menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

第3回 思考の多様性を育む組織改革のヒント 優秀な経営者でも陥るバイアスの罠とは

ピョートル・F・グジバチの『経営戦略の新常識』

 「多様性」と聞くと、性別や年齢の違いが真っ先に思い浮かぶかも知れません。しかし、組織の競争力を決定づけるのは「思考の多様性」です。 例えば、ある企業では経営陣の考えが似通っていたために、新市場の機会を見逃し、大きな成長のチャンスを逸しました。

 市場の変化に対応できるかどうかは、異なる視点をどれだけ取り入れられるかにかかっています。思考の多様性があれば、問題解決の精度向上も期待できるでしょう。似た価値観の集団は想定範囲に限界があり、リスクや機会を見逃しがちです。一方、多様な視点を反映した集合知があれば、的確に判断可能です。

 さらに変化に強い組織文化づくりも可能です。激変する市場で、1つの考えに固執して衰退する企業が、これまで数多く存在してきたのも事実です。 しかし多くの企業では「思考の多様性」は十分に活かされていません。その背景には、さまざまなバイアスが潜んでいます。

 

この記事のポイント

1.思考の多様性はイノベーション創出や問題解決力・組織力を強化する

2.無意識のバイアスによる意思決定の偏り、リスクや機会の見落とし、競争力低下に注意

3.経営者が率先してバイアスを克服すると、多様な思考が集まる組織文化づくりに有効

 

「思考の多様性」が失われると何が起こるか?

 思考の多様性が欠如すると、企業は過去の成功モデルに固執し、変化に対応できなくなります。「この方法で成功してきたから大丈夫だ」と考えることで、新たな可能性を自ら閉ざし、競争力を失ってしまうのです。市場の変化に適応できなければ、企業の成長は確実に鈍化します。

 また、社員が意見を出しにくくなる点も問題です。「どうせ言っても通らない」と思う環境では、現場のリアルな課題が経営層に届かず、組織の柔軟性が失われます。

 さらに、市場での競争力も低下します。過去の成功モデルへの固執が、新しいプレイヤーに市場を奪われるリスクを高めます。

 では思考の多様性を阻むものとは何でしょうか? それは組織内に潜む「バイアス」です。

 

バイアスとは? 組織に潜む無意識の思い込み

 バイアスとは「無意識のうちに特定の考え方に偏ること」であり、意思決定に見えないフィルターをかけてしまうものです。 確かに、バイアスは迅速な判断を助けることもありますが、異なる意見を排除し、重要な機会やリスクを見落とす要因にもなります。

 代表的なバイアスには以下のような種類があります。

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)
「若手にはこの仕事はまだ難しい」と、挑戦の機会を奪う。

親和性バイアス(似た者同士を優遇)
「出身大学が同じだから信頼できる」と思い込む。

確証バイアス(信じたい情報だけを集める)
「過去に失敗した分野なのでもう参入しない」と決めつける。

 バイアスが強い組織では同じ意見ばかりが通り、本当に優先度の高い課題が、経営層まで届きにくくなります。しかもバイアスは無意識に働き、気づきにくい。しかしそれが経営判断を誤らせ、企業の命運を左右します。「どんな優秀な経営者にもバイアスはある」と自覚し、克服できるかどうかが、成長の分岐点です。

 

バイアスを克服し、思考の多様性を活かすためのステップ

 では具体的には、どのような行動でバイアスを克服するのでしょうか?

Step 1: バイアスに気づく

 意思決定の際に「なぜこの意見を却下したのか?」と自問してください。決定前に第三者の視点を取り入れるのも有効です。

Step 2: データを活用する

 経験や感覚だけでなく、売上データや市場分析など、客観的な情報に基づいた判断を心がけます。

Step 3: 異なる視点を意図的に取り入れる

 異なる部署や立場の社員を相手に意見交換したり、会議で「反対意見を述べる役割」を会議で設けたりするのも効果的です。

Step 4: 振り返りと習慣化

 「社内の意見は偏っていないか?」と定期的にチェックし、バイアスをテーマに社員と対話を重ねてみるのも効果的でしょう。

 これらの点を常に意識し、より柔軟で創造的な組織作りにつなげてください。

 

経営者自身が自分のバイアスに気づくための6つの問い

 さらに経営者自身が自身のバイアスを自覚するのが、組織変革への第一歩です。以下の6つの問いについてチェックしてみましょう。

「毎日定時で帰る社員」を見て、無意識に「やる気がない」と感じたことはあるか?

