1位づくり戦略コンサルタントの佐藤元相です。
先日、神戸市にある株式会社TradStyleを訪問し、代表取締役の吉木大雄社長から、現在取り組んでいる商品開発と市場開拓について話を伺いました。
株式会社TradStyleは、真珠・ジュエリーの卸売、小売を手掛ける会社です。
無調色パールジュエリーブランド「ERIS VELINA(エリスヴェリーナ)」を展開し、神戸という真珠産業の集積地を生かしながら、新しい真珠の価値づくりに挑戦しています。
今回、私が特に興味を持ったのが、「おさかな真珠」という商品です。
魚のように見える個性的な形をしたアコヤ真珠を選び出し、グッピー、フグ、おたまじゃくし、エンジェルフィッシュなどに見立て、一粒一粒の個性を商品価値にしています。
2024年にはMakuakeで先行予約販売を開始しました。
私は実物を見せてもらいながら、「これは面白い商品戦略だ」と感じました。
なぜなら、単に新しい商品をつくったのではありません。
これまでとは違う評価軸をつくり、新しい市場を開こうとしているからです。
真珠業界には圧倒的な強者がいる
ジュエリー業界、とりわけ真珠の世界には、長い歴史と圧倒的なブランド力を持つ強者が存在します。
その強者と同じ商品をつくる。
同じ客層を狙う。
同じ販売方法で競争する。
同じ「丸くて美しい真珠」という評価軸で戦う。
これでは、小さな会社は不利になります。
ランチェスター戦略では、強い相手とは戦わない。
これが弱者の基本戦略です。
では、小さな会社はどうするのでしょうか。
強者の圧倒的な優位性のある領域から離れ、自社が1番になれる狭い領域をつくります。
TradStyleの商品戦略は、まさにここにあります。
「丸くない」を価値に変える
一般的な真珠市場では、丸く、傷が少なく、形の整ったものが高く評価されます。
そのため、形が変形した真珠は、従来の評価基準では価値が低く見られることがあります。
しかし、吉木社長はその真珠を別の角度から見ました。
「形が整っていない」ではなく、「世界に一つしかない自然の形」と捉えたのです。
魚のように見える。
涙のように見える。
波のような模様が入っている。
しかも、形は個性的でも、光を当てると美しい虹色の輝きが現れるものがあります。
吉木社長は私に、
「形は変形していますが、巻きやテリは非常に良いものがあるんです」
と説明してくれました。
ここが重要です。
すべての品質基準を変えたのではありません。
真珠として大切なテリや巻きは高い品質を求めながら、
「形」という一つの評価軸をずらしたのです。
私は、ここに中小企業の商品戦略のヒントがあると思います。
強者と全部で競争する必要はありません。
一つずらす。
一つ違いをつくる。
その違いが、一部のお客さまにとって大きな価値になればいいのです。
社長の「得意」を強みにする
もう一つ、TradStyleの取り組みで重要なのが、吉木社長自身の得意なことを商品戦略に生かしていることです。
吉木社長は長年、真珠に携わり、高度な知識と資格をもっています。
テリ。
巻き。
色。
形。
多くの真珠を見ながら、その品質を判断する目を培ってきました。
変形真珠であれば、何でも価値があるわけではありません。
数多くの真珠の中から、形に個性がある。
しかもテリが美しい。
巻きも良い。
そのような一粒を選び出す必要があります。
つまり、「おさかな真珠」の背景には、吉木社長の目利きがあります。
同じ商品を仕入れることができたとしても、同じ目利きができるとは限りません。
ここは簡単には真似できないところです。
※真珠の品質基準はテリ・巻き・色・形・傷・サイズの6要素で構成され、日本国内では日本真珠振興会の指針や各社の独自基準が用いられます。購入時は、これらの要素と、ブランドや鑑定機関の基準を併せて確認すると、より正確な評価が可能です。
中小企業の経営者から、「うちには特別な強みがありません」という相談を受けることがあります。
そのとき私は、商品や設備だけを見るのではなく、「社長は何が得意なのか」を見ることも大切だと考えています。
社長が好きで長年続けてきたこと。
お客さまから相談されること。
知識や経験から独自の視点で違いが分かること。
当たり前にできるので、自分では強みだと思っていないこと。
そこに競争力が隠れている場合があります。
「神戸にいること」も強さになる
そして、もう一つ見逃せないのが、「神戸」という地域です。
神戸は100年以上の歴史を持つ、世界有数の真珠加工の街です。
世界で流通する真珠の約7割が神戸で選別・加工されているといわれています。
国内だけではありません。
世界各地からさまざまな真珠が集まる。
それを選別する人がいる。
加工する技術がある。
真珠に関する情報や人脈が集まっている。
だからこそ、多様な真珠を見ることができます。
TradStyleにとって、神戸に会社があることそのものが経営資源になっているのです。
ランチェスター戦略には地域戦略があります。
地域戦略というと、「営業エリアを狭くする」ことだけだと思われがちですが、それだけではありません。
地域にある歴史。
産業集積。
仕入れ先。
技術者。
人脈。
文化。
知名度。
こうしたものを自社の強みとして活用することも重要です。
TradStyleの場合、
「吉木社長の目利き × 変形真珠 × 神戸の産業集積」
という組み合わせがあります。
私は、この組み合わせが面白いと思いました。
万人に売らなくていい
吉木社長との話の中で、とても印象に残った言葉があります。
「万人には受けません。でも、一部の人には強く刺さります」
小さな会社は、すべてのお客さまから好かれる必要はありません。
100人から、「悪くないですね」と言われる商品より、一部の人から、「これが欲しい」「こんな真珠は初めて見た」「私はこの形が好き」と強く支持される商品の方が、小さな会社には向いています。
