社会保険料の滞納は、決して特別なことではありません。中小企業の現場では、資金繰りがうまくいかず「納付の猶予に持ち込んだ」という話をよく聞きます。しかし、多くの経営者が見落としがちなのは、その”次”です。
「納付の猶予」で一時的にしのいだとしても、その先に待っているのは一括納付か分納です。しかもこれは原則1年しか認められていません。その期限が到来してもなお全額納付が困難な場合、「もう少し猶予期間を延長してください…」と持ちかけても、銀行とは異なり年金事務所の対応は非常に厳しいのが現実です。
銀行融資でのリスケは銀行が利益を追求する企業である以上、融資先が生き残れるのであればと考えて、協力してくれますが、社会保険や税金については「公平性の原則」によってその会社だけ特別扱いにはしてくれないのです。
つまり、猶予制度は「免除」ではなく、「一時的に払わなくてもいいが、後で必ず払う必要がある」という制度なのです。
■ 猶予期間中の経営者に求められる視点
多くの社長は、「猶予できたことでとりあえず安心した」と気を抜きがちですが、むしろ猶予期間中こそが経営改革のラストチャンスです。この期間に何も変えず、従来のコスト構造や売上モデルを続けていれば、再び「払えない月」がやってきます。
そして次に来るのは、差押えや銀行融資の停止です。さらに、社会保険は法人の債務であっても、故意の未納とみなされれば、代表者個人の責任も問われます(注1)。
■ 生き延びるための「変える勇気」
ここで必要なのは、「会社を守るために、何を変えるか」を本気で考えることです。
利益率が低い業種・取引は思い切って見直す
売上の少ない商品やサービスはやめる勇気を持つ
従業員数をスリムにし、社会保険料そのものを減らす
これらは、ただの”節約”ではありません。「会社を存続させるための構造改革」です。倒産すれば、取引先にも、社員にも、そして家族にも迷惑がかかります。社長の責任とは、会社を畳むことではなく、守り抜くことなのです。
■ 最後に
「納付の猶予」「分納」に至った時点で、会社は”赤信号”です。けれど、そこで経営を根本から見直せば、”再出発”の機会にもなります。逆に、「なんとかなるだろう」と先送りした結果、年金事務所からの不動産、預金などへ差押えが入り、銀行取引も維持できなくなり、一気に倒産というケースは多いのです。
じっさいに現場を見てきた限りでいうと、「納付の猶予」で再生できた会社は、従業員数をスリムにしているのがほぼ100%です。
分納中は、「立て直し」のラストチャンス。その覚悟をもって、今こそ社長としての決断と行動を。
(注1)厚生年金保険法 第104条




















