小田社長は、生鮮食品の仕入れ・販売、卸売事業及び加工食品製造事業を営んでいるところ、近年は加工食品製造事業の赤字が続いていることから、経営改善のため、同事業を会社分割によって別会社へ切り出すことを検討している。
もっとも、赤字事業を切り出すのであれば、人員整理もできるのではないかと考え、その可否について賛多弁護士に相談することにした。
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小田社長:前回は、会社分割をすると製造部門の従業員も原則として承継会社へ引き継がれることや、そのための手続について教えていただきました。
賛多弁護士:はい。会社分割は事業に関する権利義務を包括的に承継させる制度ですが、労働者保護のための特別なルールも設けられています。
小田社長:ただ、当社としては赤字事業を切り出した後の人員整理が気になります。会社分割をすれば、余剰となった従業員を解雇することはできるのでしょうか。
賛多弁護士:結論から申し上げると、会社分割と整理解雇は別問題です。
小田社長:別問題というと?
賛多弁護士:会社分割は、あくまでも事業を再編するための制度です。一方、整理解雇は、人員削減の必要性を理由として労働契約を終了させる制度です。両者は法律上まったく異なる制度であり、「会社分割をするから解雇できる」という関係にはありません。
小田社長:しかし、加工食品製造事業の赤字が続いている以上、人件費の見直しも避けられないと思うのですが…
賛多弁護士:お気持ちは分かります。ただ、人件費の見直しが必要であることと、解雇が認められることは別問題です。会社分割はあくまで事業再編の制度であり、人員削減を当然に認めるものではありません。
小田社長:確かに、製造事業を切り出すとはいえ、事業それ自体は承継会社で続ける予定ですからね。
賛多弁護士:そのとおりです。そのため、「会社分割をするので解雇します」というだけでは、解雇の有効性は認められない可能性が高いでしょう。
小田社長:なぜでしょうか。
賛多弁護士:解雇が有効と認められるためには、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが必要だからです。会社分割は事業再編の手法にすぎません。事業も雇用も継続することが予定されている以上、「会社分割をした」という事実だけでは、従業員との労働契約を終了させる理由にはならないのです。
小田社長:では、人員削減が必要な場合はどう考えればよいのでしょうか。
賛多弁護士:その場合は、会社分割とは切り離して、整理解雇としての要件を満たすかどうかを検討する必要があります。
一般に整理解雇の有効性は、
①人員削減の必要性
②解雇回避努力義務の履行
③被解雇者選定の合理性
④労働者との協議・説明
といった要素を総合的に考慮して判断されます。
小田社長:整理解雇の要件といわれても、具体的にはどのような事情があれば認められるのでしょうか。
賛多弁護士:例えば、①人員削減の必要性については、単に利益が減ったというだけでは足りず、赤字が継続している、資金繰りが悪化している、事業の縮小が避けられないといった事情が考慮されます。また、②解雇回避努力との関係では、配置転換や希望退職の募集など、解雇以外の方法を検討したかも重要になります。
小田社長:なるほど。単に会社が「人を減らしたい」というだけでは足りないのですね。
賛多弁護士:そのとおりです。整理解雇は労働者に与える影響が大きいため、本当に人員削減が必要なのか、解雇以外の方法はなかったのかなどを踏まえて慎重に判断されます。
小田社長:つまり、会社分割と整理解雇は、別々の問題として考える必要があるわけですか。
賛多弁護士:はい。会社分割は事業再編の制度であり、人員整理の制度ではありません。その点を正しく理解しておくことが重要です。
小田社長:そうすると、会社分割を進める際には、まず従業員がどの事業に従事しているのかを整理しておく必要がありそうです。
賛多弁護士:そのとおりです。会社分割では、契約や資産だけでなく、人員配置の整理も極めて重要になります。早い段階から従業員の担当業務を確認し、誰がどの事業に主として従事しているのかを整理することが、円滑な組織再編につながります。
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事業の切り出しと人員整理は別問題であり、会社分割を理由に当然に解雇が可能となるものではありません。雇用調整を行う場合には整理解雇の要件を個別に検討する必要があります。正当な理由なく解雇を行った場合には、解雇権の濫用として解雇が無効と判断されるおそれもあるため、慎重な対応が求められます。
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 西村舞






















