猛暑の中、熱戦が繰り広げられた夏の高校野球も終わりを迎えました。今年の話題としては、名門校で起きた不祥事と大会開催中の辞退となった一連の出来事を記憶している方も多いでしょう。部員による暴力の可能性、そしてそれを軽視し、隠そうとしたともとられる組織の姿勢は、世間から大きな批判を浴びました。なぜ、これほどまでに信頼を損ねる事態が起きてしまったのか。そこには、組織が「本当に大切にすべきもの」を見失っていたという共通の課題が隠されています。
この事例は学校で起きたものですが、経営者の皆さんにとって決して他人事ではありません。企業経営の場面でも、同様の危機はいつでも起こり得ます。このような危機においても、ウェルビーング経営の概念は実に役に立ちます。
ウェルビーイング経営とは、社員、顧客、そして社会の三者が共に良い状態である「三方よし」の姿勢を、経営の根幹に据えることです。不祥事を隠すことは、短期的な保身はかなうかもしれませんが、長期的には組織のウェルビーイングを蝕み、信頼を損ない、そこにいる社員を追い詰め、やがて企業そのものを崩壊させてしまいます。
本稿では、高校野球の事例から得られる教訓を掘り下げながら、有事の際にこそ真価が問われるウェルビーイング経営の重要性について解説します。
1 有事の際に問われるウェルビーイング経営
企業は、不祥事や問題から完全に逃れることはできません。組織は人の集まりであり、ミスや不正が起きる可能性は常にあります。まず、このこと自体を経営者としては受け入れる覚悟を持ちましょう。怒ったり、過度に嘆いたり、ましてや誰かのせいにしても、何も始まりません。重要なのは、その時、経営陣がどう振る舞うか、その判断です。
先の高校野球の事例における対応は、判断の遅れが深刻な事態を招いた典型例でした。情報が告発によって外部に漏れるまでは十分な対応を欠き、記者会見を含むその後の学校の対応にも、自己保身の姿勢が垣間見えるとして、大きな批判が起きます。結果として、甲子園史上初の、大会中の不祥事による辞退という、不名誉な記録として歴史に残ることになりました。もちろん、現場には現場の判断があったはずですが、結果としては、生徒たちはもちろん一般社会からの信頼を著しく喪失した、不適切な対応だったと言えるでしょう。






















