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第167話 「危険ゾーン」から立て直した会社は、何をやったのか?

あなたの会社と資産を守る一手

― 帳簿上の現金が消えていた会社の立ち直りの実例 ―


 帳簿上には数百万円の現金があるにもかかわらず、実際の金庫にはほとんど現金が残っていない。この状態が数期続いていたある中小企業は、銀行から「資金管理に問題がある」と指摘され、追加融資を断られたことではじめて、自社が”危険ゾーン”に入っていることを自覚したケースがありました。ここでは、その会社がどのようにして立て直しに成功したのかを、実例をもとに整理します。


 この会社は製造業で、月商は約1,000万円。決算書上の現金残高は毎期800万円前後で推移していましたが、実際には常に数万円しか手元に残っていませんでした。原因を洗い出した結果、社長が日常的に会社の現金から個人的な資金を用立てていたり、関連事業の別会社に資金を融通していて、それらを「後で戻すつもり」で放置していたことが判明しました。帳簿上は現金が残り、実態との乖離が常態化していたわけです。


 立て直しの第一歩は、「現金がない」という事実を社長自身が認め、それが重大な問題であることを認識することでした。税理士同席のもとで現金実査を行い、帳簿残高との差額約780万円を正式に確定させました。この時点で重要だったのは、「原因が分からない」と曖昧にせず、社長の流用という現実を直視した点と、社長自身がこれを深刻な問題であると本心から認識したことです。最終的にはここがもっとも重要なのですが、社長がこの問題を本当に深刻にうけとめなければ絶対に解決しないということがわかると思います。


 次に行ったのが、差額の整理です。この会社では、差額全額を「役員貸付金」として処理しました。理由は、社長に返済意思と返済能力があり、実際に返済計画を立てられたからです。開始後の決算時からは役員報酬の増額もしたのですが、返済期間を5年とし、毎月一定額を社長の個人口座から会社へ返済する契約書を作成しました。これにより、帳簿上の現金と実態の乖離は解消され、資金の流れが可視化されました。


 同時に、現金管理の仕組みを抜本的に見直しました。ただ、これほどの問題であるにもかかわらず、社長自身がこの点を納得するまでに時間がかかり、抵抗したのですが、税理士の説得で納得してもらいました。まず、現金支払いを極力廃止し、一定額以上を預金経由としました。やむを得ず大きな現金を使う場合は、必ず数日中に出納帳へ記帳し、月次で現金実査を行うルールを導入しました。


 この取り組みを銀行にも正直に説明しました。もちろん、当初、銀行は厳しい姿勢を崩さなかったのですが、「現金差異の原因」「整理方法」「再発防止策」を一つずつ説明し、役員貸付金の返済実績を積み上げたことで評価が変わってきました。1年経過後には、運転資金の追加融資が実行され、資金繰りは安定を取り戻しました。


 この事例からわかるように、「危険ゾーン」に気づいた時点で、社長が事の重大性をちゃんと理解して、問題を小さく見せようとしなかった点が必要です。現金差異を放置し、帳簿合わせを続けていれば、いずれ致命的な段階に進んでいた可能性が高いものです。立て直しに成功した会社は、現金を”数字”ではなく”実態”として扱い直しています。


 帳簿上の現金が消えている会社は、すでに管理上の歪みを抱えています。しかしそれは、必ずしも再起不能を意味しません。危険ゾーンに入った段階で事実を直視し、整理し、再発防止の仕組みを作れば、銀行や税務署からの信用を取り戻すことは可能と思います。重要なのは、「まだ大丈夫」と思っているときこそが、立て直しの最後のチャンスだという認識をもつことです。

第166話 帳簿上の現金が消えている会社は、どこで「アウト」になるのか前のページ

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