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マネジメント

第8回 若手が辞めずに育つ組織へ ~いま求められる”叱らない”時代のマネジメント~

ピョートル・F・グジバチの『経営戦略の新常識』

 「注意しただけなのに翌日から来なくなる」「アドバイスしたつもりが”批判された”と受け取られる」「何を言っても行動につながらず、成長しない」。いま、中小企業の経営現場で最も切実な悩みがこれです。

 ”若手が打たれ弱いから” “最近の若い人は何を考えているのか分からない”──そう感じるのも無理はありません。しかし問題の本質はそこではなく、対面の機会が減り、転職が当たり前になり、SNSで常に他者と比較される──こうした社会構造の変化が、フィードバックの受け止め方を根本から変えているのです。

 かつて有効だった「強く言えば育つ」「背中を見て学べ」という育成モデルは、現代ではむしろ逆効果です。では、若手が辞めずに育つ組織をつくるにはどうすればよいのか。今回は、明確さ、心理的安全性、自己責任(オーナーシップ)という三つの視点から、今日から実践できる育成の”新しい常識”を紹介します。

この記事のポイント

1.若手が育たない理由は”やる気不足”ではなく、時代に合っていない育成構造にある
2.成長と離職防止を両立させる鍵は「明確さ × 心理的安全性 × 自己責任」
3.育成の効果を高めるには、長時間指導よりも”短いサイクルと問いかけ”が最も有効である

 

なんとなく”の指示が、若手を止めている

 若手社員が思うように動かない理由の一つは、「何が正解なのか分からない」という曖昧さにあります。

 例えば次のような指示をしていませんか?

<曖昧な指示の例>
 「もっと丁寧にやって」
 「次から気をつけて」
 「しっかり考えればできるはず」

 これでは”どう変えればいいのか”が分からず、不安だけが残ります。曖昧さは迷いを生み、迷いは行動を止める──

 一方で、目的・期待する成果物・期限・判断基準を冒頭で明確にするだけで、若手の動きは大きく変わります。

<明確な指示の例>
 「目的はA。成果物はBの形。期限は金曜。判断基準はCです」

 こうした明確さが、若手の行動の”土台”をつくるのです。

 

アドバイス=批判”と受け取られる時代の壁

 若手育成で次に重要になるのが「心理的安全性」です。とはいえ、心理的安全性とは”優しく接する”ことではありません。ミスを人格否定せず、事実と改善点だけを淡々と伝える状態を指します。

 SNSで常に他者の評価にさらされてきた世代は、小さな否定でも「自分が否定された」と受け取りやすい傾向にあります。これは”弱さ”ではなく、彼らが生きてきた文化環境の影響なのです。

 だからこそ、ため息や語気の強さといった無意識のトーンが、強烈な否定として伝わってしまいます。改善点を伝える際には、感情を排したニュートラルな言い方が欠かせません。

 

成長する職場と、成長が止まる職場の決定的な違い

 ここで、若手育成における典型的な違いを整理してみましょう。

【若手が辞める職場、育つ職場──決定的な5つの違い】

観点

若手が育つ職場

若手が育たない職場

仕事の基準

具体的で明確

「しっかり」「ちゃんと」など曖昧

指摘の姿勢

行動を指摘

人格として伝わりやすい

フィードバック

毎週など短いサイクル

月1・期末だけ

上司の関わり方

質問中心

指示中心

若手の状態

主体的に動く

受け身で動けない

 多くの組織は気づかぬうちに”右側”に入り込み、若手が動けない構造をつくってしまっています。

 

短いサイクルが若手を最も成長させる

 若手が成長しない原因の三つ目は、フィードバックの間隔が長すぎることです。月に一度の面談では、本人は何をどう振り返ればいいのか分かりません。成長は、小さな改善を積み重ねるプロセスです。

 ある企業では、週1回10分の「ミニ面談」を導入したところ、若手のミスが40%減り、離職率も大幅に改善しました。重要なのは長時間の指導ではなく、短く、頻度高く、心理的に安全なサイクルをつくることです。

 面談の内容はシンプルです。

  • 今週できたこと
  • 次に改善したいこと
  • 困っている点

 これだけで、若手の行動は安定し、自信がつき、成長が加速するのです。

 

指示ではなく”問いかけ”が主体性をつくる

 若手が育つ組織の共通点は、上司が問いかけを使うことです。

「どう進めたい?」
「お客さま視点で見たらどう感じる?」
「次に改善するとしたらどこ?」

 質問によって責任が本人に戻り、「自分で考える力」が自然と鍛えられるのです。逆に指示を出しすぎると、短期的には早く進むように見えても、長期的には依存体質を生み、離職や停滞の原因になります。

 

経営者が変わった瞬間、現場が動き出した

 製造業A社では、社長が会議での発言時間を半分にしました。たったそれだけで、わずか3か月で若手からの提案が5件から20件へ増え、会議が「報告の場」から「創造の場」へ変わったのでです。

 サービス業B社では、面談を「評価」から「学びの対話」に変えたことで、若手の離職率が20%から8%へ大幅に改善。年間800万円の採用・教育コストを削減しました。

 どちらも制度を大きく変えたわけではありません。経営者の関わり方が変わっただけです。行動を変えれば、文化が変わり、成果が変わる。これはどの組織でも再現できる法則です。

 

【まとめ】若手が辞めず育つ組織は”関わり方”で決まる

 若手が辞めてしまうのは、世代論や根性論で説明できる問題ではありません。必要なのは、時代に合わせた新しい育て方です。叱らなくても、甘やかさなくてもいい。

 大切なのは、
 ①仕事の明確さ②安心して話せる雰囲気③自分で考える機会

 この三つを整えることです。今日ひとつだけで構いません。若手との関わり方を意識的に変えてみてください。その小さな一歩が、半年後の離職率を変えます。

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