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人事・労務

第59話 人を育てる会社であり続ける — 評価制度から始まる管理職育成と組織づくり

賃金決定の定石

 企業の成長は、制度や戦略だけでなく、「人を育てる姿勢」によって決まります。特に中小企業では、管理職の力量が現場の空気をつくり、組織の方向性を左右します。だからこそ、まず管理職の育成にとりくむことが経営の根幹であり、単なる人事施策にとどまらず、企業文化そのものに関わるテーマだということができます。


 その育成の起点となるのが「評価制度」です。評価制度は、処遇を決めるための仕組みというだけでなく、管理職一人ひとりが「自分に何が期待されているか」を理解し、成長の方向性を掴むための重要なツールです。制度の設計と運用に、経営者の育成への理念が込められているかどうか。それが、組織の成熟度を映し出します。


 しかし実際の現場では、「能力があるかどうか」を漠然と評価しがちですし、そうした能力基準を前面に出した「人事考課制度」も広く使われているのが実情です。結果として、ハロー効果(印象による評価の偏り)により、「できる人はどの項目でも高評価」「一度つまずいた人は全てにわたり低評価」といった不公平が生まれやすくなります。これでは、育成の機会が失われ、組織の健全な成長が阻害されてしまいます。


 そこで重要なのは、「職責の遂行度」を評価の中心に据えることです。特に課長クラスに対しては、どのような役割を期待しているのかを明文化し、それに対してどの程度、職制上の責任を果たしたかを相対比較を交えて評価する。たとえば、「部下の育成」「業務の改善提案」「他部署との連携」など、具体的な役割に対して、行動や成果をもとに評価する仕組みを整えることで、評価は評価者の主観をはなれ、職務遂行の実態に基づいたものになります。


 また、評価項目は「〇〇力」といった抽象的な能力表現ではなく、「〇〇の責任を果たしたか」「〇〇の行動を取ったか」といった着眼点に落とし込むことが肝要です。これにより、評価者の視点が統一され、被評価者にとっても「何をすればよいか」が明確になります。


 運用面では、管理職を評価する立場にある部長以上の経営幹部が、日常的に管理職の行動を観察・記録できる仕組みが不可欠です。会議録や週報、面談記録、更には1on1の記録なども活用し、評価時に「何を根拠に判断するか」が明示されることで、評価全体への納得感が高まります。さらに、評価結果は育成面談に活用され、「次にどこを改善するか」「どのような行動を増やすか」といった具体的なフィードバックにつながれば、管理職の成長が促されることになります。


 評価制度は、育成の器であり、経営者の人事哲学を映す鏡なのです。制度の整備と運用の工夫を通じて、管理職が自らの役割を理解し、主体的に成長していく土壌をつくること。それこそが、「人を育てる会社」としての第一歩となるのです。

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