不況期であっても企業が隆々と発展していくために絶対必要なことがあります。それは一握りの特別社員だけでなく、より多くの社員達に十二分に仕事力を発揮 してもらうことであり、それぞれの個性が引き出され、同時に組織としてのチームワーク(全体の調和)がはかられているということです。
極端な成果主義は組織の調和を乱します。もしも普通の仕事ぶりでは給与は上がらないとなれば、過半数の社員は努力どころか、あきらめて質の高 い仕事を放棄してしまいます。
一握りの社員の頑張りだけでは企業の好業績を支えることなどできません。より多くの社員が疑心暗鬼に陥ることなく、それぞれの仕事に励げんで こそ総和としての増収増益、好循環は実現します。
ある専門商社での話です。「うちのような小さな商社は人が命です。成果をあげた社員には大商社以上の賞与を払っても惜しくない。スカウトされ ないためにも凡庸な社員とは年俸で大きな差をつけて当然だ」と豪語する社長がおられました。
事実、好業績でしたから、アバタもエクボ、お気に入りの部長には本人ですら驚くほどの報酬を出しました。別格の処遇に満足して今まで以上に活 躍してくれるに違いないと社長は確信していたのですが、期待に反してその部長はそれから1年ほどで理由を告げることなく、目立たないように退職してしまい ました。組織としての会社のありように疑問と限界を感じ、いまが潮時と判断しての退職だったことが後で分かりました。
一方で給料を大幅に減らされた部長がいました。企業業績はそこそこなのに自分だけ賞与は三分の一、去年の半分の年俸です。坊主にくけりゃ袈裟 までにくい。さすがに我慢できません。会社には労基法に反する不当な事実がいくつもあると労働基準監督署に内部告発。会社は過去の事実の清算のために監督 署からいくつもの改善命令を受け、社長は想像を超える屈辱を味わい、多くの出費を強いられました。成果主義を大げさに掲げ、チームワークを乱した会社がう まくいったケースなど大企業も含めて、1社もありません。
より多くの社員がそれぞれの仕事に専念できる処遇環境が維持されてこそ攻めの経営が実現できるということです。そしてそれは「納得性の高い成 績評価制度」「報われたと実感できる賞与配分」、仕事力にふさわしい処遇を実現する「安定した賃金人事制度」が正しく理解され、運用されてこそできる話だ と申し上げておきましょう。