コラムの第1回で、M&Aの成功は目的を定義することから始まるとお話ししましたが、M&Aの目的は、経営戦略のゴールそのものです。つまり、経営戦略として何を実現すれば良いのかを明確に定義することが重要です。そして、実現したいことを達成するための1つの手段としてM&Aが存在します。
代表的なM&Aの目的
M&Aをするときの目的として良く上げられるのが、「技術・ノウハウの獲得」・「販路の獲得/拡大」・「買収先の成長」・「人的リソースの獲得」の4つです。
では、それぞれのパターンの成功の定義(例)を見てみましょう。
「技術・ノウハウの獲得」
- 自社が現状保持していない技術・ノウハウを獲得し、それによって具体的な事業上の成果(売上拡大・既存商品の付加価値向上・新商品の開発・生産性の改善など)を上げることが成功と定義される
「販路の獲得/拡大」
- 自社が現状保持していない販路を通じて、自社製品の売上が拡大することが成功と定義される
「人的リソースの獲得」
- 自社で現状不足している人員を確保することで、具体的な事業成果(売上拡大・既存商品の付加価値向上・新商品の開発・生産性の改善など)を上げることが成功と定義される
「買収先の成長」
- 自社が保持している技術・ノウハウを応用することで、自社以外の企業の事業上の成果(売上拡大・既存商品の付加価値向上・新商品の開発・生産性の改善など)を実現することが成功と定義される
必ずしもM&Aが手段として適切とは限らない
お気づきの方もおられるかもしれませんが、実は上に挙げた4つの目的の内、最初の3つについては、必ずしもM&Aが適切な手段とは限りません。例えば、あなたの会社で「販路の獲得・拡大」が必要であるとした場合、どういった手段が考えられるでしょうか。実は、ざっと挙げるだけでも5つの手段が存在します。
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営業人員を増員し、自社の販路を拡大する
- 配置転換によって営業人員を確保し、販路を拡大する
- 新人を採用し、ゼロから教育して販路を拡大する
- 類似製品を扱う企業の営業職を採用し、即戦力として活用する
- 代理店を開拓し、パートナー販路を拡大する
- 営業代行の企業にアウトソーシングをする
- web販売のチャネルを新たに開設し、販路を拡大する
- 同業他社などをM&Aし、販路を拡大する
このように手段を列挙してみると、M&Aは手段の1つでしかないことがよく分かると思います。経営者は、M&Aありきではなく、目的に対して色々な手段が存在する中で最適な手段を選択する必要があることが良く分かると思います。
どのように手段を絞り込むか
手段を絞りこむためには2つの作業が必要になります。
1つ目は、目的の具体化です。「販路の獲得・拡大」という目的には、その上位の目的として、「売上の拡大」があります。手段を絞り込むためには、この「売上の拡大」という目的を具体化する必要があります。なぜなら、「売上を5年で2倍」と「売上を2年で3倍」とでは、求められる手段が変わってくるからです。
「売上を5年で2倍」であれば、時間的余裕があるため、採用をして営業人員を社内で育てることができます。一方、「売上を2年で3倍」であれば、時間的余裕はないため、”時間を買う”ことができるM&Aが適当な手段かもしれません。このように、時間軸と目指す売上規模を具体化するだけでも、取るべき手段が変わってくることが分かります。
2つ目は、制約条件の確認です。論理的には色々な手段が存在しても、現実には制約事項があり実行できないという場合もあります。
例えば、社内で営業人員を採用して育てることがベターな方法だとしても、昨今の人手不足を踏まえるとそもそも採用が困難であるといった場合です。他にも、M&Aで買収をするのがベターではあるが、自社の財務状況を考えると銀行がOKを出してくれないといったことも考えられます。このような制約条件は事前に確認をしておき、ベターな手段がダメであれば、次の手段といった具合に判断していくことが必要です。
まとめ
第2回のポイントとしては、以下の3つを挙げさせていただきます。
① 目的に応じて手段は多数存在する
➁ 手段を絞り込むためには、目的の具体化が重要
③ 制約事項は予め把握しておき、次の手段を考える
M&A自体が目的にはなり得ないことを重々承知いただき、経営上の本来の目的に対して、手段として適当なときには、是非M&Aにチャレンジしていただければと思います。
第3回は、「シナジー」の考え方について解説したいと思います。