経営者が最も無駄にしている時間の一つが、「同じ注意を二度言うこと」です。
「先週も言ったよね?」
「なぜまた同じミスが起きるんだ?」
「改善したと思ったらすぐ元に戻る…」
多くの経営者は、この現象を「やる気の問題」「個人の能力不足」と結びつけがちです。しかし実際には、注意が効かない理由の大半は、人ではなく“構造”にあります。
どれだけ誠実で前向きな社員でも、基準・情報・権限・手順といった前提条件が揃っていなければ行動は変わりません。属人的な“頑張り”頼みの組織は再現性がなく、注意しても改善が定着しないのです。
今回は、「前提条件」「再現性」「組織の政治性」の3つの視点から、注意が機能する組織と機能しない組織の違いを解説します。
この記事のポイント
1.行動が変わらない理由は個人ではなく仕組みの欠陥にある
2.再現性を生む鍵は「基準・情報・権限」の設計
3.注意は叱責ではなく「構造改善のシグナル」として扱うことが最も効果的
“注意しても変わらない”のは、変えられない構造だから
行動が変わらない組織には同じ特徴があります。
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判断基準が曖昧
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情報が散在
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手順が属人化
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判断権限が曖昧
この環境では、いくら注意しても改善は定着しません。
例えば次のような状況はないでしょうか?
<構造の病理の例>
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同じ業務なのに、AさんとBさんでやり方が全く違う
- 判断基準が「丁寧に」「早めに」といった抽象語
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責任は重いのに、現場には判断権限がない
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経験者の暗黙知に業務が依存している
この状態で注意しても、人を責めて終わるだけで仕組みは変わりません。そして構造を変えない限り、ミスは必ず再発します。
データが示す真実:ミスの原因は人ではなく構造にある
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業務プロセスを標準化した企業は、コスト20%削減・エラー50%減少(マッキンゼー)
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作業手順を明確化した製造業ではミスが激減
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印刷会社の再設計では、不要作業66%削減・残業ゼロ
組織心理学者ジェームズ・リーズンはこう語っています。
「人間の本質は変えられないが、人間が働く条件は変えられる」
つまり、注意で人を変えるより、条件を変える方が圧倒的に効果的なのです。
注意が効く組織と効かない組織の違い
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観点 |
注意が効く組織 |
注意が効かない組織 |
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基準 |
成果物や条件が具体的 |
「しっかり」「丁寧に」 |
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情報管理 |
最新版が一箇所に集約 |
情報が散在 |
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権限 |
判断できる範囲が明確 |
責任だけ重く権限は曖昧 |
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再現性 |
誰がやっても同じ結果 |
優秀な人しか回せない |
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改善姿勢 |
ミスを改善シグナルとして扱う |
ミスを個人の問題として扱う |
特に中小企業で深刻なのが、いわゆる「属人化の政治」です。優秀な人ほど情報を握り、業務を自分流にし、上司も止められない。結果として仕組みが進化せず、組織全体の再現性が失われます。
注意は叱責ではなく、改善シグナルである
注意が発生した時点で、“構造のどこかに弱点がある”ことが確定しています。注意をした直後に経営者が考えるべき問いは3つ。
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今回のミスは、どの仕組みの弱点を示しているのか
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前提条件(基準・情報・権限)は揃っていたか
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同じ注意が二度不要になる構造にするには何を変えるべきか
注意を感情で終わらせるのか、構造改善につなげるのか。この選択が、半年後の業績を左右します。
三回注意したら、個人ではなく構造の問題と判断する
非常に実務的で効果の高いルールがあります。
「同じ注意が三回出たら、それは個人ではなく仕組みの問題」。構造が変われば、社員の能力がそのままでも結果は変わります。逆に構造を変えない限り、何人採用しても同じタイプの問題が再発します。
最も簡単な改善法──90分の可視化
業務改善の最短ルートは、次の4つを書くことです。
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手順
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判断基準
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例外処理
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権限範囲
これだけで暗黙知が言語化され、判断の迷いが消え、再現性が高まります。
【まとめ】構造を変えない経営者は、同じ注意を一生繰り返す
注意しても変わらない理由は、能力でもやる気でもありません。行動を変えられない構造のまま業務が設計されているからです。
必要なのは、明確な基準、一本化された情報、権限のデザイン。
この3つを整えるだけで、注意は減り、ミスは減り、組織の再現性は大きく向上します。注意を失敗として扱うか、改善シグナルとして扱うか。その姿勢が、組織の未来を決めます。そしてひとつだけ確かなことがあります。構造を変えない限り、注意は永遠に終わらない。



























