ラグビー監督はコーチである
スポーツには、その国民性がくっきりと現れる。例えば「監督」という言葉。わが国では、野球、サッカー、ラグビー、柔道、あらゆるスポーツチームの指揮官はこの単語で表される。
では英語ではどうかというと、大リーグのチームトップは、マネージャーという。現場のチームマネージメントが仕事であることがよく分かる。
その他、多くのスポーツでは「コーチ」と呼ぶ。一般のコーチと区別するときには「ヘッドコーチ」。勝つための戦術と練習を授けるコーチングが役割であると認識されている。ディレクターチェアにふんぞり返っている権威の象徴である「監督」とはニュアンスが異なる。
2011年暮れ、ラグビー日本代表のヘッドコーチに、オーストラリアから日系のエディー・ジョーンズが招聘(しょうへい)された。
精神主義を排除する
エディーには、2015年に英国で開催されるラグビーワールドカップでの上位進出が託された。コーチとして国際舞台で輝かしい戦績を誇るエディーだったが、いささか荷が重かった。それまで、日本代表は、1991年以来、2つの引き分けを含み18戦未勝利だったのだ。
「日本ラグビーを変えるには、ワールドカップで勝つことしかない」。エディー流にチームを改革する戦いが始まった。
日本ラグビー、とくに人気の高い大学ラグビーでは精神主義が横行していた。あるチームでは、ライバル校との決戦前に水盃を交わし、その盃を床に叩き割って、グランドへ向かった。グランドでは、ピンチになると、「気持ちを入れろ」と互いを鼓舞しあう。
「あれはナンセンス」だと、エディーは選手たちを諭した。「そんな“気持ち”は5分か10分しかもたないだろう。ラグビーは80分間のゲームであり、メンタル的にも一貫性をもって試合を継続しなくてはいけない」
すべきことを明確にさせる
強い精神状態の一貫性を保つためには、ゲームでやるべきことを明確にしておくことが重要だという。その明確さとは?
「具体的にどのようにプレイするか、そのためにどのように練習するか、チーム内での自分の役割は何か、ということ」。それでも、ゲームへのモチベーションが上がらなければ、チームを去れ!
「日本人の長所は、我慢強いこと」と、ヘッドコーチ着任後ほどなく見抜いたエディーは、厳しい練習を強いた。目標が明確なだけに、代表選手たちは泣きながら合宿についてきた。
「まず目的地がある。でも組織においては、誰かが常に先を見てリードしなければ、目的地にはたどり着けない」
エディは、自らにも明確な目標を課した。
「2015年のワールドカップでは、まず初戦の南アフリカ戦に勝つ!そして波に乗る」。優勝候補の筆頭に勝つという目標。だれもがその時点で絵空事だと考えていた。(この項、次回に続く)
(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
※参考文献
『ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズの言葉 世界で勝つための思想と戦略』柴谷晋著 ベースボール・マガジン社