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第53回 湯河原温泉(神奈川県) ウィズコロナの時代こそ「ソロ温泉」へ

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■感染リスクが低い一人旅
 コロナ禍になって温泉旅行から遠ざかっている人は少なくないだろう。ワクチン接種が進めば旅行需要も徐々に回復すると見込まれているが、しばらくは旅先でもマスクと消毒液は必需品で、つねに感染のリスクに注意を払うことになりそうだ。特に団体やグループでの旅行は、まだハードルが高い。
 そこで、おすすめしたいのが一人で行く温泉旅。私は「ソロ温泉」と呼んでいるが、ウィズコロナ時代に適した旅のスタイルだといえる。
 ソロ温泉は、団体やグループの旅行よりも感染のリスクが圧倒的に低い。マスクを外して会話をするわけではないし、酒を飲みすぎてはめを外すこともない。
 優秀なビジネスエリートや経営者ほど、ひとりの時間を大切にしている。ある経営者は、忙しない日常から離れて、一人で思考をめぐらす時間を意識して確保するようにしているという。今後の戦略を考えたり、これまで手つかずのままだった課題について熟考したりするのだ。そのためにホテルや旅館など静かな環境に出かけて「一人合宿」を行なっているとか。
 ソロ温泉は、そうした「一人合宿」の絶好の場である。一人旅は、どこへ行くのも、何をするのも自由。ただただ温泉につかり、心身をリラックスさせて、一人でゆっくり思考をめぐらせる。日々むずかしい判断を迫られる経営者にとって、そうした時間は貴重であろう。
 
■貸切の露天風呂と最高のご馳走
 私自身、コロナ禍の前からソロ温泉によく出かけていたが、常宿としていたのが湯河原温泉(神奈川県)の「オーベルジュ湯楽」である。湯河原は東京駅から新幹線に乗れば1時間で到着する距離である。一人で旅に出るにはほどよい距離であり、思い立ったら気軽に訪れることができる。
 宿の魅力のひとつは、湯の質が高いこと。湯河原ではめずらしい源泉かけ流しの本格派で、特に貸切の露天風呂は、20畳ほどある広々とした岩風呂。70℃以上あるアツアツの自家源泉が打たせ湯のように、ドボドボと音を響かせながら湯船に注がれている様は圧巻。湯河原の山々を借景にした環境も情緒がある。なにより、湯船を独占できるのは、最高の贅沢である。
 もうひとつの魅力は、一般的な旅館メシとは一線を画す料理である。和食とイタリアンを融合させた創作料理は一品ずつ供される。前菜にはじまり、天然地魚のお造り、有機大根とムール貝のスープを使った自家製パスタ、鯛のグリル、ふじやま和牛サーロインのタリアータ、サーモンとせりの炊き込みご飯、本日のデザートまで――。地元の食材を活かした創作料理の数々は女性にも人気が高い。どれもワインがぐいぐい進む美味しさだが、見た目も色とりどりで、食欲を誘われる。
 
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■抜群のコストパフォーマンス
 小説執筆のために、同宿に長逗留をした芥川賞作家の川上未映子さんは、自身のブログ「純粋悲性批判」の中で、その感動を次のように表現している。
「金輪際ふざけないで! というくらいにご飯がおいしくて、『どうせまたおいしいのやろ!』とレストランに行く廊下でつぶやくほどに毎晩何もかもがおいしく、部屋からほとんど出ないわたしは最初はそのおいしさの陳列にすこぶる戸惑いもしたが最後は唯一の楽しみになっていました」
 また、「湯楽文庫」と名づけられたパブリックスペースがあるのも一人旅にはうれしい。湯河原にちなんだ書籍などがそろえられ、サービスのコーヒーをいただきながら、ゆっくりとソファーでくつろげる。
 この充実度で、料金は1万円台後半から(料理や部屋をグレードアップするプランもあり)。コストパフォーマンスは抜群である。近場にソロ温泉を敢行できる常宿をもてば、いつでもリフレッシュできる。心身に余裕のないときこそ、ぜひソロ温泉に出かけてみてほしい。
 

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