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マネジメント

第9回 注意しても部下が変わらないのはなぜか? ~原因は人ではなく仕組みにある~

ピョートル・F・グジバチの『経営戦略の新常識』

 経営者が最も無駄にしている時間の一つが、「同じ注意を二度言うこと」です。

「先週も言ったよね?」
「なぜまた同じミスが起きるんだ?」
「改善したと思ったらすぐ元に戻る…」

 多くの経営者は、この現象を「やる気の問題」「個人の能力不足」と結びつけがちです。しかし実際には、注意が効かない理由の大半は、人ではなく“構造”にあります。

 どれだけ誠実で前向きな社員でも、基準・情報・権限・手順といった前提条件が揃っていなければ行動は変わりません。属人的な“頑張り”頼みの組織は再現性がなく、注意しても改善が定着しないのです。

 今回は、「前提条件」「再現性」「組織の政治性」の3つの視点から、注意が機能する組織と機能しない組織の違いを解説します。


この記事のポイント

1.行動が変わらない理由は個人ではなく仕組みの欠陥にある

2.再現性を生む鍵は「基準・情報・権限」の設計

.注意は叱責ではなく「構造改善のシグナル」として扱うことが最も効果的

 

注意しても変わらない”のは、変えられない構造だから

 行動が変わらない組織には同じ特徴があります。

  • 判断基準が曖昧

  • 情報が散在

  • 手順が属人化

  • 判断権限が曖昧

 この環境では、いくら注意しても改善は定着しません。

例えば次のような状況はないでしょうか?

<構造の病理の例>

  • 同じ業務なのに、AさんとBさんでやり方が全く違う

  • 判断基準が「丁寧に」「早めに」といった抽象語
  • 責任は重いのに、現場には判断権限がない

  • 経験者の暗黙知に業務が依存している

    この状態で注意しても、人を責めて終わるだけで仕組みは変わりません。そして構造を変えない限り、ミスは必ず再発します。

データが示す真実:ミスの原因は人ではなく構造にある

  • 業務プロセスを標準化した企業は、コスト20%削減・エラー50%減少(マッキンゼー)

  • 作業手順を明確化した製造業ではミスが激減

  • 印刷会社の再設計では、不要作業66%削減・残業ゼロ


 組織心理学者ジェームズ・リーズンはこう語っています。

「人間の本質は変えられないが、人間が働く条件は変えられる」

 つまり、注意で人を変えるより、条件を変える方が圧倒的に効果的なのです。

注意が効く組織と効かない組織の違い

観点

注意が効く組織

注意が効かない組織

基準

成果物や条件が具体的

「しっかり」「丁寧に」

情報管理

最新版が一箇所に集約

情報が散在

権限

判断できる範囲が明確

責任だけ重く権限は曖昧

再現性

誰がやっても同じ結果

優秀な人しか回せない

改善姿勢

ミスを改善シグナルとして扱う

ミスを個人の問題として扱う

 特に中小企業で深刻なのが、いわゆる「属人化の政治」です。優秀な人ほど情報を握り、業務を自分流にし、上司も止められない。結果として仕組みが進化せず、組織全体の再現性が失われます。

注意は叱責ではなく、改善シグナルである

 注意が発生した時点で、“構造のどこかに弱点がある”ことが確定しています。注意をした直後に経営者が考えるべき問いは3つ。

  1. 今回のミスは、どの仕組みの弱点を示しているのか

  2. 前提条件(基準・情報・権限)は揃っていたか

  3. 同じ注意が二度不要になる構造にするには何を変えるべきか

 注意を感情で終わらせるのか、構造改善につなげるのか。この選択が、半年後の業績を左右します。

三回注意したら、個人ではなく構造の問題と判断する

 非常に実務的で効果の高いルールがあります。

 「同じ注意が三回出たら、それは個人ではなく仕組みの問題」。構造が変われば、社員の能力がそのままでも結果は変わります。逆に構造を変えない限り、何人採用しても同じタイプの問題が再発します。

最も簡単な改善法──90分の可視化

 業務改善の最短ルートは、次の4つを書くことです。

  • 手順

  • 判断基準

  • 例外処理

  • 権限範囲

    これだけで暗黙知が言語化され、判断の迷いが消え、再現性が高まります。

【まとめ】構造を変えない経営者は、同じ注意を一生繰り返す

注意しても変わらない理由は、能力でもやる気でもありません。行動を変えられない構造のまま業務が設計されているからです。

必要なのは、明確な基準、一本化された情報、権限のデザイン。

この3つを整えるだけで、注意は減り、ミスは減り、組織の再現性は大きく向上します。注意を失敗として扱うか、改善シグナルとして扱うか。その姿勢が、組織の未来を決めます。そしてひとつだけ確かなことがあります。構造を変えない限り、注意は永遠に終わらない。

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