スターツ出版は上場企業である不動産管理、建設、賃貸仲介、売買仲介など不動産関連の事業を手広く行うスターツコーポレーションの子会社で、1983年にコミュニティ紙の制作、発行を目的として設立された。その後レジャー情報誌「オズマガジン」を創刊し、1996年からは「オズモール」を開設してインターネット事業を開始した。2002年には営団地下鉄構内で無料配布するフリーマガジン「メトロミニッツ」を創刊。
その後は、小説なども手掛けるようになり、2007年にはケータイ小説投稿サイト「野いちご」をオープン。2009年からはその投稿サイトで発掘した作者による「ケータイ小説文庫」シリーズを創刊して、電子書籍市場の拡大の波に乗って成長し現在に至る。
2018年度までは祖業のコミュニティ紙を含むメディアソリューションが稼ぎ頭であったが、書籍事業の成長とコロナによるメディアソリューション事業の赤字転落もあり、今や完全に書籍事業が主な事業となっている。
書籍事業で大幅に増えたのは電子書籍である。電子書籍市場は20年以上にわたって大きく成長し、コロナ前の2019年までの5年間でも年率21.6％と急成長していた。そんな電子書籍事業であるが、コロナによってさらに成長が加速することになった。コロナ初年度の2020年の市場成長率は28.6％増と驚異的なものとなる。
そして、2021年も14.3％増と前年に大きく伸びたにもかかわらず比較的高水準な伸びであった。しかし、さすがに2022年、2023年とコロナの反動もあって、9.4％増、7.0％増と伸び率がいよいよ一けた台となる。そのため、多くの出版社の業績は低迷したが、同社は逆に2022年、2023年と伸びが加速している。この背景には、2022年の電子コミックの大ヒット作の誕生と2023年の同社作品の相次ぐ映画化があった。
同社の書籍ビジネスは、同社のケータイ投稿サイトに投稿された作品の中から、読者に人気の高い作品をピックアップし、投稿者と交渉して、作品として出版するものである。主な投稿者は地方在住の主婦で、編集作業に2-3カ月かけて、紙と電子の両建てで出版する。このようにして2009年の書籍事業参入からすでに500人以上の作家を発掘している。
カテゴリーとしてはライトノベルが中心で、女子中高生向けから大人の女子向けまでを手掛ける。女子中高生向けは紙の書籍が中心であるが、大人女子向けは電子が中心で、さらに人気の小説をコミック化して、紙の書籍と電子書籍として発売している。全体としては現時点で紙と電子では電子が多くなっているが、同社では紙の書籍も継続的にプラスで推移している模様である。
さて、2022年に大ヒットしたのが日本版シンデレラストーリー的な「鬼の花嫁」であり、コミック化によっても爆発的なヒットとなった。すでに「鬼の花嫁」は文庫、コミックのシリーズ合計で580万部を突破している。
さらに、2023年には同社作品が原作の映画が3作品、封切られたことがある。中でも「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら」の大ヒットが大きかった。これは現代の女子高生がタイムスリップで戦時中に行き、特攻隊員と巡り合うというもの。観客動員数300万人、興行収入40億円を突破した。
同社は映画のヒットからの直接的な収益はないものの、映画化が決まると、帯に映画の宣伝が入り、一度に3作品もあったため、書店で同社専用コーナーの打ち出しも行え、それ以外の作品も陳列してもらえる。その意味で映画化は書籍の販売に大きなインパクトがある。原作自体は2016年発刊であり、まさにロングセラーとして多くの読者に支持された作品である。現在までにシリーズ累計125万部を突破する大ヒットとなっている。
さらには、3作品は大手が不得意なZ世代（現時点で10代半ばから20代後半）に刺さるものであったことから、書店からも映像業界からも注目されることとなった。その結果、同社作品の若者人気が高いことに映画界が気付き、その後、引き合いが殺到する状況となっている。
そして、2023年の3作品に対して、2024年はなかったものの、2025年に2作品、2026年は5作品、さらに2027年もすでに3作品が決まっており、今後もそれぞれ上積みとなる可能性がある。
以上のように、ケータイ投稿サイトでの素人作家の発掘によって、大手が得意ではないZ世代に刺さるコンテンツの作成を行えることで、書店や映画業界で同社のへの期待は大きく高まっていると言え、長期的にも特徴的な出版社として大きな飛躍を遂げようとしている。
有賀の眼
今回は映画化のインパクト、しかも様々な業界がリーチしようと懸命になっているZ世代へのアプローチが可能な会社という点に焦点を当てた。
一方で、実はアニメ化の面でさらに世界に通用するコンテンツにも恵まれているのが同社である。先に挙げた「鬼の花嫁」はすでに累計580万部突破の人気小説、コミックである。これは和風のファンタジーであり、主人公は和服も着用するシーンが多い。現時点で、同社ではアニメ化の決定が行われている。また、「鬼の花嫁」は英語版の電子書籍を北米で販売し、ヒットしている模様である。
特にこのところはインバウンドによって、日本文化が世界的に注目されている。そのコミックで展開される日本の鬼や和装の花嫁などが外国人に非常に受けがよいということ。その意味では同社のアニメが世界各国で販売される可能性も考えられるのである。
ケータイ投稿サイトというツールで作家を発掘し、しかもすでにそのサイトで人気が確認できた作品だけを書籍化するわけであり、出してみなければわからない書籍市場でまさにミラクルパワーを手に入れたと言えよう。さらにはZ世代へのリーチや日本文化の組み込みなど副次的効果も重なって、同社の躍進は当面続くように思われる。
