マンションの共用部分の瑕疵を原因とする漏水事故により住人に発生した損害について損害賠償責任は誰が負うのでしょうか?
不動産賃貸の会社を経営する山形社長は賛多弁護士にある相談をしております。
山形社長:先日、当社が管理するマンション物件で漏水事故がありました。どうやら、マンションの共用部分である外壁部分の亀裂等が原因で、マンションのある部屋の天井から漏水事故が生じたようです。その部屋の住人からマンションの管理組合に対して、修繕の請求と、損害賠償の請求がありました。
賛多弁護士:それは大変でしたね。どのように対応されましたか。
山形社長:マンションの管理組合には規約にて共用部分の修繕義務が定められていますので、業者に依頼して外壁等の修繕を行いました。ただ、損害賠償については結構な額を請求されておりまして、マンションの管理組合はどのように対応しようかと決めかねている状況です。
賛多弁護士:請求額はどの程度ですか?
山形社長:住人が負担した天井の補修費用、資産価値下落相当額、漏水中に当該部屋を使用できなかった損害、慰謝料などで、総額数百万円です。
賛多弁護士:それは結構な額になりましたね。
山形社長:ところで、そもそも、マンションの共用部分の瑕疵により生じた住人の損害について、マンションの管理組合が損害賠償に応じる義務はあるのでしょうか?
賛多弁護士:その住人はどのような根拠でマンションの管理組合に対して損害賠償請求をしているのですか?
山形社長:民法717条1項※の工作物責任をその根拠としています。
賛多弁護士:最近、最高裁の判例で、マンションの管理組合(法的には区分所有法3条※の「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体」)は、マンションの共用部分に関して民法717条1項の「工作物の占有者」に当たる、という判断が示されました。そのため、マンションの管理組合はその住人に対し、民法717条1項の損害賠償義務を負うものと思われます。
山形社長:そうなのですか。外壁はマンションの共用部分なので、民法717条1項の「工作物の占有者」は、マンションの住人(区分所有者)全員ということにはなりませんか?
賛多弁護士:ここは議論のあるところで、裁判所によっても判断が異なりました。ただ、最高裁は、マンションの住人全員ではなくマンションの管理組合が、民法717条1項の「工作物の占有者」であると判断しました。
山形社長:その理由を教えていただけますでしょうか。
賛多弁護士:最高裁は、主に、①マンションの管理組合は共用部分を管理して損害の発生を防止すべき地位にあること、②マンションの管理組合は、共用部分の管理のための費用を徴収しているのが通例であるところ、共用部分に瑕疵があることで損害が生じた場合には、管理組合の財産からその賠償をすることが、区分所有者の通常の意思に沿い、損害を被った者の保護にも資すること、といった理由を挙げています。
山形社長:たしかにそうですよね。共用部分の瑕疵から生じた損害賠償義務を負う者がマンションの管理組合でなく、区分所有者全員とすると、被害者の救済を図ることが事実上難しくなりますよね。どうもありがとうございました。
※民法
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
※区分所有法
(区分所有者の団体)
第三条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
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最高裁は、令和8年1月22日の判決で、マンションの管理組合は、マンションの共用部分に関して、民法717条1項本文の「占有者」であると判断しました。
その理由は、①マンションの管理組合は共用部分を管理して損害の発生を防止すべき地位にあること、②マンションの管理組合は、共用部分の管理のための費用を徴収しているのが通例であるところ、共用部分に瑕疵があることで損害が生じた場合には、管理組合の財産からその賠償をすることが、区分所有者の通常の意思に沿い、損害を被った者の保護にも資すること、です。この判例は、マンション管理の実務に大きな影響を与えると言われております。判決(抜粋)は次のとおりです。
「民法717条1項本文の趣旨は、工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって損害が生じた場合、このように通常有すべき安全性を欠く状態にある工作物を支配管理して上記損害の発生を防止すべき地位にある者に損害賠償責任を負わせることにあると解される。
区分所有法によると、区分所有者は、全員で、区分所有建物等の管理を行うための団体を構成し(3条前段)、区分所有建物の共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するとされている(18条1項)。これら区分所有法の規定に照らすと、区分所有建物の共用部分については、基本的に、区分所有者の団体がこれを支配管理して通常有すべき安全性を確保していくことが予定されているものというべきである(このことは、区分所有法25条及び26条に管理者の選任及び権限等についての定めがあるからといって、左右されるものではない。)。
そうすると、区分所有者の団体は、特段の事情がない限り、区分所有建物の共用部分を支配管理してその設置又は保存の瑕疵による損害の発生を防止すべき地位にあるということができる。
また、区分所有者の団体は、区分所有者からその持分に応じて共用部分の管理のための費用を徴収しているのが通例であるところ(区分所有法19条参照)、共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって損害が生じた場合には、区分所有者の団体の財産からその賠償をすることが、区分所有者の通常の意思に沿い、損害を被った者の保護にも資するものといえる。
以上によれば、区分所有者の団体は、特段の事情がない限り、区分所有建物の共用部分について、民法717条1項本文にいう「占有者」に当たるというべきである。」
判例は、当該事案では、「特段の事情」は無いとして、民法717条1項該当性を認めました。
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執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 渡邉宏毅



















