賛多弁護士のもとに、神田社長から電話が掛かってきました。取引先のA社が神田社長の会社に対する売掛債権を第三者に譲渡したようで、その取扱いについて相談をしたいということでした。
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神田社長 : 先日、取引先のA社から、当社に対する売掛債権をB社に譲渡したため、今後はA社ではなくB社に支払ってほしい旨が記載された通知が届きました。
賛多弁護士: いわゆる「債権譲渡通知」ですね。A社が貴社に対する売掛債権をB社に売却したということでしょう。通知はお手元にありますか。
神田社長 : 先生、実はA社の当社に対する売掛債権の債権譲渡通知はこれだけではないのです。債権譲渡通知が届いた数日後に、A社が同じ債権をC社に債権譲渡したという通知が届いたんです。
賛多弁護士: なるほど。A社が貴社に対する売掛債権をB社とC社の二重に譲渡したようですね。
神田社長 : B社もC社も、今までA社の取引先として名前を聞いたことがない会社です。そもそも、A社はなぜ、当社に対する売掛債権を譲渡したのでしょうか。
賛多弁護士: 売掛債権を支払期日前に第三者に譲渡するなどの方法を用いて資金を調達する「ファクタリング」である可能性が高いですね。ファクタリングは法的には債権譲渡の方法によることも多く、B社及びC社は、A社から貴社に対する売掛債権を割り引いて購入したファクタリング会社と思われます。
神田社長 : 資金調達の方法として銀行融資ではなくファクタリングを利用するA社は、資金繰りに困っているということでしょうか。
賛多弁護士: 資金調達の方法としてファクタリングが使われる背景はいくつかありますが、ファクタリングの特徴としては、銀行融資と違って審査から入金までが早いとか、担保や保証人を求められないため、迅速な資金調達が可能であることや、法的には借入ではなく債権の売買なので、貸借対照表上は負債として計上されない、いわゆるオフバランスの資金調達になることがあげられます。
ただ、今回のように同一債権を二重に譲渡しているような場合は、資金繰りがかなり追い詰められている可能性があります。あくまで推測ですが、A社の経営状況については、今後の取引継続の判断材料として注視しておく必要があると考えます。
神田社長 : ありがとうございます。A社の経営状況については注視したいと思います。ところで、売掛債権はB社とC社に譲渡されていることになりますが、当社としては、どちらに支払えばいいんでしょう。
賛多弁護士: 民法では、債権譲渡があった場合の対抗要件、つまり債権の譲受人が自身が債権者であることを主張するための要件について、「誰に」対して主張するかによって分けられています。
まずは、債権譲渡を「債務者」に対抗するための要件です。債権の譲受人が債務者に対して自身が新たな債権者であることを主張するためには、債権の譲渡人からの通知か債務者の承諾が必要となります。
次に、債権譲渡を「第三者」に対抗するための要件です。債権の譲受人が債務者以外の第三者に対して自身が新たな債権者であることを主張するためには、債権の譲渡人からの確定日付のある証書による通知か確定日付のある証書による債務者の承諾が必要で、確定日付のある証書としては内容証明郵便が用いられることが一般的です。
今回のように債権が二重に譲渡されたような場合ですが、貴社は債権譲渡について承諾されていないので、債権の譲渡人から通知がされた場合に焦点をあてて検討してみると、B社とC社の優先関係、つまりどちらが債務者以外の第三者に対して自身が新たな債権者であると主張できるかについては、A社からの確定日付のある証書による債権譲渡通知が貴社の到達した日の先後で優劣が決まることになります。
債務者である貴社と債権の譲受人であるB社とC社の関係でいうと両社とも債務者対抗要件を備えていることになりますので、例えば、B社からの通知が届いたのち、C社からの通知が届くまでの間にB社に支払ったとしても弁済は有効となると考えられますが、未だ支払いをしていない段階でB社とC社どちらが優先する債権の譲受人であるか確定できるような場合は、優先する債権の譲受人に支払う必要があると考えられます。
あくまでも債権譲渡通知が貴社に到達した日が基準となり、債権譲渡契約締結日や債権譲渡通知の発送日ではありませんので注意が必要です。
また、債権譲渡通知は譲渡人から送付されていることが必要です。債権譲渡通知が譲受人から送付されている場合、譲受人が譲渡人を代位して通知することは認められていない一方、譲受人が譲渡人を代理して通知することは認められていますので、譲受人が代理権限を有しているか確認する必要があります。
神田社長 : B社、C社への債権譲渡通知は、いずれもA社から内容証明郵便で届いており、当社への到達はB社の方が早いですね。となると、B社が債務者対抗要件及び第三者対抗要件を備えており、かつ、C社に優先することになりますかね。
賛多弁護士: そうなりますね。
神田社長 : 分かりました。ところで、C社への債権譲渡通知が届いた数日後に、C社から債権譲渡の登記事項証明書が送付されてきたのですが、どのような意味があるのでしょうか。
賛多弁護士: 債権譲渡については、民法の特例として「債権譲渡登記」によって対抗要件を備えることも可能です。債権譲渡登記ファイルに譲渡の記録がされた時点で第三者対抗要件を備えたことになり、また債務者対抗要件については債権譲渡及び債権譲渡の登記事項証明書を交付して通知することにより備えることができます。
神田社長 : となると、B社、C社の優先関係、つまりどちらが債務者以外の第三者に対して自身が新たな債権者であると主張できるかも変わってくるのでしょうか。
賛多弁護士: 債権譲渡登記と確定日付のある証書による通知という第三者対抗要件については、債権譲渡登記時点と通知の到達時点の先後で優劣が決まることになります。
登記事項証明書を拝見したところ、時系列としては、C社への債権譲渡が登記、B社への債権譲渡通知が貴社に到達、C社への債権譲渡通知が貴社に到達、C社への債権譲渡登記事項証明書が貴社に到達、という流れになりますので、第三者対抗要件はC社が先に備えていることになります。
また、債務者対抗要件についても譲渡通知と登記事項証明書の交付は同時である必要はないとされていますので、C社からの債権譲渡登記事項証明書が貴社に届いている以上、C社としては債権譲渡登記による債務者対抗要件も備えていると考えられます。
そうすると、貴社としては、第三者対抗要件を先に備えたC社に対して支払いをすることになります。
神田社長 : なるほど、債権譲渡通知が到達した日付や名義だけでなく、場合によっては債権譲渡登記による対抗要件についても確認しないといけないのですね。
債権譲渡通知は、中小企業にとって決して珍しいものではない一方、今回のように二重に譲渡されたような場合は、その取扱いは複雑になります。支払先を間違ってしまうと弁済の効力が認められない危険もあることから、債権譲渡通知を受領した際には顧問弁護士に相談されることをおすすめします。
鳥飼総合法律事務所 弁護士 種池慎太郎


















