合理的な等級制度下の賃金体系 ①責任等級制の確立
中小企業の強みは、事業規模が小さいが故のフットワークの軽さや機動力にあると考えられます。にもかかわらず、いま運用されている賃金制度が、実質的に身分資格化された年功賃金となっているようでは、社員の自律が阻害され、チャレンジングな組織風土など望めなくなるものです。組織の動脈硬化が進まないようにするためにも、このような処遇体系は早急に改めなければなりません。
年功的な身分資格がいつまでも温存される一因に職能資格制度があります。職務遂行能力を客観的に測定でき、発揮能力や生産性に応じた等級運用が出来るのであれば問題ないのでしょうが、職務遂行能力を謳いながらも、その判断においては年功要素(年齢・学歴・勤続)が代用基準とされがちなことから、実際は緻密に仕組み化された序列資格階層構造に陥りやすいものです。
合理的な賃金制度実現のためには、賃金と仕事のミスマッチを回避し、生産性に直結した処遇実現に向けて、仕事ベースでの等級制度を構築することが何よりも大切になのです。
仕事上の責任区分を切り口として、全ての社員が分かるように説明できる賃金制度へと作り替えていくにあたって、その屋台骨となるのが仕事基準の等級制度です。ここでは実際の責任等級制度のサンプルを取りあげて、その概要を説明しましょう。
責任等級とは「仕事の質」、すなわち仕事の責任の重さと仕事の難しさの度合いで等級をまとめ、区分したものです。 個々の社員の裁量で遂行できる業務範囲(=責任範囲、仕事の間口の広さ)を責任の大きさの段階として整理し、会社ごとの基準に従って区分したものを責任等級制と呼んでいます。等級ごとの責任の重さのイメージを図示すると、次のように表示することができます。
仕事の責任の重さと階層区分
個々の社員の等級を決定することを等級格付と呼びますが、責任等級制ではあくまでもその社員に任せる仕事の責任レベルで等級が決定されます。本人の保有能力や実績から判断される資格階層の下での等級格付とは異なり、会社が命じている職制上の責任範囲を基準として何等級になるかが決まるため、等級格付けは経営判断に基づいて客観的に決定されることになります。
この等級格付は、正社員だけではなく、有期雇用契約の契約社員やパートタイム労働者にも、またフルタイム勤務であるか短時間勤務であるかにも関係なく適用できます。全ての従業員に対して、全く同じ役割責任を基準として、等級格付けを行うことができるのです。
責任等級別の仕事の内容
責任等級別にその仕事に対する基本給額を定めたものが基本給表=本給月額表です。
次回のコラムでは、今後の採用初任給や最低賃金の引上げ、自社の戦略的なベースアップを実現するうえでの基盤をなす賃金テーブルの基本構造についてお伝えします。(続く)