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経済・株式・資産

第144回 焼肉業界で独り勝ちとなった理由とは 物語コーポレーション

深読み企業分析

 物語コーポレーションは国内15ブランド、海外3ブランドの外食チェーン店を運営する企業である。代表的なブランドには食べ放題の焼肉きんぐ、丸源ラーメン、寿司、しゃぶしゃぶ食べ放題のゆず庵などがある。この10年間の年平均成長率は売上高が14.0%、営業利益では16.8%に達する。間に外食産業に大ダメージを与えたコロナが挟まりながらもこの成長率で、この間、売上高は3.7倍、営業利益は4.7倍となっている。2025年6月期の売上高は1,239億円、営業利益は92億円と営業利益では堂々外食産業の10位以内に名を連ねる会社である。

 同社の売上、収益の柱はなんと言っても食べ放題の焼肉きんぐであり、同社大躍進の立役者である。2025年6月末の店舗数は直営223店舗、FC128店舗の合計351店舗となっている。2015年6月末では直営91店舗、FC48店舗、合計139店舗であった。2025年6月期の焼肉の売上高は603億円であるが、これは直営店の売上高のみである。若干規模的には小さいと推測されるFC店の売上高を含めた焼肉きんぐブランドの売上高は優に850億円ほどと推測される。まさに、焼き肉レストラン市場では断トツの存在となっている。

 昨今は、円安もあって輸入牛肉の価格上昇しており、焼き肉店は厳しい経営状況が続いている。帝国データバンクの統計によると、2025年1月から8月までの焼肉店の倒産件数は32件で、前年(2024年・通年56件)に匹敵するハイペースとなっているようである。このまま推移すれば、2年連続で過去最多となる可能性が高いとも言われている。

 そんな業界の苦境も物とせず、焼肉きんぐの店舗数は前年から8.3%増えている。また、売上高も11.7%増である。焼肉だけの利益は不明だが、全社の営業利益も13.2%増と好調は明らかである。この同社の好調の背景は何であろうか。

 そもそも既存店売上高が好調である。2025年6月期通期のFCを含む焼肉きんぐの既存店売上高は4.2%増と高水準であった。ひとつには様々な外食で値上げが行われている中で、同社も値上げを行ってはいるものの食べ放題ゆえ、定額であり、事前に予算が読めることが大きいのではないかと考えられる。

 また、同社は食べ放題でありながら、テーブルオーダー式であり、バイキング式と異なってわずらわしさがないことが受けている。また、DXによる効率化をいち早く進めており、端末によるオーダーシステムの導入も他社より早く、さらにロボットや配膳レーンの導入で人件費を抑制している。しかし、これは単にコスト削減だけにとどまらず、そうして浮いた人員を使って、同社ではおせっかいと読んでいる「焼肉ポリス」に人員を割いて、おいしい焼き方を顧客にアドバイスするサービスも行っている。また、地域限定や季節限定メニューの提案によって、顧客を飽きさせない仕組みも構築している。

 もちろんこれらのことは、同社を研究している人であれば、多くの人が共有している情報だと思われる。しかし、同社の場合にはもっとずっと奥深いところでの経営の発想がこれらの差別化に結び付いているのではないかと考えられる。

 焼肉の食べ放題店というものは同社が手掛けるずっと以前からあった業態である。しかし、その業態が成長業態になったという話は聞かない。また、焼肉に限らず、食べ放題という業態が成長したという話も聞かない。食べ放題を売りにする外食店は実は多い。しばしば、ホテルなどでもバイキングはどこでもやっている。しかし、それがチェーンとしてビッグビジネスとなった話は聞かない。

 それなりに永続している食べ放題店にシズラーがあるが、安定的なニーズはあるものの、
店舗数が増えているわけではない。日本進出後 30 年以上経過したものの店舗数はわずかに11店舗に過ぎない。それではなぜ同社の焼肉の食べ放題店だけが成長しているのか。ここではその秘密を探ることにしよう。

 同社の焼肉きんぐはコロンブスの卵的なものとも言えよう。一般的に、食べ放題式のレストランの収益構造は、テーブルサービスをしないバイキング方式を採用して人件費を下げることが一つのポイントになっていることが多い。まさにシズラーがそのパターンである。

 もうひとつの収益化のポイントは、バイキング方式に質の低い食材や価格自体が低い食材を使うことである。焼肉の食べ放題であれば、やや肉の質を下げることが多い。また、食材や料理を絞り込んで手間を省く傾向もある。食べ放題焼肉店は話題になっては消えることを繰り返したので、何度か挑戦したことはあるが、おいしいと感じたことはほとんどない。しかし、この二つのポイントこそが、焼肉店のバイキングの収益性を確保する施策ということになる。少なくともかつてはそれが定説となってきた。

