世界経済はいま大きく揺れている。その震源地は2つ。1つは経済減速が進行している中国。2つ目は金利を上げようとする米国。特に、中国の景気減速、上海株価の暴落及び人民元の切り下げなど「チャイナリスク」は急浮上し、そのインパクトが格別に大きい。本レポートは現地調査の結果を踏まえ、中国経済の実態を解明したい。
◆中国を震源地とする世界金融市場の激震
今年6月以降、上海株価指数の下落は止まらない。図1に示すように、上海総合株価指数は、今年2月から年初来高値更新の6月12日までの4ヵ月余りで65%も上昇し、明らかにバブルが形成された。その後、バブルがはじけ、年初来最安値更新の8月26日までの2ヵ月余りで上海株価は45%も暴落した。周小川・中国人民銀行(中銀)総裁も9月上旬に開かれたG20財務相・中銀総裁会議で、「バブルがはじけたような動きがあった」と率直に認めた。
出所)上海証券取引所のデータにより沈才彬が作成。
株価の暴落に歯止めをかけるために、中国政府は7月に株価緊急対策(PKO)を発表し、上海株価指数は一時的に落ち着きを見せていた。ところが、8月11日、中国金融当局は突然、人民元対米ドルレート基準値(中間値)を約2%切り下げると発表した。12日、13日も大幅な切り下げが続き、3日間で累計切り下げ幅は4.6%にのぼる。この突然の人民元切り下げは、中国は勿論のこと、国際金融市場にも激震を走らせた。
図2に示すように、8月18~25日の1週間、主要国の株価は揃って暴落していた。その下落率が中国18.4%を筆頭に、日本12.2%、米国10.5%、フランス8.2%、ドイツ7.2%、英国6.2%をそれぞれ記録した。まさに中国を震源地とする「チャイナショック」だった。特に人々を驚かせたのは、この「チャイナショック」の影響を最も受けた国は、実は新興国ではなく、日米欧先進国であることだ。
出所)各国の株価データにより沈才彬が作成
先進国のうち、特に米国の株価下落率は意外だった。輸出や直接投資など経済の中国依存度が高くない米国は、「チャイナショック」の影響が小さい筈なのに、人々の予想に反し、この1週間の米株価下落率が10.5%に達し、主要国の中で日本に次ぐ2番目大きかった。この事実は米連邦準備理事会(FRB)を震撼させた。なぜ「チャイナショック」による米株式市場の影響が新興国より大きかったか?「チャイナショック」はどんな形で米国に波及してきたか?中国経済の景気減速はどこまで進行し、米国にどんな影響を及ぼすか?FRBにとって、これから綿密な検証作業が必要となり、これは9月17日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)に利上げを先送りさせた決定的な理由かも知れない。
◆「リーマンショック」を超えるほどの経済減速の厳しさ
「チャイナショック」の根底に、中国経済の景気減速に対する金融市場の強い懸念と不安がある。
中国経済は今、厳しさを増している。景気減速の深刻さは「リーマンショック」を超えるほどである。これは中国金融当局が実施した金融緩和の頻度から裏付けられている。
景気が良い時は金融引き締め、不景気の時は金融緩和。これは各国共通の金融政策である。中国金融当局の金融緩和の手段は主に2つ。1つは金利の引き下げであり、もう1つは商業銀行が中央銀行に預ける預金準備率の引き下げである。「リーマンショック」の時、中国金融当局は金利引き下げ4回、預金準備率引き下げ3回をそれぞれ実施した。
ところが、表1と表2に示すように、昨年11月以降、中国の金融緩和策として既に金利引き下げ5回、預金準備率引き下げ4回をそれぞれ実施した。その回数は今年8月時点で既に「リーマンショック」の時を上回った。にもかかわらず、景気好転の兆しが依然見えず、年内に少なくとも後1回をそれぞれ実施すると思う。金融緩和実施の頻度から、いま進行している中国経済減速の厳しさがわかる。(続く)