■見渡すかぎりの「白い森」
高速道路を降りて、くねくねと山道を分け入っていく。ぐんぐんと緑が深くなっていく。どこを見渡しても緑の森と山ばかりである。
山形県の南西端、新潟県との県境に位置する小国町は土地の9割以上をブナなどの森林が占める。豪雪地帯でもあり、ブナの幹と雪の色のイメージから「白い森」というキャッチフレーズが使われている。
町の南部にそびえるのは飯豊(いいで)連峰。その主峰である飯豊山(標高2105m)は「日本百名山」のひとつで、選定者の深田久弥氏は「大きな残雪と豊かなお花畑、尾根は広々として高原を逍遥するように楽しい」と、著書の中でその印象を語っている。

そんな大自然の中に、秘湯・飯豊温泉は湯煙を上げている。約800年前に熊が湯で傷を癒やしていたところをマタギが発見したと伝わる。
全19室を備える「梅花皮荘(かいらぎそう)」は、飯豊連峰の山懐に抱かれた国民宿舎。登山やトレッキングの拠点としても人気だ。
■山々と渓流を望む絶景温泉
木のぬくもりあふれる浴場は男女別の入替制だ。天窓のある広々とした空間に、大きめの内湯がひとつ。大きくとられた窓の外に雄大な飯豊連峰の山並みがそびえ、眼下には玉川の渓流が涼しげに流れる。
真夏に訪れたにもかかわらず雪渓が残っていた。深田久弥氏が見た「大きな残雪」と同じものだろうか。四季折々の自然美に包まれながら湯浴みを楽しめるのが魅力だ。
かけ流しにされている湯船には、飯豊山中腹の登山口から湧く源泉が引かれている。湯の色が一見、赤茶色に濁っているような印象を受けるのは、湯船の底に湯の花が沈殿しているからだ。宿のスタッフさんから「毎日しっかり清掃しないと、湯の花が湯船などにこびりついてとれなくなるほど」と聞いてびっくり。
泉質は ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩・硫酸塩泉。文字の並びが多いのは、さまざまな成分が豊富に含まれている証しである。
隣接する別館「川入荘」には開放的な露天風呂もあり、梅花皮荘の宿泊者はこちらにも入浴できる(日帰り入浴も可)。
太くて立派な木材が柱や梁、屋根にふんだんに使われ、いかにも森の中の温泉という雰囲気。湯船から望む飯豊の山々と渓流が織りなす風景も、まるで一枚の絵のようだ。
絶景を見ながら深呼吸をすると、たちまちエネルギーがチャージされていく感覚になる。都会の忙しない生活から離れてリフレッシュしたい人、悩みごとを抱えている人などは、山の恵みである温泉に身をゆだねることで、疲弊した心が整っていく感覚を得られるかもしれない。
山の幸が中心の夕朝食も楽しみのひとつ。熊汁(要予約、在庫に限りあり)、イワナの刺身、山菜など滋味あふれる食材が並ぶ。
■緑のアーチに心が洗われる
ここまで来たら、もっと山の大自然を味わいたいと思うかもしれない。「本格的な登山は無理……」という人でも、飯豊連峰の麓に広がる温身平(ぬくみだいら)なら無理なく散策できる。ブナやミズナラの原生林を見られるスポットで、起伏が少ないメインルートは子どもからお年寄りまで楽しめる。
木漏れ日が差し込む散策路は、まさに「緑のアーチ」。深呼吸をするたび、日常でささくれだった心が洗われていくかのようだ。なお、温身平は国内初の森林セラピー基地に認定されている。
少し歩き疲れた頃に「ブナしずく」という湧水スポットを発見。大きなブナの木の下から清らかな水がこんこんと湧き出している。ひんやりと冷たい泉に手を入れた瞬間、自分もブナ林の一部になった気がした。
なお、雪深い土地でありながら梅花皮荘は通年営業である。夏は登山の拠点や避暑地として賑わうが、新緑がまばゆい春、紅葉が美しい秋、一面銀世界の冬……いつ訪れても非日常の絶景を拝むことができるだろう。





















