新しい年を迎えると、経営者の視線は自然と経済動向へ向かいます。昨年から続く物価上昇は依然として高止まりし、エネルギー価格や物流コストは今後も緩やかな上昇が続く見通しです。一方で、労働市場では慢性的な人手不足が続き、採用に苦戦している会社は少なくありません。こうした環境の中、昨年に引き続き、今春の「賃上げ」にも大きな関心が寄せられています。
大手企業は今年も5%超の賃上げを打ち出すと見られています。これについては経営側・労働側・シンクタンクの見立てがほぼ一致しており、社会全体として「賃上げを続ける」ことの重要さが認識されていることを示しています。しかし、中小企業に目を向けると、状況は決して楽ではありません。物価上昇に見合う価格転嫁が十分に進まず、賃上げの原資をどう確保するかに頭を抱える経営者も多いはずです。
とはいえ、「うちは厳しいから世間並みのベアなんてムリ」と言ってしまえば、人材は静かに去っていきます。かといって、「物価上昇を上回る賃上げの実現」を理想に掲げても、現実の総額人件費増大を前に躊躇されることもあるでしょう。中小企業の経営者が直面しているのは、この二つの間にある“言葉にならない葛藤”なのだと思います。
だからこそ、近年の賃上げは「額」や「率」だけで語るべきではないと思うのです。社員が見ているのは、このような目に見える数字以上に、「会社が自分たちの生活をどう考えているのか」という経営者のホンネです。たとえ小幅であっても、「今年はこういう考えで賃上げに取り組む」「来年・再来年はこういう形で改善していきたい」と、経営トップ自身の言葉で語ることが大切です。社長のひと言が社員の心に直接届きやすいのが、中小企業の強み。その言葉が、社員の目の色を変え、覚醒のきっかけになることさえあります。
そしてもう一つ、忘れてはならない視点があります。
人を育てて生産性を上げられない会社は、いずれ人材という源泉が枯渇していく。逆に、人手は揃っていても世間並みの給料が払えないビジネスモデルも、長い目で見れば淘汰されてしまう。
これらは厳しい現実ではありますが、目を背けることのできない大前提でもあるのです。
ただし、ここで大切なのは、不安だけに押し流されることなく、どんな未来をつくりたいのかを社長自らの言葉で描くことです。その核となるのが、人材育成への視点です。
一般に、設備投資は、将来の売上や効率化のための“先行投資”と位置づけられます。同じように、社員のやる気に火をつける賃上げも、実は立派な“人的投資”の一つです。社員が成長し、生産性が上がり、その成果が新たな賃上げ原資を生むのなら、ここ数年の賃上げは未来に向けた先行投資と言えます。
賃上げは「給与改定」だけにとどまらず、「人を育てる」ことに直結するテーマでもあるのです。
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今年の賃上げに向き合うことは、経営者にとって覚悟を伴う決断となるかもしれません。しかし、その覚悟こそが会社の未来へとつながる第一歩です。
中小企業なればこそ、経営者の言葉が社員を動かし、社員の成長が会社を押し上げる。小さな取り組みの積み重ねでも、確実に未来を変える力となるでしょう。
2026年、経営者の覚悟と未来図が賃金政策上でも、確かな1つの形となり、皆さんの会社が大きく前進する一年になることを願っています。

















