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206軒目 「香下 @市ヶ谷 ~確かな技術と創意工夫で日本料理好きが喜ぶ“舌代”を実現」

大久保一彦の“流行る”お店の仕組みづくり

 2025年3月31日にオープンした日本料理店が市ヶ谷にあります。自らの氏を冠した「香下」という店で、2025年7月9日に先行公開されたミシュランガイドNewセレクションに選出されたため、6、7席の店舗一時はスタンパーのホットスポットになったため店主も苦労したことだと思います。

 先日訪問して、落ち着いたようなので、紹介したいと思います。

 最近の私には、人の口コミを見てもあまりピンと来るような飲食が特に都会になくて、人の投稿を見て自分自身で予約をすること自体がありませんでした。しかし「香下」は寺田和彦さんがFacebookに7月12日に投稿されたこちらのお店がとても印象的で、おまけに、柏原光太郎さんが「ウメイロを使うあたりがいいですね。」というコメントを入れていて気になり、早速予約を入れました。

 それで、予約が迫った数日前に寺田さんがふたたび下記のような投稿をFacebookに投稿されていました。

 

香下尭之(こうした たかゆき)さん。
懐石の銘店「懐石 小室」の小室光博さんに10年余り薫陶を受け中央線 立川「蕎麦懐石 無庵」で2年、その後再び「懐石 小室」で2年切磋琢磨して今年独立を果たした。
18時30分から6席のみの一斉スタート1日1回転の営業。献立の特徴は使用食材の多種多様にある。日本料理に使われてこなかった食材も積極的に取り入れ、伝統的な技法をベースに、独自に解釈する日本料理へと昇華させている。結果的に客人には舌代で還元されており昨今では考えられないお値打ちのプライスになっている。更にお酒のマリアージュが素晴らしい…。
7月上旬から爆発的に来客数が増えて、もちろん喜ばしい事なれど、いろいろ大変な部分もあってお察しする。店舗を踏破的に御朱印帳の如く訪問したり、在所する証しのみの撮影など、愚挙に近い客人には少し憂う。

 

 私は新しく行く店を選ぶときに、良かった場合、再訪問が可能であることを重視します。何回か通ってはじめて気づくことや見えることがあり、私の仕事柄、そうやって見えたことが仕事の糧になるからです。店からしてみても、お客様にある程度定期的に訪問いただけるようになってはじめて受けられる“うまみ”もあると思うのです。

 店は法政大学のすぐそばのお堀端にあります。

 

 

 まず、8月下旬に始めて訪問したときの感想などを話しましょう。

 ひとことで言えば、高級食材で魅了する最近中心地に多い「参ったか!」系の店でなく大変面白かったです。いろいろなところに創意工夫をしていて「香下」らしさがあり、調理技術や食材の引き出しも多そうなので、次回の予約をしてきました。

 予約はTable-Checkでできるのですが、1ヶ月先までです。訪問したときなら2ヶ月先の月まで予約できるのでしばらくはループできるので良いシステムでした。

 それで次回(10月中旬)の予約を取るときに、次回はコース料理の価格が3,000円だか、4,000円だか上がりますよと言われました。寺田さんが創意工夫で舌代が安いとおっしゃっていましたが、さすがに寒露の時期で松茸が入るでしょうからブータンや中国産を使っても総支払額20,000円は厳しいと、そりゃそうだよなと思いました。でも、実際、ニ回目に行ったらさらに驚いたんですけどね。

 菊乃井の村田吉弘さんが、最近は若い料理人が独立するときにいきなり3万円からスタートをするのは良くないとおっしゃっていたように記憶しています。昔、「山ばな 平八茶屋」の次男でお世話になっています日本経営合理化協会の園部貴弘さんに、京都の料理やでは、まず、ランチの安いコースを食べて、納得したら高い料理を、それでよかったら夜の料理をと順を踏むものだとおっしゃっていました。

 「香下」のように、しっかりした技術があるオーナーシェフが開業するなら、まず、損益を取りやすい場所を確保して、できればカウンターの店をワンオペで開業するのが良いでしょう。お客様がつけば選択肢が広がるので、しっかり信用を積み上げるのが良いと私は考えます。お客様がついたら、やりたいことを理解できる既知や経験をしていただくよう教育して、既知や経験がお客様についたかを見ながら、既知や経験がついてきたらやりたいことを説明して価格を上げてゆけば良いと思います。

 昔、福岡の「鮨行天」に初めて訪問したときの会計額は8,000円ちょっとでした。福岡出張で福岡を出発する当日に予約の電話を入れたのですが、電話したときは予約がいっぱいで、すいませんと断られました。しかたがないので、空港でご飯を食べて帰るかなと思っていたところ、しばらくして行天氏から携帯に電話があり、お店は決まりましたか、まだ決まっていないようでしたらキャンセルが出たのでいかがですかとのことでした。私は、その一生懸命なところに縁を感じて、度重なる値上げにもありましたが、そのプロセスが私の仕事にとっての学びがあり15年通うことになりました。そんなプロセスを「香下で」また見ることができそうな店なので、大変、興味を持ったのです。


【お料理】

  • 先付

 「香下」にはこの原稿を書く直前を入れると四度訪問しております。一回、二回とも先付けには茶碗蒸しが供せられました。私の評価アッププログラムのお手本のような流れですが、夏の時期に行った初回訪問では「車海老と新銀杏をのせた玉蜀黍の冷製茶碗蒸し」が、寒露の時期の二回目では「バターナッツかぼちゃの茶碗蒸し」が提供されています。バターナッツ南瓜を使ってみたかったとおっしゃっていましたが、ピュレが茶碗蒸しの生地の下に入っていました。

