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人事・労務

第60話 評価項目と着眼点の整理 — 管理職育成のための制度運用の要

賃金決定の定石

 評価制度を人材育成の器として機能させるためには、制度の「中身」、すなわち評価項目とその着眼点の整理が欠かせません。自社の人事制度の理念軸の1つに「人材を育て上げることの大切さ」を掲げるならば、評価項目はその理念を具現化するためのロードマップであり、着眼点はその道標なのです。


 特に課長クラスの管理職に対する評価では、「能力」そのものを抽象的に測るのではなく、「期待される職責をどのように果たしたか」を具体的な行動や成果に基づいて判断することが重要です。たとえば「統率力」という能力指標にダイレクトに点数をつけるようなことはせず、「部下に対して方向性を示し、主体的な行動を促したか」というように、評価項目を行動ベースの着眼点に落とし込むようにすれば、評価者の視点がすり合わされ、被評価者にとっても「何をすればよいか」がクリアになります。


 実際に管理職への評価項目を整理する際は、評価要素を「服務」「就業活動」「管理監督」「指導調整」「審査報告」などの領域に分け、それぞれに4つ程度の着眼点を設定すると、必要な項目が網羅され、評価業務も円滑に進めやすくなります。

【服  務】 命令の内容の理解と仕事への取り組み態度
【就業活動】 適切な計画策定と適正な業務配分
【管理監督】 部下の取り扱いや仕事の進捗状況の把握
【指導調整】 仕事の指導と効率的運用
【審査報告】 結果の公正な判断

 ここでは5つの評価要素ごとに4つの評価ポイントを定め、全20項目の着眼点を設定するものとして説明を進めます。評価結果への納得感という点から見れば、評価項目は多すぎても少なすぎても好ましくありません。全20項目でなされる評価は、評価を受ける側にも評価をする側にとっても、全体像が掴みやすく、強みや弱みが整理しやすいボリューム感だと言えましょう。


 実際に着眼点を設定する際には、まず評価ポイントのタイトルを絞りこみ、それぞれについて「管理職として求められる行動をとっていたかどうか」を設問として文章化したものを、そのまま「評価期間中の成績に対する着眼点」として設定し活用することをお勧めします。


 たとえば監督者に求められる職制上の役割責任である「服務」を評価要素として考えてみましょう。服務とは、文字通りに「職務に服すること」を言いますが、ここでは職場や組織を預かる者としての取り組み態度を問う項目として位置づけます。


 自社としてどのような項目に重点を置くかは、会社ごとの考え方や価値観が反映されて良いと考えますが、私どもの標準モデルでは評価項目ごとに4つの評価ポイント(=着眼点)に展開して評価するようにしています。以下は、【服務】につき4つの着眼点を設定した場合のモデル例です。

【監督者としての基本姿勢】
  監督者としての立場を自覚して部下との関係を築いていたか
【学びの姿勢と成長意欲】
  自ら進んで知識や技術の習得に努め、日々の業務に活かしていたか
【安全管理への努力】
  職場の安全衛生や作業環境の維持向上に意識的に取り組んでいたか
【連絡報告の適切さ】
  仕事上の連絡や上司への報告は、適時適切に行なわれていたか

 このように、業務行動ベースで着眼点を設定することで、評価が印象ではなく業務実態に基づいたものになります。


 評価基準として設定された着眼点の文言をもとに、週報や面談記録、1on1の記録などを活用して「観察すべき行動」や「記録すべきエピソード」の確認を進めれば、評価時の迷いやばらつきを減らすことができます。


 さらに、このように着眼点を整理することは、評価の精度が高まるだけでなく、部下育成のための材料にもなります。「次にどんな力を伸ばすか」「どんな行動を増やせばよいか」といった具体的なフィードバックに繋げやすくなり、管理職の成長を後押しすることになるからです。


 こうして、理念を制度へ反映させ、それを運用へ落とし込み、その運用がさらに人材育成につながっていく──この流れこそが管理職の育成の基盤となり、「人を育てる会社」という文化の形成にもつながるのです。

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