一部のお客さまに深く刺さる。
そこで価格以外の理由で選ばれる。
その市場に経営資源を集中する。
これが弱者の商品戦略です。
「今までのお客さま」以外を見る
客層戦略にも面白い動きがあります。
従来のジュエリーショップには入りにくい。
しかし、美しいものは好き。
個性的なものが好き。
人とは違うものを持ちたい。
そういう人たちが「おさかな真珠」に興味を持っています。
吉木社長が現在出店している場所の一つが、ミネラルショーです。
鉱物や宝石、化石など、さまざまな商品が並びます。
従来型のジュエリーショップとは違う人たちが集まる市場です。
そこで「おさかな真珠」を見て、「こんな真珠があるのですね」と知ってもらう。
そして購入につながる。
つまり、これまで真珠のお客さまではなかった人がお客さまになっているのです。
私は、ここにも新市場開拓のヒントがあると思います。
市場が成熟してくると、「既存のお客さまに、もっと売るにはどうすればいいか」と考えます。
もちろん大切です。
しかし同時に、「まだ買っていない人は誰なのか」という問いも必要です。
商品を少しずらす。
客層をずらす。
売る場所をずらす。
すると、強者とは違う市場が見えてくることがあります。
お客さまの一言から新しい市場を見つける
ミネラルショーへの出店にも、きっかけがありました。
百貨店に出店していたとき、お客さまから、「ミネラルショーには、良い真珠があまり出ていない」という話を聞いたそうです。
吉木社長は、その言葉を聞いて調べました。
すると、真珠を専門的に扱う出店者は多くない。そこで、「ここなら、自分たちの強みを生かせるのではないか」と考え、出店しました。
これはランチェスター戦略でいう、接近戦です。
接近戦とは、直接使う人に話を聞くことです。
直接会う。
直接反応を見る。
直接質問する。
何に興味を持ったのか。
なぜ買ったのか。
なぜ買わなかったのか。
どんな商品が欲しいのか。
どこなら買いたいのか。
誰かから聞いた情報でもなく、ネット上の二次情報でもなく、目の前のお客さまから直接聞く。
ここに、新しい商品や市場のヒントがあります。
BtoCの現場を、BtoBの戦略につなげる
吉木社長が全国の展示会を回っている理由は、目先の販売だけではありません。
実際に商品をお客さまに見てもらい、
どんな人が買うのか。
どの形が選ばれるのか。
どのストーリーに反応するのか。
どの価格なら受け入れられるのか。
それを確かめています。
私は、この取り組みを非常に戦略的だと感じました。
なぜなら、最終的な狙いは、BtoBで販売店を増やすことだからです。
「この商品は売れるはずです」と販売店に提案するのではありません。
BtoCの現場で実際に販売し、
「こういう人が買っています」
「この価格で選ばれています」
「この説明に反応があります」
という実績をつくる。
その実績を持って販売店へ提案する。
つまり、BtoCの現場を商品開発と市場調査の場として活用し、その成果をBtoB営業へつなげているのです。
これも小さな会社だからできる戦い方です。
新しい市場をつくれば、産業にも可能性が広がる
吉木社長は、「変形真珠そのものの価値をもっと高めたい」と話していました。
これまで十分な価値をつけられていなかった真珠に、新しい市場ができる。
適正な価格で売れるようになる。
そうすれば養殖場にも新しい収益が生まれます。
より時間をかけた良い真珠づくりにも挑戦できるようになる。
生産者が元気になる。
産業が続く。
そして次の世代へ技術がつながっていく。
吉木社長は今後、デザイナーとの協業や、よりアート性の高い商品開発、海外展開も考えています。
新しい市場ができれば、一つの会社だけではなく、真珠業界そのものに新しい可能性が生まれます。
強者と戦わず、自分が強くなれる市場をつくる
私は今回のTradStyleの取り組みを見ながら、ランチェスター戦略の原則を改めて感じました。
強い相手とは戦わない。
強者が圧倒的に強い市場で、真正面から競争しない。
自社の得意を見つける。
地域の強みを活用する。
お客さまに直接話を聞く。
客層をずらす。
売り場をずらす。
商品をずらす。
そして、自社が一番になれる場所をつくる。
TradStyleの場合、吉木社長の「目利き」がある。
「神戸」という地域資源がある。
個性的な「変形真珠」がある。
そして、お客さまと直接対話しながら商品を育てている。
この一つひとつを組み合わせることで、強者とは違う市場をつくろうとしています。
私は、これこそ小さな会社の戦略だと考えています。
最後に
中小企業経営者の皆さんに問いかけたいと思います。
あなたの業界の圧倒的な強者は誰でしょうか。
その会社と、同じ土俵で戦ってはいないでしょうか。
そしてもう一つ。
あなた自身が、人より得意なことは何でしょうか。
さらに、あなたの会社がある地域だからこそ使える強みは何でしょうか。
新しい市場をつくるために、すべてを新しくする必要はありません。
社長の得意。
会社が培ってきた経験。
地域にある資源。
そして、お客さまの声。
これらを組み合わせた先に、まだ誰もつくっていない、自社が1位になれる市場があるかもしれません。

https://erisvelina.jp/pages/aquarium
会社概要
会社名:株式会社TradStyle
https://www.erishow.com/
代表者:代表取締役 吉木大雄
所在地:兵庫県神戸市北区緑町7-20-10
設立:2011年2月
資本金:1,000万円
事業内容:真珠・ジュエリーの卸売、小売、パールジュエリー事業
ブランド:ERIS VELINA(エリスヴェリーナ)
主な取り組み:「おさかな真珠」をはじめ、真珠の品質と一粒ごとの個性を生かした商品





















