城を攻め落としてもそれを維持できないためだ」と文侯の気をよくさせる。そして結論。「だが、もし趙が燕を攻めたなら、十日も経たずに敵兵は都に攻め入ってきます。百里の近敵(趙)を憂えずに千里の外敵(秦)を恐れるというのはまちがいです。趙と結んで天下の諸侯が一体となるのが大事です」

 その足で、蘇秦は趙に向かう。趙の粛侯にも、その強国ぶりを「山東一」と称える。その上で、西に秦、東に斉という二大国に挟まれている地の不利を強調し、「両面作戦は取れません。斉と組んで秦に対処するのが得策」と説く。

 秦と国境を接する韓に対しては、「士気旺盛な兵を持ちながら、(秦を恐れて)和議を結ぶなら、戦わずして土地を奪われ、臣下の礼をとる屈辱を味わうことになりますぞ」と恵宣王を脅す。そして、「鶏口となるも牛後となるなかれ(大集団の末尾につくより、小集団のトップであるべきだ)」ということわざを引いて、「賢明な大王が牛後の汚名を着るのに、私は耐えられません」とダメを押す。恵宣王は、目を怒らせ剣を撫ぜながら、「秦には断じて仕えない」と決意を示し、蘇秦の献策に同意した。

 6国同盟の成立

 このようにして、蘇秦の奔走によって6国の同盟にが成立する。蘇秦は6つの国の宰相を兼務し、連合の盟主の立場となる。しかしわれわれは、その後の歴史を知っている。秦は周辺国の包囲網を撃破して勢力を伸ばし、始皇帝の時代に天下を統一して一大帝国を築き上げることを。

 包囲されたかに見えた秦は、張儀(ちょうぎ)という弁舌家が唱える連衡策によって、同盟各国に対し個別に軍事・政治圧力をかけて、同盟分断の仕掛けに乗り出すのである。 (この項、次回に続く)

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考資料
「世界文学大系「史記・列伝篇」司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房

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