 それに対して、同社が始めた焼肉きんぐはこの二つの仕組みを否定するところからスタートしている。食べ放題でありながら、バイキング方式を採用せず、テーブルサービスを行
った。つまり、テーブルで注文をして、スタッフが運んでくるスタイルである。テーブルサービスとバイキング方式の違いをどう感じるかは、厳密な意味で区分することは難しい。しかし、一般的な外食店の方式がテーブルサービスであり、どこか心の奥底ではバイキング方式に対してはわずらわしさというものを感じている可能性はある。それゆえ、本当にたまに行ってもいいとは思うが、そう頻繁に行きたいとは感じないのが一般的ではなかろうか。

 また、肉の質も同社の従来店の一番カルビと同じレベルの肉を使った。それで食べ放題なのだから、どう考えても儲からないはずである。ところが、これが儲かっているのである。いったいどこにその秘密があるのであろうか。

 まずは品ぞろえである。かつての焼肉食べ放題店では、肉をお腹いっぱい食べたいと思う人が来店する前提であり、肉以外の品ぞろえを充実しても無駄だろうという発想であった。また、食材を絞り込むことで、手間も省けるという考えもあろう。それゆえ、来店客も肉をひたすら食べるパターンとなる。一度は評判を聞いて訪れても、元を取れたと感じるほど食べられなかった人や味に満足しなかった人はリピート客とはならず、肉を目いっぱい食べて満足した人だけが顧客の中心となって客数は伸び悩むことになる。なおかつ、やがて大食漢ばかり集まることで、収益性も高まらない。

 それに対して、焼肉きんぐでは牛肉以外にも豚肉、鶏肉、海鮮、ご飯もの、サラダ類、さらにはデザートまで魅力的な商品を品ぞろえした。当然ながら牛肉が最も高価であるから損得を計算する人は牛肉だけ食べるかもしれないが、ほかにおいしいものがあれば、そちらにも手が出て、結果的に最も高価な牛肉の消費量を減らすことができる。さらには、牛肉だけは山盛りだが、他の食材が貧相な食べ放題店よりも顧客のイメージは格段に豪華に見えるものである。

 これはファミリー層の集客にも効果を発揮する結果となった。焼肉以外の様々な料理が楽しめることから、老若男女のそれぞれが料理を堪能することができる。また、小さな子供もバイキング方式では親の負担が大きくなるが、テーブルサービス方式ならその心配はいらない。その結果、リピート客も多く、回転率が上がる結果となる。

 従来の常識では儲からないはずの業態が儲かっている秘密は、このような施策で業態が評価されたことで稼働率が大幅にアップしたことだ。店舗数拡大の初動段階では、それまでの焼肉食べ放題店の考え方と根本的に違うため、他社から見れば、そんなことで事業として成り立つのかと見られていたことで、なかなか競合が同じ方式で参入しなかったため、先行メリットを十分生かして、ブランド力が獲得できたことがあったと考えられる。その結果、来店客数が増え、結果的に高収益業態とすることができ、さらにサービスレベルを上げる余裕ができているのが現在であると言えよう。

 当然、その後、同社の成功を見て、次々と焼肉食べ放題に参入する企業が出てきたが、やはり、かつての固定観念が捨てきれずに、同社に肉薄するような企業は今のところ出ていない。そもそも今目に見えているロボット、自動レーン、季節限定商品は差別化の本質ではなく、ブランド力がそのバックグラウンドにあるゆえ、それらを余裕で行えているにすぎないからである。

有賀の眼

 ここまで現時点の中心業態である焼肉きんぐについて解説してきたが、同社は様々な業態において、同様の発想で、いかに収益性の高いチェーン化を成し遂げるかを考えている。焼肉きんぐの次に同社の業績のけん引役となりつつあるのが丸源ラーメンやゆず庵である。

 この10年間の売上高構成比の変化を見ると、焼肉は59.2%→49.6%、ラーメンは13.3%→17.2%、ゆず庵は9.1%→16.3%と、実は構成比でみるとラーメン、ゆず庵の構成比が大幅に上昇している。依然、ウエイトは焼肉に比較すると低いが、焼肉で稼いでいるうちに、次の柱となる業態も着実に育っており、今後とも同社の躍進が楽しみである。

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