中東オイルショックが新たに発生している。イラン戦争で中東地域の天然ガス田や石油精製所が攻撃され、重要なサプライチェーンが混乱し、エネルギー価格が急騰している。中東オイルショックは各国経済に重大な影響を及ぼし、世界最大の原油輸入国である中国もガソリン価格高騰など影響を受けている。
一方、中東オイルショックは世界をリードする中国の得意な分野・電気自動車(EV)にとって、輸出拡大の絶好のチャンスでもある。
●中国経済への影響は限定的
中東石油依存率が高い日本や韓国に比べれば、イラン戦争による中国経済への影響が限定的なものにとどまっている。
まず中国のエネルギー消費構造を見よう。2025年中国のエネルギー消費は石炭に換算すれば、61.7億トン標準炭になる。その内、石炭が全体の51.4%、水力・風力、ソーラーパネル、原子力発電など再生エネルギーが30.4%、石油・天然ガスが18.2%と、それぞれ占める。この構造から見れば、石油が中国のエネルギー消費のメーンではなく、中東石油危機の影響を最小限に抑えることが可能だ。
さらに中東からの石油が中国の輸入全体に占める比重を見よう。2025年に中国の石油生産量が2億1608万トン、輸入が5億7773万トン、輸入依存度が72.8%となっている。輸入国を見れば、ロシア17.4%、マレーシア11.1%、ブラジル8.1%、アンゴラ4.9%、サウジアラビア、イラク、UAEなど中東諸国が約50%を占める。換言すれば、輸入の多様化が実現され、たとえホルムズ海峡が封鎖されても、中国の石油輸入は途絶えることが発生しない。中東石油依存度が90%を超える日本や70%以上の韓国に比べれば、イラン戦争による中国経済への影響は限定的だ。
2月28日アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃以降、日中韓3ヶ国の株式市場と為替相場の推移を調べれば、中国経済が受ける影響が日本、韓国より遥かに小さいことがわかる。
まず株式市場の動きを確認する。アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃前の2月27日に比べれば、3月23日終値で日経平均が▼12.5%、韓国総合が▼13.4%、中国の上海総合が▼8.4%、3ヶ国の株価が揃って下落しているが、その下げ幅は中国が一番小さい。
次に為替レートの推移を検証する。2月27日~3月20日に、対ドルレートにおいて日本の円が▼1.7%、韓国のウォンが▼3.9%安くなったのに対し、中国の元は0.48%上昇したのである。
要するに、イラン戦争開始以降、中国株の下げ幅は日韓より小さく、人民元はドルに対して安定し、国債利回りもほとんど動いていない。一見すると世界最大の石油輸入国・中国は脆弱と思われたが、危機局面で意外な強さを見せている。
●グリーンエネルギー推進戦略が奏功
中国が中東オイルショックの影響を最小限に抑えることに成功した最大の要因は、言うまでもなくグリーンエネルギー推進戦略の奏功である。
中国政府は長年にわたって、こうしたエネルギー危機から経済を守ることを目指し、グリーンエネルギー戦略を推進してきた。再生可能エネルギーに巨額投資を行い、クリーンエネルギーのサプライチェーンで優位を確立し、電気自動車(EV)の普及を急速に進めてきた。
2025年の実績を例に具体的に説明する。同年、中国のクリーンエネルギーへの投資額は7兆2000億元(約160兆円)に上り、化石燃料採掘や石炭火力発電分野への投資額の約4倍に相当する。この年の中国の投資増加分の90%が実はクリーンエネルギー分野によるものだ。
25年に年間総発電量は、前年比2.2%増の9兆7,159億kWhに達した。電源別には、主力の火力発電が前年比1.0%減の6兆2,946億kWhとなり、2015年以来10年ぶりに前年実績を下回った。一方で、太陽光発電量は前年比27%増と大幅に伸長し、風力と合わせたシェアは全発電量の約25%に達している。水力を含めた再生可能エネルギー全体の比率は36%を超え、脱炭素化が着実に進んでいる。再生エネ電源の構成比率は、発電電力量ベースでは、中国は約36%で、日本の約26%、米国の約22%を大幅に上回っている。
同年、中国製EV・PHVの生産と販売台数がいずれも1,600万台を超え、世界全体の6割以上を占める。今、中国は新エネ車の世界最大の市場かつ製造・技術のリーダーとして注目されている。
その結果、中国は依然として化石燃料輸入に依存しつつも、以前ほどオイルショックの影響を受けにくい経済構造となっている。原油価格はイラン戦争以降1バレル100ドル台に急騰し、4年ぶりの高水準を記録したが、こうした構造が一定の防波堤となっている。
●中東オイルショックは中国電気自動車の「神風」?
イラン戦争及びそれに伴う中東オイルショックは、中国にガソリン価格高騰など一時的な影響をもたらしている。しかし、長い目で見れば、この危機は中国電気自動車の輸出拡大の好機になるのは間違いない。
イラン戦争は世界の複数の地域で脱炭素化のプロセスを加速させるだろう。ガソリンや化石燃料に依存している国民の暮らしそのものの見直しが必要になってくると思う。中国は今、ソーラ―パネルや車載バッテリー及びEVなどグリーンエネルギーの世界最大の市場かつ製造・技術のリーダーである。中国製ソーラーパネルが世界シェアの80%以上、車載バッテリーが7割超、EVが60%以上を占めている。中東オイルショックによって、グリーンエネルギー技術における中国の支配的地位をさらに強固にする可能性が出てきた。
世界的に脱炭素の努力がなされるならば、最終的には中国は大きな勝者になるだろう。この意味では、中東オイルショックが中国の電気自動車の「神風」になるかも知れない。
実際、今年2月にEVなど中国の新エネルギー車の輸出は28万台にのぼり、前年同月に比べ1.1倍増となる。特に中国電気自動車最大手のBYDは2月の世界販売台数は19万台だった。うち、海外での販売台数は10万台を超え、初めて国内での販売台数を上回った。
今後、欧州やASEANなど中東オイルショックの影響を大いに受ける国・地域向けの中国製EVの輸出拡大が期待される。同時に、イラン戦争に起因するエネルギー価格の高騰やサプライチェーンの混乱を踏まえれば、中国への依存は以前ほど問題視されないかも知れない。(了)


















