1位づくり戦略コンサルタントの佐藤元相です。
今回は、大阪にある社員30名程度の町工場の取り組みから、展示会を活用したお客さまづくりを考えます。
ばね製造を専門とするこの会社は、製品開発に伴う相談から、試作、量産まで対応しています。これまでは、数社の大手企業との取引を中心に事業を続け、日常的な新規開拓営業には、ほとんど取り組んでいませんでした。
今後の課題は、新たな販路を育て、売上と利益性を高めること。そして、1社への売上依存度を25%以下にすることです。
その実現に向けて、ランチェスター戦略をもとに展示会への取り組みを見直してきました。準備、会場での対話、出展後のフォローから、小さな会社が営業の仕組みを育てる道筋が見えてきます。
大手企業との信頼を土台に、新しい販路を育てる
長年、大手企業と取引を続けてきたことは、品質や納期への信頼を積み重ねてきた証しです。その関係は、これからも大切にしたい財産です。
一方で、売上が数社に集中すると、相手の生産計画や方針の変更が、自社の経営に大きく影響します。
そこで、新たな取引の柱を育てる必要がありました。
ただし、取引社数を増やせば、それだけで利益が増えるとは限りません。段取りや検査の負担が増え、現場が忙しくなっても、利益が残りにくい仕事もあります。
自社の技術が役立ち、継続的な取引と利益につながるお客さまを増やす。既存のお客さまを大切にしながら、その積み重ねで売上依存度25%以下を目指しています。
出展しても、手応えをつかめなかった時期
この会社は、以前から東京の大型展示会にも出展していました。
しかし、2年ほど前までは、展示会から成約につながるケースはほとんどありませんでした。見積もり依頼や開発相談も乏しく、工場見学への問い合わせもありませんでした。
ブースをつくり、製品を並べ、技術を説明する。それでも、次の商談につながる手応えをつかみきれなかったのです。
そこで、展示会を新規開拓の柱にするため、営業の流れを見直しました。
誰に何を伝えるのかを明確にし、パネルやチラシを改善する。想定する来場者との接客を練習し、その後のフォローまで具体化する。
出展するたびに振り返り、少しずつ取り組みを進化させてきました。
開発担当者に焦点を合わせ、強みを伝える
ランチェスター戦略では、小さな会社は力を注ぐ対象を定めることが大切です。
展示会でも、まず考えたいのは客層です。
今回は、消費財メーカーの設計・開発担当者に焦点を合わせました。自社のばね技術と、試作から量産まで対応できる製造体制を生かせる相手です。
- 限られたスペースで、必要な力や耐久性を確保したい。
- 早く試作して、動きや性能を確かめたい。
- 適した形状や材質について相談したい。
こうした製品開発の困りごとに、ばねの専門技術で応えていきます。
開発段階から相談を受け、その後の量産まで関われることは、同社が伝えたい強みです。
客層と強みを結びつけると、展示品や案内文の方向が定まります。さらに、出展後に訪問や打ち合わせを続けられる地域を考えれば、営業の力を注ぐ範囲も見えてきます。
相手に合わせた案内と、社員との接客練習
今回、展示会前には約200件のDMを送りました。
消費財メーカーを中心に15の業界を想定し、業界ごとに資料の目次を変更しました。透明封筒を使い、開封しなくても内容が目に入るようにしています。
受け取った方が、自分の仕事に関係する情報を見つけやすくする工夫です。
ただし、15業界すべてに同じ力を注ぎ続けるわけではありません。反応を確かめ、自社の強みが特に役立つ客層を見極めていきます。
接客の準備では、AIを使って15〜20種類のお客さま像を作成しました。役割や困りごとを設定し、社員がお客さま役になります。
応対する社員は、質問を通じて相手の仕事を聞き出します。このロールプレイを、社内で3回行いました。
何をつくっているのか。ばねをどこに使うのか。どのような点に苦労しているのか。
自社が役立てる場面を見つけるための練習です。
会場でのゴールは、次の行動を約束すること
ランチェスター戦略の接近戦を展示会で実践するには、一人ひとりの仕事や課題を理解することが大切です。
まず、相手の状況や困りごとを聞く。その内容に合う技術や事例を紹介し、次の行動を相談します。
