2 誤った経営判断がもたらす影響
この事例から、経営にかかわる方は「徹底的な調査」「隠さない姿勢」の重要性を学ぶことができます。不祥事に、簡単な通り一遍の調査を施して、いわば、ほどほどな対応で終えること、正式に公表しない態度、ひいては隠ぺいとも思われる態度は、長期的に組織のウェルビーイングを根本から蝕んでいきます。
経営陣が誤った判断をした場合の影響は、以下のように分析できます。
従業員への影響:しっかりとした調査を行わないこと、さらに隠蔽行為は、企業に対する従業員の不信感を決定的にします。誰も不誠実な組織で働きたいとは思いません。何かがあったときに、従業員は、会社がどんな調査をしてくるのか、そのうえでどんな判断をするのか不安ながらも冷静に見つめているものです。パワハラなどのハラスメント行為ならなおさらです。
繰り返しますが、組織の中で、何らかの不祥事が起きることは常にあり得ることで、それ自体ゼロにすることは困難です。大事なのは、その後です。あいまいな調査で終えてしまうと、「会社に言っても無駄だ」「会社は加害者の味方」「この会社は私たちを守ってくれない」という不安を生み出します。
顧客・市場への影響:不祥事があった際に、それに対してどう会社が対応したか、顧客や市場は厳しい目を向けます。特に、第三者を入れない調査委員会や身内だけの報告で済ませると、もはや、隠匿ではないかと言われる時代です。世間の眼は、SNSの普及と共に、厳しくなっていると言っていいでしょう。
仮に、会社からの公表の前に、当事者または第三者から事情が漏れた場合には、顧客や市場からの信頼は地に落ちてしまいます。製品やサービスに対する不信感だけでなく、「企業倫理に問題がある」という烙印を押され、ブランディング価値の喪失につながります。
製品やサービスは転換も可能ですが、企業ブランドそのものを回復するには、長い年月がかかります。
社会全体への影響:問題が起きた際に、しっかりと自浄作用を発揮しないこと、調査を尽くさない態度は、社会全体の健全な発展さえも阻害します。企業は、この社会が健全に成立するために重要な立場を担っています。
もちろん、わたしたち個人ひとりひとりも、自分の判断に責任をもって誠実であることが求められています。そうでなければ、批判を浴びることもありますし、不適切さに応じて責任を取ることもあります。
企業も同じです。企業も誠実であることが求められ、そうでなければ批判を浴びます。そして、個人も企業も、その影響力の大きさや規模に応じて、取るべき責任も増大します。その意味で、多くの従業員や顧客を抱える経営者の責任は、とても大きいものであり、社会的にもそのインパクトを考慮して、社会から見て誠実であると認められる判断を行わなければ、大きな代償が待っています。
なお、この「社会から見て誠実であると認められる判断」は、実際、なかなか難しいものです。どの組織もそうですが、その内側にいると、客観的な判断力が衰えるからです。このことを考慮して、第三者や組織外専門家への意見照会や徹底的な外部からの調査が必要とされるのです。
3 有事こそ経営の質が判断される
どの観点からしても、経営陣の判断の質は、「事業がうまくいっている時」ではなく、「問題が起きた時」にこそ真価が問われます。問題が起きたときに、ほどほどな調査で終えることなく、迅速に事実関係を詳細に調査し、身内だけで判断せずに第三者からの意見も収集し、必要に応じて迅速に公表する。この姿勢は、従業員を守り、顧客からの信頼を再構築し、社会からの期待に応えるための必須の道と言えるでしょう。

























