11月14日、中国の習近平国家主席とバイデン米大統領は、20カ国・地域(G20)首脳会議が開催されるインドネシア・バリ島で会談した。バイデン氏は大統領就任以来、習主席との間にオンラインや電話の方式でこれまで5回の会談が行われてきたが、対面形式での会談は初めてだ。両首脳は冒頭、米中両国の国旗の前で、笑顔で握手を交わし、和やかな雰囲気が印象的だった。
両首脳は会談を通じ、互いに歩み寄り多くの合意に達成した。米中関係の悪化に歯止めがかかり、緊張緩和へ一歩前進した形となっている。オバマ政権時代の米中「戦略・経済対話」が再開する可能性も出てきた。
笑顔で握手した習近平国家主席とバイデン大統領。
◆米中首脳会談を読む3つのキーワード
米中首脳会談はアメリカ側の提案で実現され、中国代表団が宿泊しているバリ島のホテルで行われた。首脳会談の主な出席者は次の通り。
【米国側】◎バイデン大統領 ◎ブリンケン国務長官 ◎イエレン財務長官 ◎サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当) ◎バーンズ駐中国大使
◎キャンベル国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官 ◎クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)◎ローゼンバーガーNSC中国担当部長
【中国側】◎習近平国家主席 ◎丁薛祥共産党中央弁公庁主任 ◎王毅国務委員兼外相 ◎何立峰国家発展改革委員会主任 ◎馬朝旭外務次官 ◎謝鋒外務次官 ◎華春瑩外務省報道局長
米中首脳会談を読むキーワードは3つ。1つ目は「率直的」である。一連の問題で米中の相違が明白だ。特に台湾問題である。米側の発表によると、バイデン氏は会談で「台湾海峡の一方的な現状変更」や「威圧的でますます攻撃的になっている中国の行動」への反対を表明した。一方、中国外務省の発表によれば、習主席は「台湾問題は中国の『核心的利益』の『核心』であり、両国関係において越えてならない一線だ」と述べ、アメリカの関与を強くけん制した。台湾問題で双方は平行線に辿った可能性が高いと見られる。
しかし、相違があってこそ、対面会談で互いの違いを認識し、率直的に意見交換を行う自体に意味がある。米中首脳会談において、バイデン大統領は「私たちは互いの違いを認識し、競争が対立へと近づかないよう防ぐ責任を共有している」と述べ、習主席も「中米関係における戦略的問題や、世界や地域の主要な問題について、大統領といつも通り率直で深い意見交換をする用意がある」と応じた。両首脳は、偶発的な衝突を避けるため対話を続けていくことでも一致した。
2つ目のキーワードは「突っ込んだ」である。米中首脳会談は日本時間14日18:30からスタートし、21:50前に終了した。会談時間は3時間以上に及び、双方が突っ込んだ話が出来たことは容易に想像できる。米中対立の激しさを増している時こそ、ライバル同士の突っ込んだ意見交換が重要なのだ。
3つ目のキーワードは「建设的」だ。実際、今回の首脳会談は多くの問題で成果を上げている。米ホワイトハウスの発表によると、両首脳は気候変動、世界経済の安定、衛生、食料分野で、高官対話維持と取り組みの深化で合意した。
◆米中「戦略・経済対話」再開か
具体的には、今回の米中首脳会談で次の6つの合意ができている。
- 双方の外交チームが戦略的な意思疎通を保ち、経常的な協議を行う。
- 両国の財政・金融チームがマクロ経済政策や経済貿易問題について、対話や協議を行う。
- 共同で「国連気候変動枠組み条約」第27回締約国大会(COP27)の成功に努める。
- 双方が両国の衛生、農業及び食糧安全について対話と協力を行う。
- 双方が人文分野の交流の重要性を確認し、各分野の人的交流を拡大する。