 茶碗蒸しは、一斉スタートの場合、あらかじめ準備しておけ、ワンオペに最適な上、多くの人が好きな料理(嫌いでない料理)で、料理の性質上減点材料が少ない料理で、コースの一品目に提供する料理としてはとても良いと思っています。その茶碗蒸しに訪問した日の時期というか瞬間を感じられる創意工夫がされていますね。見た目も良いです。

 

  • 向付

 二皿目に供せられたのが向付、お造りです。お造りは、シンプルに一品。初回がメイチダイ。二回目が真鯛です。基本、天然の旨さにこだわっているようです。背を4、5切れと腹2切れといった感じで提供され、6席なので使い切らないといけないのでしょうけど、魚種はひとつですが最低限楽しめるように工夫していると思います。お魚は朝〆ている印象で少し活かっていて、淡泊な味わいなお造りで、三品目に続きます。

 

  • 煮物椀

 お造りの後は煮物椀です。初回訪問時は夏でしたので花を咲かせた鱧の椀が提供されました。鱧はきれいに花が咲いていて、ふんわりしていました。

 二回目は松茸の土瓶蒸しが提供されました。信州の松茸と岩手の松茸をミックスですと提供して、土瓶の蓋を開けるとたくさん松茸が入っていました。国産松茸の量のすごさに驚いておりますと、香下さんが修業先の「懐石小室」にいたときは、基本信州産を使っていて、この時期になると当たり前のように松茸がふんだんにありました。そして、小室さんは松茸が少ないとそれは土瓶蒸しじゃなくて、吸い物だと言ったそうです。なるほどですね。

 値上げ分はこれで納得という感じでした。

 

  • 和え物

 四品目の料理は、料理の位置づけは不明ですが、和え物が供せられました。初回がサザエ、新蓮根、糸三つ葉の和え物とインゲンの山椒胡麻和えで、寒露の訪問では新物のいくらの醤油漬け(下にはなめこおろし)と石川小芋のとも和えが供せられました。

 この和え物がなかなかおいしく、私は好きな料理です。

 

  • ノンアルコール飲料

 二回目の訪問の時は駅までどうしても自動車で来ないといけなかったので、ノンアルコールにしました。一杯目はノンアルコールビールにしまして、二杯目は「香下」がノンアルコールの飲料も工夫していることが判明したので、ノンアルコールのソーダにしてみました。ノンアルコールのソーダには、香草系と柑橘系があり、両方とも飲んでみました。

 透明な炭酸で割った飲料なのですがどちらも料理とバランスが良かったです。

 

  • 焼き物

 五品目は焼き物で、初回がウメイロの一遍醤油焼きで二回目が三重のとろ鰆の味噌焼き(だったと思います)が提供されました。

 特筆すべきは野菜をペーストにしたとろっとしたソースのようなお皿がついてくることです。これがなかなかおいしくてうまく脇役的として機能していました。

 初回のウメイロの時は茄子のピュレに蓼が入っていたので、蓼酢のような位置づけだと思ったのですが、鰆の時も生姜の香りの玉ねぎのペースト韮が入ったものが供せられ、味変に使ってくださいとおっしゃるので、基本デフォルトなのかもしれません。

 

  • 鍋物(お肉料理)

 六品目は鍋物でお肉が提供されます。二回とも鹿肉が提供され、初回は軽くしゃぶしゃぶしてぼたん鍋のような感じで提供されました。二回目は和歌山の鹿を柳川風に提供してきました。いずれも隣のお客さんは驚いていました。和牛などをうまく使わず他の店との差別化ができているように思います。

 

  • 強肴

 七品目は強肴で、初回は、金糸瓜、焼き霜にした帆立、絞ったキャビアライムで酢ものが、寒露の回は金時草の酢の物で紫色に色鮮やかでとてもよかったと思います。

 

  • お食事

 お食事は土鍋ご飯です。初回訪問時がじゃことアスパラガスのご飯で、二回目の訪問時が焼き栗のご飯でした。二回目のおかわりをするとおこげをこそぎとって提供してくれます。

 

  • 水菓子

 水菓子もひとひねりしていて面白いです。初回が昔の「京味」のように大鍋とバットで葛きりを作ります。ソースがかわっていて甘酸っぱい梅のあんがかかっていました。二回目の訪問時は無花果の蜜でした。葛きりは黒蜜のほうが良いという口コミもありますが、これは好みの問題なので、これはこれで良いと思います。

 初回の薄茶がおいしかった。二回目は玄米茶でした。

 

【ボリューム・会計金額】

 料理のボリュームはかなりあり、満足度は高いと思います。お会計はサービス料や税金などすべて込みで25,000円くらい。ワンオペとは言え、都心にある日本料理店としてはかなり安いお店だと言えるでしょう。

 

【まとめ】

 出店コストが上がっていますので、オーナーシェフの店は少なくなっているように思います。一方でオーナーシェフの店は創意工夫で今の時代にない舌代での食事の提供が可能だと確信しました。高級食材を求める人は相手にできませんが、高級食材を主体に構成しないことで特徴ある献立が提供できると思います。

 また、開業時は低めの価格からスタートした方が長続きするように思いました。確かに価格を上げるのは難しいので、どういうところで価格をあげるのか、価格を上げたときのお客様は入れ替えるのか、など課題はあります。

 今の時代、それなりの価格でそれなりの評価を得ることはできますが、その場合、食べ歩きの人を相手にすることになるのでスタンパーが多くなるように思うのです。

 その店にはその店には長く通い続けられる価格帯というのがあるように思います。

 

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