社長、その「名刺は何枚集まった?」が、展示会を失敗させています
展示会最終日の夕方。3日間、立ちっぱなしだった社員たちが、疲れ切った表情で名刺の束を整理しています。そこへ社長がやって来て、開口一番、こう聞きます。
「どうだった? 名刺は何枚集まった?」
展示会責任者が、少し誇らしげに答えます。
「340枚です。昨年より30枚増えました」
「おお、それはすごい。今回は成功だな」
周囲の社員も、ほっとした表情を浮かべます。
ところが・・・
社長が続けて質問します。
「それで、どんな会社にお役に立てそうだった?」
その瞬間、全員が黙り込んでしまいました。
どの来場者が、どんな課題を抱えていたのか?自社のどのような技術やノウハウが役立ちそうだったのか?参考資料を送ることになった相手はいるのか?サンプルを試してもらう会社は何社あるのか?後日、もう少し詳しく話を聞くことになった相手はいるのか?
誰も、きちんと答えられません。
手元には確かに340枚の名刺があります。しかし、その一枚一枚について、誰に、どのような形でお役に立てそうなのかが分かっていないのです。
さて、この展示会は本当に成功だったのでしょうか?
こんにちは!展示会営業®コンサルタントの清永です。
弊社では、展示会に出展した企業536名と、展示会に来場した1,089名を対象に実態調査を行い、その結果を『展示会白書』としてまとめました。そこから、展示会の成果を考えるうえで、とても興味深い実態が見えてきました。
■目的は「商談」なのに、追いかけているのは「枚数」
出展企業に展示会への出展目的を尋ねたところ、最も多かった回答は「見込み顧客情報や、見込み客との商談機会の獲得」で、53.7%でした。多くの会社は、商談のきっかけをつくるために展示会へ出展しているわけです。
ところが、展示会が終わったときに確認される数字は、商談件数ではありません。
「何人がブースに来たか」
「パンフレットを何部配ったか」
「名刺を何枚集めたか」
こうした数字ばかりが、成果として報告されています。
目的は商談のきっかけをつくることなのに、現場で追いかけているのは名刺の枚数。ここに、大きなずれがあるのです。
■社員は、社長が決めた数字どおりに動く
「名刺は多い方がいいのだから、別に問題ないんじゃないの?」そう思われるかもしれません。もちろん、名刺枚数そのものが悪いわけではありません。問題なのは、名刺の枚数だけを現場の目標にしてしまうことです。
あるIT企業の話です。社長さんが、展示会スタッフに名刺獲得枚数の目標を課し、1時間ごとにLINEで獲得枚数を報告させておられました。
「現在35枚です」
「隣のチームは50枚を超えているよ」
「もっと積極的に声をかけていこうぜ」
このようなやり取りが、会期中ずっと続きます。
すると、スタッフはどのように行動するでしょうか。一人の来場者と10分間じっくり話すよりも、短時間で何人もの名刺を集めた方が評価されるのです。
すると、当然、
「この人は名刺をくれそうか」
「短時間で話を終えられそうか」
という基準で来場者を見るようになります。
相手が何に困っているのかを丁寧に聞くよりも、まず名刺交換。自社が本当に役に立てる相手かどうかを考えるよりも、次の来場者から名刺をもらうことが優先されます。その結果、大量の名刺が手に入ります。しかし、相手の課題や自社が役立てそうなポイントは不明です。
ここで注意してほしいのは、スタッフが怠けているわけではないという点です。むしろ、社長が与えた目標に忠実に動いているのです。名刺枚数を目標にすれば、社員は名刺を集める行動をします。
一方、「どのようにお役に立てそうかを把握すること」「相手に役立つ次のやり取りをつくること」を目標にすれば、スタッフは相手の状況や課題を聞き、ふさわしい次の一歩を考えるようになります。目標数字は、単なる結果集計のためのものではありません。現場スタッフに対する、強力な経営指示なのです。
■名刺交換した時点では、まだ成果は出ていない
『展示会白書』では、展示会で獲得した見込み客情報のうち、実際に商談につながった割合についても尋ねています。最も多かった回答は「10〜29%」で、31.8%でした。
