ヒト・モノ・カネ…限られた経営資源を上手く活用しながら会社の利益を向上させていくことが、社長の役割。そのためには自社の現状を見つめ直し、経営を効率化する「業務改善」が欠かせない。しかし、「実際には何をすればよいのかわからない」と、実行したくても足踏みしてしまう現状がある。その問題を解決すべく、10年間で総額1兆円の事業改善に乗り出し、コスト縮減総額2000億円を実現した横田尚哉氏が「利益を最大化する業務改善」の順序を公開する。
いよいよ最終回となりました。
私はこの連載を通して、まず時間や費用を捻出する(第1話)ことの重要性を述べさせていただきました。そして、顧客ニーズを捉え(第2話)、対応速度を上げる(第3話)ことに費やすべきだとお伝えしました。
利益を最大化するためには、結局のところ、ポイントは2つです。1つは、顧客から選ばれ続けること、つまり需要面の強化(第4話)です。もう1つは、効率のよい提供手段に変え続けること、つまり供給面の強化です。
第5話となる最終回では、効率よく利益を生み出せる店舗に改善した事例を取り上げます。
客席面積を増やす
ある飲食店の経営者から、利益を最大化してほしいという依頼がありました。その経営者が着目しているところは、店舗における利益効率の向上です。提供している商品やサービスの品質を下げることなく、利益を高めたいというものです。特に、厨房の存在が、固定費削減を阻害しているという、問題意識をお持ちでした。
もちろん、飲食店にとって厨房は、重要な存在です。提供方法にもよりますが、一般的には、店舗面積の30%程度と言われています。依頼のあった店舗の厨房面積も、やはり30%近くありました。見たところ、厨房の中に無駄なスペースはなさそうです。むしろ、ところ狭しと食器や食材が積み上がっている状況です。調理器具は、厳選されているようですが、それでも、面積を減らすのは到底無理のように感じます。 しかし、もし厨房の面積が半分でなれば、売上は20%向上するのです。客席が70%から85%になるからです。もちろん、集客力が伴っていなければ、空席が増えるだけです。客席稼働率は、それなりに高まる前提です。客数が増える分、厨房の能力も20%増しにする必要がありますが、実現すれば、大きく利益効率を高めることになります。
そこで、経営者の号令のもと、厨房半減のプロジェクトが始まりました。店長や従業員の他、店舗開発担当者や地域営業担当者にもメンバーに入って頂き、私がファシリテータとして、チームが結成されました。そうして、4日間の改善活動が始まったのです。用いる手法は、ファンクショナル・アプローチです。
※ファンクショナル・アプローチ:モノやコトを役割や効用といった、本来、達成するべき真の目的(ファンクション)で見て、より価値の高い、あるべき姿を見つけ出す方法。先入観や固定観念の壁を取り除き、問題の解決策を探したり、イノベーションを起こすこともできる画期的な思考法。(例)メガネ→《視力を補う》、コップ→《液体を留める》
厨房は誰のため?何のため?
最初の取り組みは、厨房の現状分析から始めます。ただ、改善しようと思っても、何から始めればよいかわかりません。大切なのは、問題の対象を、細かく分割することです。厨房には、いくつかのエリアに別れています。そして、そのエリアには、複数の設備があります。その他に、流動的な食材や食器、作業するための空間や通路なども厨房の要素です。
次に行うのが、設備や空間の役割を定義することです。そこに設備や器具があることは、誰もが認めることですが、それが「誰のためなのか?」「何のためなのか?」と問いかけると、意外と言葉に詰まってしまうのです。その問いかけにより、役割や効用といったものを、メンバー全員で確認し、定義していくのです。
それぞれの役割には、それを果たすことによる目的があります。それを、探っていきます。設備や器具には、必要ないが備わっている機能もあります。それは余分な機能であって、目的はありません。ここで注目するのは、本当に必要な役割だけを抜き出していきます。
その結果、厨房のメカニズムが明確になります。そもそも厨房で果たさなければならない真の役割が見える化できるのです。すべての設備や器具は、その真の役割を果たすために、設計当時に選択された、1つの手段に過ぎないということです。
1
2