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<事例―16 和歌山電鐵貴志川線貴志駅の駅長を務める三毛猫の「たま」(B2C)>日本の民営鉄道として初めて駅長に猫を起用した取組み・・・それが和歌山電鐵貴志川線貴志駅と駅長の「たま」だ

酒井光雄 成功事例に学ぶ繁栄企業のブランド戦略

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●ブランドは「高級」「高額」とは限らない
 
 ブランドと聞くと高額な時計や鞄、衣料品などを想起する人がいるが、もっと身近なところでブランド価値を発揮している企業や商品が存在する。
 
 その代表例がW・ディズニーが生み出したミッキーマウスやクマのプーさん(元々は英国生まれの童話)、サンリオのキティちゃん、ご当地キャラクターのくまモンなどに代表される「キャラクター・ブランド」だろう。
 
 キャラクター・ブランドは人気が出ると映画やテレビ、キャラクターグッズ(ぬいぐるみ・文具・Tシャツなど)、さらにゲームソフトなどにも展開でき、企業にとっては大きな収益源になる。くまモン人気に刺激され、地方自治体がご当地キャラクター(ゆるキャラとも呼ぶ)づくりに取組んでいるが、人気が出るものは僅かで、キャラクター・ブランドは容易につくれるものだとは考えない方がよい。
 
●無人駅の駅長に猫を起用した快挙
 
 和歌山県で南海鉄道が運行していた貴志川線が赤字で廃止されることになり、その後任として両備グループが引き継ぐことになり、同グループの岡山電気軌道の子会社として和歌山電鐵が設立された。
 
 南海電鉄が所有していた線路や駅の敷地は貴志川町(現在は紀ノ川市)の所有に変わり、敷地内にあった猫の小屋も撤去されることになった。猫の飼い主は猫小屋がなくなったために困り、開業記念式典に列席していた両備グループ代表の小嶋光信氏に、駅の中で猫を飼わせてもらえないかと相談する。
 
 そこで小嶋氏は猫を駅長にして、招き猫にしようと考え、無人駅の貴志駅の駅長に任命する。日本民営鉄道史上初めての試みはすぐさまメディアに取り上げられ、駅長になった雌の三毛猫の「たま」をひと目見ようと大勢の人たちが貴志駅に訪れるようになる。
 
 「たま」の報道は国内メディアだけでなくアメリカのCNNにも報道され、海外でも知られることになる。同社では「たま」をブランド資源として「たま電車」や「代理出張用の着ぐるみ(高齢になり出演依頼が来てもたまが出られないため)」「バッグや文具などのたまグッズ」を制作。さらに写真集やDVDが制作され、フランスのドキュメンタリー映画「ネコを探して」や邦画「猫ラーメン大将」に出演するなど、同社のブランド資源になっている。さらに2013年1月5日に「たま」は数々の業績により和歌山電鐵の社長代理に任命されている。
 
 
 
<和歌山電鐵貴志川線貴志駅と駅長の「たま」の事例に学ぶこと>
 卓越した経営者は物事を柔軟に考えて、実行する。とはいえ、招き猫になるように、猫を無人駅の駅長に起用するという発想は誰にでもできることではない。経営者の判断ひとつで、新たなブランド資源が誕生した「稀有な事例」だ。
 「たま」が注目されてブランド資源になった背景には、「猫好き人口の規模」「猫を駅長に起用したユーモア」「猫に住まいを提供した企業としての優しさ」「無人駅の魅力づくり」という企業視点があり、同社が猫を「キャラクター・ブランドへ育成」していった取組みが功を奏していることがわかる。
 
 
 
 
 
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