この数字から分かるのは、名刺交換した時点では、成果はまだ生まれていないということです。
展示会で名刺を300枚集めた。それ自体は、成果ではありません。300人と接点を持ったという途中経過にすぎないのです。大切なのは、その名刺の中から、次のやり取りにつながる関係が何件生まれたかです。
ただし、何でもすぐに訪問や見積もりへ進めればよい、ということではありません。
相手の悩みや状況を聞いたうえで、
「それなら、参考になる事例をお送りします」
「社内で検討しやすいように、比較資料をご用意します」
「技術担当にも確認して、後日回答します」
「まずはサンプルを試してみませんか」
といった、その人の検討に役立つ次の一歩を決めておくことが大切です。
展示会後のフォローは、いきなり売り込むためのものではありません。会場で聞いた相手の悩みを踏まえ、
「この会社なら、何か役に立ってくれるかもしれない」
という期待を、少しずつ確かなものにしていくためのものです。
名刺を300枚集めても、誰が何に困っていたのか分からず、次に何を届ければよいかも決まっていなければ、展示会後の営業担当者は300人に一から連絡しなければなりません。電話をかけても、
「たくさん回ったので、御社で何を見たか覚えていません」
と言われてしまいます。
メールを送っても、会場での会話とは関係のない商品案内であれば、反応はありません。そうして数週間が過ぎるうちに、名刺の束は机の引き出しの奥に眠ることになるのです。一方、集まった名刺がわずか50枚だったとしても、
「課題に合った事例資料を送る」
「技術的な疑問への回答を届ける」
「サンプルを試してもらう」
「現地調査をさせていただく」
といった次のやり取りが決まっていれば、その50人とは、展示会終了時点で一定の関係性ができていると考えられます。
比べるべきなのは、300枚と50枚ではありません。会話の続きが見えない300枚と、相手のお役に立つ次の一歩が決まっている50枚を比較したときに、御社にとってどちらがよいかなのです。
■名刺枚数を捨てる必要はない
では、名刺枚数は目標にしてはいけないのでしょうか。そうではありません。名刺枚数も重要な数字です。ただし、名刺枚数を最終成果にしてはいけません。受注から逆算して、意味のある途中指標として設定する必要があります。
たとえば、展示会をきっかけに3件の受注を目指すとします。仮に、案件の20%が受注につながり、商談の30%が案件になる会社であれば、受注3件を得るには15件の案件が必要です。15件の案件をつくるには、50件の商談機会が必要になります。
そして、自社の過去実績から、展示会で接点を持った相手の16%が商談機会につながるとすれば、必要な接点数は約300件です。ここで初めて、「300」という数字に意味が生まれます。
悪い目標設定は、
「とにかく名刺を300枚集めよう」です。
よい目標設定は、
「受注3件を得るには、50件程度の商談機会が必要だ。そのために約300人と接点を持ち、自社がお役に立てそうな相手とは、事例提供、サンプル送付、後日の相談など、相手に合った会話の続きをつくろう」です。
同じ300枚でも、意味はまったく違うのです。
■名刺は「買いそうか」ではなく「どう役立てるか」で整理する
展示会後、獲得した名刺をAランク、Bランク、Cランクに分類している会社は多いでしょう。
しかし、「今すぐ買いそうだからA」「まだ先になりそうだからB」といった売り手都合の分類には、大きな弱点があります。
そもそも、展示会のブースで判断すべきなのは、相手がすぐに買いそうかどうかではありません。
会話をしながら相手の状況や課題を聞き、
「自社の商品やノウハウで、この人のお役に立てそうか」
を、プロとして判断することです。
会場には、自社が確実にお役に立てそうな人もいれば、少し工夫すれば役に立てそうな人もいます。残念ながら、今の自社ではあまり貢献できそうにない人もいるでしょう。
すべての来場者に同じ熱量、同じ時間をかけて対応していると、本当に力を入れるべき相手との会話に、十分な時間を使えなくなってしまいます。
そこで、接客中には、
