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採用・法律

第155回 退職時に株式を円滑に買い取るための方法

中小企業の新たな法律リスク

猫村社長は株主について相談するために賛多弁護士のもとを訪れました。

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猫村社長:当社はペット用品の販売をしています。当社は私を含め、6人で立ち上げました。私を含め3人は取締役になり、残る3人は社員になってもらいました。取締役は今も当社で働いていますが、3人の社員のうち1人は既に退職しています。退職の際、私が株式のことを失念していて、この社員は株式を持ったまま退職してしまいました。ただ、この社員の株式は全株式のうち5%ですので、あまり気にしなくてもいいかなと思っています。

 

賛多弁護士:その元社員とは連絡はとれるのでしょうか。

 

猫村社長:いいえ、退職後は疎遠になってしまい、今は特に連絡はとっていません。

 

賛多弁護士:株主総会の招集はどうしているのですか。

 

猫村社長:その元社員には送っていませんね。今も当社にいる取締役と社員が了承すれば、株主総会の決議は成立させられますので、この元社員に招集通知を出す意味もないかなと思いまして。

 

賛多弁護士:法的には、招集通知は議決権のある全ての株主に出さないといけませんので、好ましい状態とはいえませんね。

 

猫村社長:そうですね、私もそう思います。そのため、今後は、取締役も社員も当社を辞める際は、株式を私が買い取るか、または、会社で買い取ろうと思っています。私から話せば分かってくれると思いますので、今後、そのようにすればよろしいですよね。

 

賛多弁護士:確かに、今は取締役とも社員とも良好な関係かもしれませんが、会社を辞めるときは、もしかすると、不本意に辞めることもあるかもしれませんよね。

 

猫村社長:それはそうですね。元社員も、実は、私と喧嘩して辞めていきました。

 

賛多弁護士:取締役や社員が猫村社長と対立して会社を辞める場合、猫村社長がいくら、「株式は返してくれ」と言っても、取締役や社員が素直に応じるかは分かりませんよね。そうすると、「話せば分かってくれる」と何も対策をしないのは危険です。

 

猫村社長:確かに、そうですね。私や会社が一方的に買い取ることはできないのでしょうか。

 

賛多弁護士:何も対策していなければ、それはできません。株式はその株主の個人の財産ですから、一方的に取り上げることは普通、できないのです。しかし、あらかじめ、「会社を辞めるときは、株式は会社が買い取る」と定めておくことはできます。これは、「取得条項付株式」という仕組みを使います。あらかじめ、株主の持っている株式をこの株式に変更をしておけば、その株主が会社を辞めるときに、一方的に会社がその株式を買い取ることができるのです。

 

猫村社長:なるほど、それはいいですね。当社の株式もその株式に変更しておけば、取締役や社員が素直に買い取りに応じてくれない場合も安心です。

 

賛多弁護士:ただ、貴社でこの対策を行うには、1つ問題があります。それは、今の株主が持っている株式を「取得条項付株式」に変更するには、株主全員の同意が必要になる、という点です。つまり、今、疎遠になっている元社員にも同意してもらわないといけません。

 

猫村社長:それは問題ですね。ただ、今回の対策をする上で必要ということであれば、元社員に連絡をとってみます。元社員の株式は全体の5%ですし、これまで株主総会も問題なく開催できていましたので、正直、油断していました。全体からすると、ごくわずかな株式しか持っていなくても、こういうときに困るんですね。

 

賛多弁護士:そのとおりです。株式というと、特別な条件が何もついていない「普通株式」が一般的です。しかし、議決権のない「無議決権株式」や優先的に配当を出せる「配当優先株式」、そして、今回、ご紹介した「取得条項付株式」など、実は様々な条件を付した株式を発行することもできます。ただ、既に発行された株式をこのような特別な株式に変更するには、株主全員の同意が必要になるのです。そのため、議決権が少ないからといって、株主の管理を疎かにしていると、株主全員の同意が必要になるときに困ったことになります。

 

***

非上場の会社の株式は創業家が持っているというのが一般的です。ただ、何かの機会に取締役や社員に株式を少しだけ持たせる、ということもよくあります。1株でも持っていれば、たとえば、会社の株主名簿や株主総会議事録、取締役会議事録、計算書類の閲覧や謄写(コピー)をすることができます。その株主自身は気心の知れた仲であり、会社と対立関係になることはおよそ考えられないとしても、その株主が亡くなった場合は、その株式は相続人が承継します。

株式の相続による承継は、会社の同意は不要です。これは、会社にとっては全く見知らぬ相続人が株主となるということを意味します。相続人も会社に対して友好的とは限りません。むしろ「株主として言えることは言う」という方が多いかもしれません。全体からすれば、ごくわずかな株式であっても油断できないのは、相続によって見知らぬ相続人が株主になる、という点も理由として挙げられます。

取締役や社員が株主である場合は、会社を辞めるときにその株式も買い取ることを検討すべきです。会社を辞めた場合、通常、会社とはそれまでのような密な連絡はとらないでしょうし、疎遠となることもよくあります。連絡がとれない株主、所在が分からない株主が増えることは、それ自体、会社の経営にとってリスクとなります。

そして、取締役や社員が会社を辞めるときに素直に株式を買い取らせてくれれば良いのですが、必ずしも上手くいくとは限りません。買い取りに応じるとしても、非常に高額での買い取りを求めてくるかもしれません。

そこで、今回、ご紹介したとおり、株主の株式をあらかじめ、「取得条項付株式」に変えておくことが考えられます。現在、取締役や社員であれば、基本的には会社からの要請には素直に応じるはずです。条件の中に買い取りの際の金額の計算方法を定めることもできます。買い取りの際の価格交渉でもめる、ということも起きません。

ただ、この対策をとるには、株主全員の同意が必要です。逆にいえば、株主全員と円滑・円満な意思疎通ができるうちに、このような対策を講じておく、ということがポイントになります。

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田 重則

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