連合による春闘の第3回集計結果では、全体平均で17,358円・5.42%と昨年同時期を上回りました(昨年同時期比1,321円増・0.18ポイント増)。このうち300人未満の中小企業は13,360円・5.00%(同1,263円増・0.31ポイント増)と、第2回集計結果(4.92%)を上回り5%台に達しています。また、賃上げ分(ベア分)が明確にわかる企業では、ベア分が全体平均で12,274円・3.82%(同1,196円増・0.19%増)、300人未満の中小企業で10,118円・3.73%(同1,609円増・0.52%増)となっています。
3年前までの春闘での妥結状況から考えれば、この23年以降の大幅な賃上げは人手不足に起因するものとも言えますが、今後、中小企業が賃上げを検討する上で視野に入れなければならないのは急騰する「最低賃金への対応」という側面です。最低賃金は時給で表されるため、得てしてパート・アルバイトの給料に目が向きやすいのですが、当然に正社員もその対象となるわけです。
岸田前総理は、2030年代半ばまでの最低賃金 全国平均1,500円到達を目標としていましたが、石破総理はこれをさらに早めた2020年代での到達を目指すと表明しました。2024年10月、最低賃金は全国平均1,055円と前年度比51円引上げられましたが、2029年までの5年間で目標値である1,500円まで、あと445円引上げなければならないとすれば、単純計算で年89円ペースの引上げが5年間に渡って必要になります。これを月額換算すると、所定労働時間が月168時間の会社であれば14,952円(@89円×168時間)に相当し、5年間で合計74,760円の引上げとなります。このとき、最低賃金の月額は252,000円(@1,500円×168時間)に到達しますが、もう5年後に迫っているのです。25万円と聞くと、現在の大手企業における大卒初任給の金額イメージかもしれませんが、あと5年後には中卒や高卒でも25万円を提示しなければならなくなるのです。
これは採用初任給に限った話ではありません。もちろん既存社員にも適用されるのです。連合300人未満の中小企業の所定内給与額が平均25~26万円ですので、多くの中小企業で25万円を下回る社員が多数存在しているのが実情です。5年間のうちに、この社員たちも全員25万円をクリアしなければならないのですから、初任給だけを引上げれば済むという話ではありません。明日のわが社を担う人材を辞めさせないためには、全ての中小企業にとっても計画的・戦略的なベースアップの実施は必須の経営マターです。
繰り返しとなりますが、「正社員の最低賃金25万円時代」は、早くて5年、どんなに遅くとも10年以内には確実に到来するでしょう。皆さんは、このことを正しく認識されているでしょうか。5年後、10年後を見据えたベースアップをされてますか。65歳定年制が遠からず義務化されるであろうことなども踏まえ、賃金カーブの見直し等も合わせて検討すべき課題として意識されるようになっています。
厳しいことを申し上げるようですが、「今年だけ大幅なベースアップを行って乗り切れればOK」ではないのです。向こう5年間、毎年約15,000円のベースアップを続けるために必要となる原資をどのように調達するのか?
そこでは、従前と変わらない経営スタイルの延長ではなく、抜本的かつコペルニクス的な事業戦略の転換が求められるかもしれません。読者の皆さんの心配をいたずらに煽るつもりは全くありませんが、正しい認識と適正な危機感をもって、今後の賃上げに臨んでいただきたいと思います。