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故事成語に学ぶ(44) 老いて益々壮(さか)んなるべし

指導者たる者かくあるべし

 若き馬援(ばえん)の名言
 『後漢書』に登場する人物の中で、後漢王朝を開いた光武帝に仕えた馬援という武将はなんとも魅力溢れる男だ。この連載の第30回で、光武帝の度量を見抜き、その天下統一に一身を捧げたエピソードに触れた。その名将の若き日のことである。
 12歳で父を亡くした。軍人の家系だが、馬援は農業をやりたいと兄に言う。兄はただならぬ馬援の才を見抜いていたが、「お前は器量は大きいが、大器晩成のたちだろう。よい大工は材料を見せないという。しばらく好きにするがいい」と、自由にさせた。
 若いながらも彼の親分肌の人格に惚れて、農園には先代の部下たちが続々と集まり、数百軒が牧畜に従事した。貧しさに耐え転々と放牧しながら、彼は年上の部下たちに口癖のように話す。
 「丈夫、志を為すに、窮すればまさに益々堅なるべく、老いては益々壮(さか)んなるべし」(男一匹、志を立てたからは、貧乏すればますます志をかため、年老いればますます意気盛んでならねばならん)
 
 
 殖財の目的は施しにあり
 若き当主の意気に感じて、老農夫たちも懸命に働く。牛馬羊は数千頭、穀物も数万石を産するほどになる。そしてため息をついて言う。なんと言ったか。
 「財産を増やしたからには、人に施しをすることが肝要だ。そうでなければ、ただの守銭奴ではないか」
 彼は全財産を古つわものたちや親族にわけ、自らは粗末な牧童服の皮衣を着て貧乏暮しを続ける。周囲に説いたように、志を固めるために窮乏生活を選んだのか。
 やがて漢王朝が滅びた後の乱世は彼を求め、馬援は軍事の道に打って出る。反乱軍の統帥である王莽(おうもう)、公孫述(こうそんじゅつ)の将軍としての仕官をへて、光武帝に出会う。馬援は水を得た魚のように、南はベトナム、北は匈奴との境まで軍を率いて転戦して連戦連勝し光武帝の全国再統一に貢献した。
 
 有言実行の人
 時は過ぎて、馬援も62歳。今でなら80代であろう。後漢王朝軍は、武陵(湖南省)で起きた反乱に手を焼いていた。
 「私めに行かせていただきたい」と、馬援は帝に申し出たが、帝は老齢を憐れみ出陣を許可しない。「私はまだ馬に乗れまする」。彼は馬の鞍にさっそうと飛びまたがる。踏んぞり返って帝に向かい、どうだとばかり流し目をくれたかと思うと、進軍の先に視線を移し見据えた。背筋は伸びて堂々としている。
 「矍鑠(かくしゃく)たるもんだな、この爺さん」、感心した光武帝は馬援に遠征軍を任せ、馬援は反乱軍を打ち破った。翌年、彼は遠征の軍中で病没した。
〈老いて益々壮んなるべし〉。その最晩年に、若き日に自ら吐いた言葉を実行して見せたのだ。
 ちなみに矍鑠の「矍(かく)」と言う文字は、目が生きていてあちらこちらへキョロキョロと反応が早いさまを表し、「鑠(しゃく)」は、光り輝いて堂々としているさまを言う。この時の光武帝の言葉から生まれたこの表現は、今でも元気老人を表現する常套句になっている。
 「近ごろ体力が落ちて」などと嘆く前に鏡をご覧あれ。「かくしゃく」としているだろうか。でなければ、部下はついてきませんぞ。
 
  (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『中国古典文学大系13 漢書・後漢書・三国志列伝選』本田済訳 平凡社

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