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人間学・古典

第87回 「和魂洋才」

令和時代の「社長の人間力の磨き方」

 「和魂洋才」という。古来の日本の精神を大事にしながら、西洋から流入した思想や文化などの良いところを合わせることだ。わかりやすいのは「和洋折衷」だが、今の流行りで言えば「和モダン」とでもなるのだろうか。「和モダン」の定義(するほどでもないが)は曖昧でも、「和洋折衷」の例は至るところで見られ、わざわざ意識するまでもなくなっている。

 最近は数が減ったが、マンションの中に和室が一部屋はあるのがスタンダードな時期もあった。家族構成が変わったことが大きな要因ではあろうが、今でもホテルの2間続きの部屋でツインベッドに和室が付いているところは多い。和食の素材を洋風にアレンジしたものなど、例示しきれないほどに多い。日本以外の国の食など、本国の人が食べて日本の方が美味しい、と驚く例はいくらもある。これなどは、まさに「和魂洋才」の面目躍如たるところだろうか。

 和服をドレスやワンピースなどに仕立て直すのも、もはや珍しくはなくなった。正座の習慣がなくなった中で、椅子に腰掛けて点てるお茶もその部類だろうか。我々が、意識せずとも「和魂洋才」の感覚を抵抗なく生活の中に取り入れている証拠だろう。話はやや古くなるが、パスタの本場・イタリアにはなくとも多くの日本人が愛してやまない「スパゲティ・ナポリタン」が、戦後の占領下にあった時期の横浜のホテルで生まれたとのエピソードは、多くの人が知るところだ。パスタの固さが日本人の口に合わないだろうと考えたシェフが、進駐軍が残していった太いパスタを茹でた後、冷蔵庫で一晩寝かせて「うどん」に近い食感を持たせた、というのが微笑ましい。

 

 

 ことほど左様に、日本人は何かと何かを組み合わせ、それを加工する文化に長けている。資源が少ない島国、という限られた場所の中で発達した考え方でもあろう。加えて、山が多く多湿な国土の特徴に合わせ、少しでも快適な生活のために編み出された知恵も大きい。また、日本固有の神々と、渡来の仏教の仏様を合体させる「神仏習合」の柔軟性を持つ国民性も見逃すことはできない。この辺りの感覚は、他国の人々には理解しにくいものだろう。

 

 

 この「和魂洋才」の精神、それ以前に「和魂漢才」なる言葉や考え方がある。少し考えれば当然のことで、遥かなる西洋よりも隣国の「漢」の方が1000年も古い付き合いで、距離的にも近く、それまでにも様々な物が行き来していたことを考えれば当然の話だ。

 この言葉はすでに平安時代に見られるもので、日本固有の「やまとだましひ(大和魂)」と、中国の 「からざえ(漢才)」という古典漢籍に重きを置いた学問の精神を融合させたものだ。「和魂漢才」は詩歌や絵画に顕著に現われており、わかりやすい。中国の漢詩を日本風に発達させたものが「和歌」となり、絵画の「唐絵」をアレンジしたものが「大和絵」となった。政治や思想は異なっていても、文化や芸術は国境をも思想をも超える、好例の一つだ。

 他国と領土を接していない日本でさえこれほど多くの例があるのだから、幾つもの国と国境を接した大陸では文化や思想の混合による発展はさらに著しい。その分、変化も激しいが、日本は海に囲まれた中で、それを深め、発展させることで、「和魂漢才」「和魂洋才」を更に身近なものにしてきたのだ。

 

 

 江戸期になると、『古事記伝』で知られる国学者の本居宣長(1730~1801)により、思想的な言葉としての「漢意(からごころ)」に対する「大和心(やまとごころ)」なる言葉が広められた。「敷島のやまと心を人とはば 朝日に匂ふ山さくら花」の歌は有名なだけではなく、雅やかな日本人の心象風景を見事に詠んでいる。ちなみに、「敷島の」は、「やまと心」にかかる枕詞だ。

 「大和魂」も「大和心」も、日本人の美しく清々しい精神性を現わす言葉であるのは間違いない。これが意味を変じたのは、幕末に「尊王攘夷」の運動が起き、明治期には日清戦争に勝利し、との争いの中である。風雅であるべき「大和魂」が、戦いに勝つための戦意昂揚のための言葉に変わってしまった。それは、「先の大戦」に関する資料や映像を観れば説明するまでもないだろう。「和魂和才」の悪しき例としか言いようがない。

 

 

 「和モダン」でも「和と洋のコラボレーション」でも、現代の人々に新鮮な感覚で迎えられ、喜ばれるのは良いことだ。一方で、最近の行き過ぎた「個」の尊重で、自分だけのアイディアのように錯覚する場合がある。新しいものを生み出すにしても、遥かなる先人たちが築いた「大和魂」や「大和心」という素晴らしい土台の上に立って何かをしていることを忘れてはならないだろう。それを失くしてしまうと、「和魂洋才」や「和魂漢才」の「才」に対して失礼ではないのだろうか。素晴らしい才能を持っていても、それをまっとうに活かせなければ、「才人」にはなれない。要は、才を活かすも殺すも己の考え方次第、ということだ。

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