中小企業の資金繰りで予想がしづらいのは決算時だと思います。決算の内容次第では納税額が大きく変わり資金繰りにも影響があるからなのです。毎月の資金繰りならいざ知らず、決算後の納税額に影響される資金繰りでは経理処理の迅速さがないとたいへんなことになります。ゼロゼロ融資による資金が預金に滞留している企業ならいいのですが、すでに使い果たしてしまった企業で、かつ、経理処理に時間がかかっているような企業では、予想以上に納税額が多くなりすぎて納期限までには対応できないということもあるからです。
じっさい、何かあったときには銀行融資がしてもらえるというのが中小企業経営者の心のよりどころだったのですが、最近の経営環境をめぐる変化、とくに、仕入れ価格の上昇とインボイス制度は経営者の悩みの種となっています。しかも決算後にこれらが納税額にどんな影響を与えたかを知るまでは大きな問題であることに気づかないのが実情なのです。
たとえば、今まで1個1万円で仕入れていた材料Aが、 300個在庫であった場合、棚卸価格は300万円になります。ところが材料Aが値上がりしてしまい、さらに価格上昇が予想されるとして決算日に単価2万円で10個仕入れたと仮定すると、材料Aの在庫数は310個になり、最終仕入単価が2万円になります。そしてこれを計算すると310個x2万円で材料Aの棚卸額が620万円になってしまうのです。
これでおわかりいただけるように、最後に仕入れた材料の単価が値上がりしていれば、必ず棚卸額は増加し利益に反映します。しかもこの利益は安く仕入れて高く売ったことから発生する利益という経営者が実感する利益とは異なり、あくまで紙の上の計算で発生する実感のない利益なのです。これが中小企業の多くで使われている最終仕入原価法(注1)の実態なのです。
インボイス制度でも、経営者が実感できないような税負担を生みます。たとえば、インボイス事業者から何かを買ってインボイス番号が請求書に書かれていたとしても、消費税率、消費税額、取引内容のいずれかが書かれておらず、インボイスとして不適格になり結果として買い手側が全額仕入税額控除できずに多く消費税を払わされる場合などです。これらは交際費相当の手書きの領収書では非常に多くみうけられます。(注2)
経営者が実感できない利益・税負担は実態とは違い、経理上で生まれるものの為、経営者がじっさいに経理を把握していなければ理解しづらいものになります。
(注1)最終仕入原価法
最後に仕入れた1単位あたりの取得単価で、期末の棚卸資産を評価する方法で、 税法上で最終仕入原価法の適用が認められているため、中小企業の多くで採用されています。なお、上場企業は別です。
(注2)適格請求書の記載事項 国税庁HPのPDF参照

















