わかりやすく経済学を語ることで有名な行動経済学者・吉本佳生先生がプレジデントで「なぜ失敗しそうな事業から撤退できないか」について書いておられた。
なかなか面白い内容で、サンクスコストの呪縛(すでに支払ったコストにとらわれてずるずると続ける)や名誉、プライドというということにその原因を求めていた。
「なるほどな~」と感心しつつ読んでしまったが、これは資金的に余裕のある企業での話だなと思えてならなかった。
実際、多くの中小企業と接していると、少し事情が違うかもしれないと思えてしまう。
新規事業、あるいは起業で新規ビジネスを始めるときは、多くの中小企業では「失敗したら」とか「どこのラインが失敗にあたる」 などについて、あまり重点を置いて考えないものだ。
それを考え始めると、「どれもこれもうまくいかない」と思うことになるからだ。
しかも資金力のない中小企業は金融機関から融資で資金調達をして新規ビジネスを始めることも多い。もしも事業がうまくいかなければ融資は返済できなくなり、会社は破たんすることもある。 そしてその可能性のほうが確実に大きいのだ。
さらに、新規ビジネスは より儲けるためにやることが多いが、より儲けるビジネスで成功しても、すぐに大手が価格攻勢をかけてきて、広告や広報でブランド化し、あっというまに市場の大半をもっていってしまうのだ。
しかも、面白いもので利益率は低いが、扱う商品の単価が高い商品を扱っている企業の新規ビジネスは総じて単価の高い商品を扱うビジネスに落ち着き、利益率がついてこないかたちとなる。本来、利益を生むために新規ビジネスを始めたのに、これでは「貧乏ひまなし」に落ち着いてしまう。
仮に、うまくいっても大手が参入してこないような細かなビジネスで、金額的な市場規模もたいしたことがないビジネス、しかもそれで高収益がとれるものを考えざるをえないこととなるが、そこに魅力をみいだす経営者は少ない。
中小企業での新規事業は私の知る限りでは大半が失敗する。
数年前に某ビジネスモデルコンテストで、どの審査員からもすばらしいと言われた新規事業は、芽が出たとたんに大手に参入され惨憺たるありさまとなった。
中小企業が新規ビジネスを始めるのに「失敗したら」に最重点をおいて考えても意味がないように思う。どんなに慎重に「失敗したら」を考えても、思わぬ展開になるものなのだ。
中小企業の場合、「失敗しそうな事業から撤退しやすい」環境を作って新規ビジネスを考え、始めるのが一番よいと思う。借入金に依存しないでビジネスを始めるとか、大々的に始めないで小資金でできることから始めて、反応を見て次第に大きくしていくなどだ。
実際、債務に依存しないで小規模から新規ビジネスを始めたある企業は、その商品の衰退期を今迎えたが、うまくてじまい、最良の幕引きを迎えることができそうだ。