- 両首脳は、ブリンケン国務長官が中国を訪問し、今回の協議の進捗を確認することで合意した。
筆者が特に注目しているのは①と②である。つまり双方はそれぞれ外交チームと財政金融チームを発足させ、対話を行うことである。これはオバマ政権時代の「米中戦略・経済対話」という枠組みの名前を変えて再開するのではないか、と筆者は見ている。
周知の通り、第2次ブッシュ(息子)政権時代、米中は貿易摩擦や知的財産権の保護などの二国間問題及び世界経済全体に関する重要課題を協議するために、2006年に「戦略経済対話」という枠組みを発足させた。米国側の責任者は当時のポールソン財務長官、中国側の責任者は呉儀副首相(当時)だった。対話は1年に2回、両国の首都で交互に行い、合計5回も開催された。双方の閣僚級政府高官が対面する機会を増やし、相互の意思疎通と理解を深める役割が果たされた。
2009年、民主党のオバマ政権が誕生後、名称を「戦略・経済対話」に変更したものの、米中間の「戦略的」な経済対話は継続された。合計8回の開催があった。この枠組みは米中摩擦を解消したわけではなかったが、双方の対立の緩和に資し、話し合いによる問題解決に向けた土台の構築という役割を果たしたのは確かだ。
ところが、2017年トランプ政権が誕生すると、情勢が一変した。オバマ政権のレガシーのほとんどが否定され、「米中戦略・経済対話」も廃止された。
バイデン大統領はオバマ政権時代の副大統領であり、彼には元大統領のレガシーを復活させる意欲がある。バイデン氏は「中国との競争が衝突に変わることがあってはならず、アメリカと中国は責任を持って競争を管理し、対話のチャンネルを維持しなければならない」という認識を持っている。そのため、バイデン氏は「米中戦略・経済対話」枠組みの復活に動き出した。これは今回の米中首脳会談の合意事項であり、会談成果の中で最も重要な成果だと思われる。
ただし、枠組みの名称は「外交チーム対話」と「財政金融チーム対話」に変わる。双方外交チームの責任者はブリンケン国務長官と王毅外相、「財政金融チーム対話」責任者はイエレン財務長官と何立峰国家発展改革委員会主任(次期副首相)だ。そして、この対話枠組みは来年早々始動する見通しである。
◆米中緊張緩和へ一歩前進
今年8月、ペロシ米下院議長は中国側の反対を押し切って訪台した。それに反発する中国は台湾に対して軍事演習など圧力を強めると同時に、米中政府間対話のチャンネルも一時停止させた。
一方、バイデン政権は日米豪印(クアッド)を中心にインド・太平洋構想の推進、日米韓台という半導体同盟の構築など対中包囲圏の強化を急ぎ、経済・技術分野における米中分断も加速された。米中関係は国交樹立以来の最悪の局面を迎え、緊張の度合いが急速に高まっている。このままでは、対立が対決へ変わり、米中は冷戦から戦争衝突に突入する最悪のシナリオが現実味を帯びる。
米中対立の先鋭化は国際社会の共通の懸念となり、米中双方のみならず、世界各国にも巨大な不利益をもたらすことが明らかだ。緊急課題として、両国の競争が衝突に陥らないよう互いの「レッドライン(譲れない一線)」を話し合う必要性が出てきた。そこで、米国側が提案し、中国側が応じる首脳会談は、インドネシアのバリ島で開かれるG20サミットの舞台で実現された。
双方の発表によると、首脳会談で、バイデン大統領と習近平国家主席は、偶発的な衝突を避けるため対話を続けていくことで一致した。緊張緩和に向けて、双方は重要な一歩を踏み出し、対立のエスカレートにはひとまず歯止めがかかった。当面、台湾問題をめぐる米中衝突のシナリオは考えにくい。
勿論、過剰な期待は禁物だ。台頭する新興国中国。それを脅威と見なす既存の超大国米国。これは米中関係の基本構造だ。今回の首脳会談は米中関係の基本構造を変えたものではない。一時的に衝突を回避したとしても、長期的には米中間の覇権争奪をめぐる熾烈な戦いが続くだろう。(了)