「どういったお仕事をされているのですか?」
「この分野で、何か気になっていることはありますか?」
と軽く尋ねながら、相手の抱えている課題をつかんでいきます。

そのうえで、自社が役に立てそうだと判断したなら、
「その課題でしたら、参考になりそうな事例があります。後日お送りします」
「一度、技術担当を交えて詳しくお話を伺いましょうか」
「まずはサンプルを試していただくのが分かりやすいと思います」
というように、相手にとって無理のない次の一歩を提案します。
大切なのは、名刺にA・B・Cという売り手都合のラベルを貼ることではありません。
「事例資料を送る」
「サンプルを届ける」
「技術担当から回答する」
「オンラインで詳しく話を聞く」
「今回は追わない」
というように、貢献可能性に応じた次の行動を決めておくことです。
この見極めができると、接客もフォローも押し売りになりません。
来場者は、自分に関係のない説明を長く聞かされずに済みます。
出展者も、会期中の限られた時間を、本当に役に立てる相手のために使えます。
■社長が変えるべき、たった一つの質問
展示会の成果を変えるために、高額な費用をかけてブース装飾を行う必要はありません。
最新のデジタルツールを導入する必要もありません。
最初に変えるべきなのは、展示会終了後に社長がスタッフへ投げかける質問です。
「名刺は何枚集まった?」
ではなく、
「今日は、どんな人にお役に立てそうだった?」
と聞いてみてください。
さらに、
「その人は、何に困っていた?」
「どのような形で役に立てそう?」
「次に、どんな情報や機会を届けると喜ばれそう?」
と尋ねてみてください。

社長が聞くことが変われば、スタッフが会場で見るものも変わります。
名刺をくれそうな人を探すのではなく、自社の専門性が役立ちそうな人を探すようになります。
素早く名刺交換をすませるのではなく、相手の仕事や困りごとに耳を傾けるようになります。
すぐに売り込むのではなく、
「この人には、どのような情報や提案なら本当に役立つだろう」
と考えるようになります。
その結果、出展者側には、
「この会社には、自社がお役に立てそうだ」
という手応えが残ります。
来場者側には、
「このブースは、商品を売りたいだけではない。自社のことをきちんと考えてくれている」
という期待が残ります。
名刺枚数が悪いのではありません。
問題なのは、誰にどう役立てそうなのかを考えず、枚数だけを現場に追わせることです。
展示会の成果を変える最初の一歩は、社長が現場に何を求めるかを変えることです。
次の展示会では、ぜひこう聞いてください。
「名刺は何枚集まった?」
ではなく、
「今日は、どんな人にお役に立てそうだった?」
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◎2026年8月下旬から9月のおすすめ展示会
※展示会・イベントの日程は変更することがあります。公式サイトから確認をお願いします。

清永 健一(きよなが けんいち)
株式会社展示会営業マーケティング 代表取締役
展示会営業Ⓡコンサルタント。中小企業診断士。奈良生まれ、東京在住。神戸大学経営学部卒業後、メガバンク系コンサルティング会社など複数の企業で手腕を発揮し、2015年に独立、株式会社展示会営業マーケティングを創業する。「展示会は売上アップへの投資効率に最も優れた手法」と主唱。支援先企業からは、集客・受注・売上が大幅に増加したと好評の声が多数あがる。著書の「飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術」「中小企業のDX営業マニュアル~オンライン展示会をきっかけとした営業改革術」(ともにごま書房新社)、「仕事のゲーム化でやる気モードに変える」、「営業のゲーム化で業績を上げる」(ともに実務教育出版)はいずれもamazon部門1位を獲得。行政、公益法人、金融機関、各地の商工会議所など講演実績多数。 ホームページ:https://tenjikaieigyo.com/





























