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経済・株式・資産

第166話 帳簿上の現金が消えている会社は、どこで「アウト」になるのか

あなたの会社と資産を守る一手

― 軽微・危険・致命的の境界線 ―

 帳簿上は多額の現金が計上されているにもかかわらず、実際には金庫にほとんど現金がない。この状態は、突然「アウト」になるわけではありません。実務上は、軽微な管理不備として見過ごされる段階から、融資や税務に致命的な影響を与える段階へと、静かに移行していくものです。経営者がやるべきことは、「どの時点で取り返しがつかなくなるのか」を理解し、問題視すること、そしてその結果として放置しないことになります。

 まず「軽微」と判断されるゾーンですが、たとえば、帳簿上の現金残高が200万円、実際の現金が160万円で、差額が40万円程度にとどまるようなケースです。この程度の差異であれば、「未精算の仮払金がある」「期末直前の立替が未処理」といった説明が通ることも考えられます。銀行も税務署も、この段階では即座に不正を疑うことはないのが実情です。ただし重要なのは、この差異が一時的であり、どこかで解消されていることが前提になります。

 次に訪れるのが「危険」ゾーンです。帳簿上の現金が300万円から500万円あるにもかかわらず、実際の現金がほぼゼロ、あるいは数万円しかない状態が、複数月、あるいは複数期にわたって続く場合です。これは現金の元帳でかんたんに確認できます。この段階になると、第三者の見方は一変します。銀行は「帳簿にあるはずの現金が、返済原資として存在していない」と判断し、決算書全体の信頼性を引き下げます。追加融資は見送られ、既存融資についても資金使途や返済状況の確認が厳しくなるのが実情です。

 税務署の視点でも、このゾーンは極めて危険といえます。税務調査で現金実査を行い、毎期同程度の差額が確認されれば、「単なるミス」ではなく「構造的な問題」と判断されます。差額について合理的な説明や証拠がなければ、役員賞与や使途不明金として認定され、追徴課税の対象となることもあります。こでのポイントは、金額そのものよりも「繰り返し発生している」という事実です。

 そして最も深刻なのが「致命的」ゾーンです。帳簿上の現金残高が月商相当、あるいはそれ以上で、実際の現金がほぼ存在しない状態が長期間放置されている場合などです。たとえば、月商500万円の会社で、帳簿上の現金が500万円以上計上されているにもかかわらず、金庫には常に数万円しかない。この状態では、銀行も税務署も「意図的な帳簿操作」や「資金流用」を前提に判断をします。

 融資の世界では、この段階に入ると、「きわめていいかげんな信用できない会社」と判断されます。帳簿上の現金が信用できない以上、他の資産や利益も疑われ、融資の前提条件が崩れ、新規融資がとおらないことになります。

 税務上の影響はさらに重いものです。現金差異が多額かつ長期にわたる場合、税理士は差額を役員貸付金にすることが多いですが、仮に、じっさいにはない現金という資産勘定でそのままバランスシートに計上されていれば、法人税だけでなく、所得税まで波及する可能性があります。さらに、帳簿全体の信用性が否定されれば、推計課税に移行し、過去数年分をまとめて修正されるリスクも生じます。

 重要なのは、「アウトかどうか」を決めるのは経営者ではなく、第三者だという点になります。経営者が「いつか整理するつもり」「実害は出ていない」と考えている間にも、銀行や税務署の評価は静かに悪化していきます。そして一線を越えた瞬間、その評価は一気に表面化するものです。

 帳簿上の現金が実態を伴わない状態は、金額が小さいうち、期間が短いうちであれば修正が可能です。しかし、それを「調整用の数字」として使い続けた時点で、会社は危険ゾーンに足を踏み入れます。経営者が取るべき行動ははっきりしています。現金差異が軽微なうちに原因を特定し、整理し、二度と発生させない体制を作ることです。そして、それこそが、致命的な段階に至る前に会社を守る唯一の方法なのです。

 

第165話 帳簿にあるはずの現金がない会社で、実際に起きていること前のページ

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