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採用・法律

第89回 『よくある誤った相続税対策の考え方』

中小企業の新たな法律リスク

 前回(第77回コラム参照)は生命保険について賛多弁護士から有益な情報を得た佐藤社長であったが、その延長線上にある相続についても気になることがあり・・・

* * *

佐藤社長:顧問税理士や金融機関から、相続税対策のために生命保険には加入した方がよいと勧められるのですが、いま検討をしている会社契約での生命保険に加入するだけで、税金は下がるのですか?

 

賛多弁護士:会社に社長の死亡保険金が入金されたのち、それを社長のご遺族に死亡退職慰労金として支給されれば、社長の相続税の計算上は、500万円に法定相続人数を乗じた金額分だけは非課税とされますので、その意味で相続税は下がります。

 

佐藤社長:なるほど、やはり役員退職慰労金規程が大事である、ということですね。

 

賛多弁護士:さらに、社長個人で加入している終身保険などがあれば、同様に500万円に法定相続人数を乗じた金額分は非課税とされますから、より相続税の納税額は減ります。

 

佐藤社長:えっ?!そうすると、私には妻と子ども2人がいますから法定相続人は3人、会社から受け取る退職金で1,500万円、個人で加入する保険金で1,500万円の、合計3,000万円が非課税になるということですか?

 

賛多弁護士:はい。多くの経営者が、この非課税枠は一方しか使えないと思っているので、会社契約の生命保険しか検討をしないのですが、実はダブルで使えますから、社長の預貯金の一部を保険金に置き換えるだけで、相続税に影響を及ぼすのです。

 

佐藤社長:自分の持っているお金の一部を保険金に置き換える、ですか。

 

賛多弁護士:相続税では、現金や預貯金はその金額自体が相続税の課税対象となりますが、保険金や退職金はご遺族の生活資金に充てられるなど社会政策的見地から、このような優遇措置がとられています。

 

佐藤社長:ちょっとしたことですが、それで家族が喜んでくれるなら、相続税対策はとても大切であると理解しました。

 

賛多弁護士:相続税対策をすることで、ご遺族により多くの財産を残すことはできます。ただし、あまり相続税対策に固執をすると、家族や親族の関係に歪みの出ることもありますから、お気をつけ下さい。

 

佐藤社長:具体的には、どのようなケースがあるのですか?

 

賛多弁護士:相続税対策の典型的な例として、小規模宅地等の特例の適用を検討する、というものがあります。例えば、社長のご両親がお持ちの家に社長のご家族が同居するなど、一定の条件を満たした場合には、その家の敷地の評価額を80%減額できる措置があります。その特例を適用しようとして、社長がご両親と生活を共にすることは、ご両親の様子を毎日見られるという観点からしても、何ら問題はないと思います。一方、ご両親にとっても、安心感とともに毎日孫の顔を見られるという楽しみも増えます。

 

佐藤社長:税金が下がり、家族みんなにとっても嬉しいことばかり、まさにウィンウィンの関係ですね。

 

賛多弁護士:では、社長の奥様の立場ではどうでしょうか。確かに、孫の面倒を見てくれるという点ではよいのかもしれませんが、社長のご両親、換言すれば他人の両親の面倒を毎日見るのは、まぎれもなく社長の奥様ですよね。さらに、奥様のご両親の介護などが重なった場合には、心身ともに疲弊してしまいます。それらの事情が複雑に絡み合い、家族がバラバラになってしまうことだってあります。ですから、相続税対策は、全体のバランスを考えて検討・実行していくことが、実は一番大切なのです。

* * *

 良かれと思った相続税対策が、家族や親族の仲互いに発展することもあります。それは、税金をいかに減らすか、という観点からしか検討をしていないからです。相続は税金の問題だけではありません。人と人との関係も大切です。その意味で、相続「税」対策は、遺言の作成、信託契約の締結などといったものも含めた相続対策の一環である、と考えるのが妥当ではないでしょうか。

執筆:鳥飼総合法律事務所 税理士 田坂 尚靖

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