去る5月20日、岸田文雄首相は「新しい資本主義実現会議」の席上で、企業に対して男女の賃金差の公表を義務化する方針を表明しました。これを受けて労働政策審議会では厚労省の改正案につき協議を重ね、6月24日にこれを妥当とする答申を出しました。
すでに1月の施政方針演説で採り上げられた内容ではあるものの、年内の施行を視野に入れて具体的な準備が進められるとのことですから、企業にとっては比較的短い準備期間の中での対応を迫られることになります。
対象となるのは常時雇用される従業員が301人以上の会社。もともと女性活躍推進法において、女性役員の比率や男女の平均勤続年数の差異等を公表することが定められていますが、これに賃金格差が加わることとなります。具体的にどのような要件が求められるのか、詳細はわかりませんが、「男女の賃金の差異は、全労働者について、絶対額ではなく、男性の賃金に対する女性の賃金の割合で開示を求めること」、「同様の割合を正規・非正規雇用に分けて、開示を求めること」などの基本方針は決まっています。
こうした動きが加速する背景には、わが国の女性の賃金水準が大幅に低いことが挙げられます。基本的には男女間の賃金格差は世界的な問題であり、男性の賃金を100としたとき女性の賃金はOECD平均で88.4だそうですが、日本はこれを10ポイント以上下回る77.5と報告されています。43か国中で、韓国、イスラエルに次いで低い水準です。
なぜ日本では男女間の賃金格差が大きいのでしょう?
これには様々な要因が影響していると考えられ、会社によっても状況は異なるものだと思います。指摘されているものとして、「女性の管理職等への登用が極端に少ない」「出産や育児で一時的にでも職場を離れると、復帰後の処遇が伸びにくい」「飲食サービス・宿泊業等、給与水準が低めの業種に女性が多く就労している」「女性の成長やキャリアに繋がるような仕事の割当や育成プランに乏しい」「一般に女性は平均勤続年数が短いため、賃金水準が積み上がらない」などがあり、さまざまな要因が複合的に絡み合っていることがわかります。
このたびの女性の活躍推進における賃金格差の開示範囲の拡大は、法による規制強化の問題と捉えるべきものではなく、上述のような「様々な課題を克服し、多様な人材を活用するとともに、その育成を図ることによってわが社の成長に繋げていく」ための取り組みであると位置づけるべきでしょう。
労働市場に目を向ければ、労働人口の減少は今後も続き、中小企業ではより人材のひっ迫感が高まるものと予想されます。新規学卒者が採用できないという会社も徐々に増えているなか、シニア社員の活用と並んで女性の活躍推進に向けて前向きに取り組むことは、多くの企業にとってより重要な人事戦略となることは間違いないでしょう。
成績評価に基づいて、ポテンシャルの高い人には、性別に関係なくその能力開発に繋がるような仕事を割り当てるのは当然のことであり、企業は女性の力をもっと生かす努力をすべきだと思います。ただその一方で、部下育成の責任を負う管理職が「女性は家庭第一であるべき」「女性は責任あるポジションには就きたがらないものだ」などという無意識の偏見を持っている場合があります。そのようなケースでは、まずこうした先入観を払拭することも重要です。
組織改革によるガバナンス強化や「働き方」改革(長時間労働の解消、テレワークなど柔軟な働き方等)促進を阻害する要因にも、現場の管理職の意識の問題が深くかかわっていると考えて良いでしょう。管理職の意識改革は、これからの重要なテーマです。