- 図面を送っていただく。
- 技術相談の日程を決める。
- 使用状況を確かめるために訪問する。
- 工場見学で技術や対応体制を見ていただく。
会場でのゴールは、こうした具体的な一歩を決めることです。
すぐに見積もりが必要な方と、開発段階で情報を集めている方では、進め方が違います。相手の状況に合わせ、誰が、いつまでに、何をするかを確かめます。
名刺交換数に加え、課題を聞けた件数や、次の行動が決まった件数を残す。それによって、出展後に取り組むことが明確になります。
工場見学の問い合わせがなかった会社に、依頼が届く
今回、インテックス大阪で開催された「ものづくりワールド大阪」では、67件の顧客情報を得られました。
見積もり・検討依頼は11件。すぐに検討が必要な開発案件は2件でした。
各項目には重複の可能性があり、単純には合計できません。また、受注が確定した数字でもありません。
それでも、具体的な相談へ進む動きが生まれています。
さらに、世界的に事業を展開する大手メーカーから、工場視察の依頼がありました。
これまで問い合わせがなかったところから、現場を見ていただく機会が生まれたのです。
自社の技術に関心を寄せてくださる方がいる。その手応えを社員と共有することは、次の取り組みへの励みにもなります。
出会いを、相談していただける関係へ育てる
担当者が大切にしていたのは、次の言葉でした。
「まず関係を築き、相談していただける間柄を目指す」
会場での対話は、録音・文字起こしを行い、AIで一覧に整理しました。困りごとや約束した内容が残ることで、次の連絡が具体的になります。
ただし、AIによる見込み度の分類は、人が確認しています。今すぐの依頼がなくても、自社の技術との相性がよいお客さまがいるからです。
重点先には、訪問や技術相談の時間を確保します。同時に、元ボクサーの営業担当者が、日々の気づきや体験をつづった個人通信を届け、関係づくりを進めています。
売り込みをせず、担当者の人柄が伝わる内容が共感を呼び、反響もよいといいます。こうした接点を重ねる中で、年間を通じて新規の依頼が少しずつ増えてきています。
小さな会社が営業に使える時間は限られています。どのお客さまに力を注ぎ、どのような接点を持ち続けるか。その選択にも戦略が必要です。
社長の仕事は、営業が続く条件を整えること
今回、お礼メールの送信に時間がかかったことも、反省点として挙がりました。
初日は当日中に送れましたが、その後は通常業務や次の展示会が重なりました。
出会いが増えれば、対応する時間も必要です。お礼、見積もりの確認、訪問まで、出展前に予定へ入れておくことが大切です。
営業経験の少ない会社では、技術相談や見積もりを誰が支えるかも決めておきたいところです。
工場視察も同じです。相手の目的を事前に聞き、見せる工程や説明を準備する。社員と目的を共有し、役割と時間を決める。
担当者の努力を、会社として支える。これも、新しい販路を育てる社長の大切な仕事だと思います。
まとめ 展示会を、新しい取引の柱を育てる機会に
展示会前に客層と強みを定め、会場では困りごとを聞き、次の行動を約束する。出展後は重点先との関係を深め、受注と継続取引へつなげる。
今回の変化は、こうした取り組みを少しずつ積み重ねてきた中で生まれています。
以前は、見積もりや開発の相談につながりにくく、工場見学への問い合わせもありませんでした。
それが今回、具体的な相談に加え、世界的に事業を展開する大手メーカーから、工場視察の依頼が届いています。
私はここに、相手を定め、強みの伝え方と営業の進め方を磨いてきた、同社の進化を感じます。
今後は、この接点を取引へ育て、粗利益や現場の負担も確かめていきます。売上依存度25%以下という目標に向けて、利益の残る取引の柱を育てる段階です。
私も町工場で働いた経験から、現場の技術や工夫が、必要な相手に届くことを願っています。
まずは社長と営業担当者で、自社が利益を確保しながら役立てる仕事を一つ選んでみてください。
その仕事を必要としているのは誰か。どんな相談をしていただきたいか。
そこから、次の展示会戦略が具体的になります。

