 「この社員は成果を出しているか?」ではなく「この社員は十分な時間働いているか?」を基準にしていないか、自問してみましょう。

2 人材を評価する際の基準は何か?

 「優秀なリーダーは○○であるべき」といった固定観念がないか振り返ってみましょう。

3 評価しづらい社員の強みは何か?

 自分には一見扱いづらい人材も、視点を変えれば組織の強みになります。

4 チームに思考の多様性はあるか?

 似た考え方のメンバーばかりなら、意図的に異なる視点を持つ人材を加える工夫を。

5 一人ひとりの違いを強みに変えるには?

 個性を活かす仕組みがあれば、組織の柔軟性は格段に向上します。

6 最近の意思決定に影響を与えた経験や感情は?

 直感や過去の成功体験に頼りすぎていないか、チェックしてください。

 定期的に自問することで、無意識のバイアスに対処しやすくなります。

 

今日からできる実践的アクション

 最後に、今すぐ組織全体で実践できるアクションを紹介しましょう。

自分の判断を客観的に見直す

  「この意思決定はデータに基づいているか?」と問う習慣をつける。

「異論を歓迎する仕組み」を会議に導入する

 毎回の会議で「この案のリスクは何か?」と問い、必ず反対意見を出す時間を設ける。

社員に「最近新しい気づきはあったか?」と問いかける

 1on1やフィードバックなど、定期的に社員と価値観を共有する場を用意し、互いに視野を広げる。

 

【まとめ】多様な思考・バイアスの克服が、組織の生長を加速する

 思考の多様性は、イノベーションを加速し、問題解決力を高め、変化に強い組織を築きます。しかし多くの企業では、無意識のバイアスがそれを妨げ、意思決定を偏らせています。

 バイアスは誰にでも存在すると認識し、克服することが経営者の責務です。 今日からできる行動として「データに基づいた判断」「多様な意見を確保する仕組み」を導入し、「異論を歓迎する文化」を育てましょう。

 これは「組織の競争力を高める経営戦略」であり、単なる意識改革ではありません。 まず経営者自身が変わってください。組織の意思決定の質が向上し、成長が加速します。                                                    

第2回 心理的安全性が生む経営成果:意思決定スピードと市場対応力を高める方法前のページ

第4回 「対話」と「信頼」が起点 成長を諦めない経営者が今すぐ実践すべき新習慣次のページ

JMCAおすすめ商品・サービスopen_in_new

関連セミナー・商品

  1. 組織を勢いづける、これからの社長の役割と実務

    音声・映像

    組織を勢いづける、これからの社長の役割と実務

関連記事

  1. 第2回 心理的安全性が生む経営成果:意思決定スピードと市場対応力を高める方法

  2. 第6回 経営者が陥る「時間とお金」の5つの罠 高インパクト経営への3ステップ

  3. 第5回 なぜ多くのビジネス目標は失敗するのか?売上と成長を生む目標設定の仕組み

最新の経営コラム

  1. 相談7:含み損のある土地があるのですが、別会社で買うのがいいか、個人で買うのがいいか、どちらでしょうか?

  2. 第9回 注意しても部下が変わらないのはなぜか? ~原因は人ではなく仕組みにある~

  3. 第146回 地味ながら世のクラウド化の追い風を受けて高成長を遂げる サイバーリンクス

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 経済・株式・資産

    第161話 金融機関が強く警戒する「資産の架空性」
  2. マネジメント

    第103回 『こだわりを捨てる』
  3. 新技術・商品

    第47話 低価格競争からの脱却が理由だった!
  4. 教養

    2013年7月号
  5. 社員教育・営業

    第6話 「パラドックス的な見方」
keyboard_arrow_up