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国のかたち、組織のかたち(54) 永世中立の努力(コスタリカ 下)

指導者たる者かくあるべし

 教育こそ平和の礎

 憲法で常備軍の保有を禁止したコスタリカが掲げた「(廃止した)兵士の数だけ教師を」の掛け声は、単なるスローガンではない。教育こそ民主主義を育て国を守る基礎だとして力を入れてきた。

 同国のGDP(国内総生産)は、865億ドル(約12.5兆円、世界銀行調べ2023年)と、愛媛県一県程度の経済規模だが、教育予算は国家予算の30%を占めている。しかも憲法で、予算編成にあたって「教育費はGDPの6%を下回らないこと」と規定したが、2015年からは、憲法を改正してその下限を8%に引き上げている。コスタリカは近年5%の経済成長を見せているが、経済が拡大すれば、教育費も増えていく仕組みを持っている。

 国防費をG D P比で規定する国は多いが、教育費の保証を盛り込んだ憲法も珍しい。

 国連統計によれば、国民の識字率は98%を超えて中南米諸国では突出している。

 個人の自立を促す

 教育制度は、6・3・2制をとっており、6歳で入学の小学校と、中学校の前半3年が義務教育で日本と同じだ。軍備廃止の恩恵である潤沢な教育予算のおかげで、義務教育期間9年間は、一般市民が通う公立、比較的家計に余裕がある家庭の子弟が通う私立ともに、学費は無償だ。さらに就学前教育の幼稚園(2年)も無償となっている。日本がようやく動き出した教育無償化の先を行く。

 一般に国家は、国民の統合のために公教育に力を入れるが、コスタリカでは、発展途上国によく見られる「滅私奉公」教育はしないのだという。逆に、個人の確立に重点が置かれている。自由民主主義の定着と平和主義の発展のために教育が必要だとの信念に基づいている。

 国語(スペイン語)、算数、理科、社会、外国語の必須教科では、義務教育でありながら落第制度も取り入れ、厳しく学力向上を促すが、ユニークなのは、「市民の権利意識」の授業を強化していることだ。まず、自分とはどういう存在で、どうなろうとしているのかを児童生徒に問いかける。まず、個人の自立を促すのだ。最初に自分が目指す平穏な生き方について考えさせる。自分が社会に対して何ができるか、個人が持つ権利と義務を考えさせる。

 自分が確立できれば、他人の権利を尊重すべきことを学ぶことになる。言い換えるならば、自分の「平和」が確立できれば、他人(隣人)との平和に意識が向く。それを拡大していけば、他国との平和につながっていく、意見が違っても、相手を尊重することで対話による平和的解決が訪れる。

 環境への関心

 他者(隣人)との共生の発想である。コスタリカには、ジャングルの奥には先住民の居住区もある。また、北に隣接する政情不安なニカラグアからの移民も多い。共生の考え方なしには、国内の治安も維持し難いことを教育省は強く意識している。

 さらに個人同士の共生の発想は、自然との共生へとつながっていく。コスタリカの各大学で、環境問題の研究が盛んなのも自然な流れなのだ。

 2021年1月22日、国連で全面的な核兵器の廃絶を目指す画期的な核兵器禁止条約(T P N W)の批准国が50か国を超えて発効した。核兵器の開発、実験から、製造、備蓄、威嚇としての使用まで包括的に禁止するこの条約の成立にコスタリカはマレーシアとともに、中心的役割を果たしてきた。1996年に始まった原案作成から取り組み、2017年に国連の委員会で採択されるまで、コスタリカは国際舞台で参同国あつめに奔走した。

 一国の平和は、一国の軍備廃止だけでは達成できない。大国におもねることなく、広く国際社会が平和の意義を理解することが必要だとのコスタリカの国家としての信念の帰結としての実践だ。口先だけでの「平和教育」は虚しい。

 同条約の批准国は、世界で73か国に達している。唯一の被爆国である日本は、条約批准をいまだ留保したままである。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考資料
 『コスタリカ 「純粋な人生」と言いあう平和・環境・人権の先進国』 伊藤千尋著 高文研

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