文筆: 賃金管理研究所 取締役副所長 大槻 幸雄 氏
新型コロナウイルスの感染拡大によって、一時は日本全国を対象に発出された緊急事態宣言でしたが、先月25日には残された北海道と関東1都3県が解除となり、先の見えない暗闇から一筋の光が差し込んだように感じられます。しかし、新型コロナウイルスに対する抜本的な解決策が見出されたわけではなく、更なる感染拡大を引き起こさないよう最大の注意を払わなければならないという点では、緊急事態宣言下と何も変わっていません。企業活動においても、新しい日常の在り方を模索していくことになりそうです。
さて、2020年春季労使交渉での賃上げに関する集計結果が出揃ってきました。これまでに公表された賃上げの妥結状況は次のとおりです。
- 日経新聞・上場(3月31日) 1.98%(製造業2.07%、非製造業1.73%)
- 東京都(5月14日) 2.03%(製造業2.12%)
- 連 合(5月11日) 1.92%(300人以上1.98%、300人未満1.88%)
集中回答日(3月11日)に行われた大手主要組合に対する一斉回答では、賃上げ・一時金とも前年割れでしたが、賃上げの流れが継続されたことや統一要求の慣習が見直される動きが認められたことを、労使ともに前向きに評価しました。リード役の自動車や電機では、ベア・賃金改善を1,000円~1,500円とする回答が大勢を占めましたが、トヨタは賃金改善を見送る一方で、業績悪化が見込まれる中での「雇用優先」スタンスを示し、注目を集めました。
中小企業(300人未満)の賃上げ率は、1.88%と対前年比0.05ポイント減に止まっています。3月以降、新型コロナウイルスの影響が広がる中にあっても、商業流通部門は2.35%(前年2.28%)と前年実績を上回っており、中小企業の賃上げが全体の底支えをしている実態がみてとれます。パートタイム労働者の時給改善も進み(28.49円、2.85%)、5年連続で正社員の賃上げ率を上回ることとなりました。
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夏季賞与(一時金)については、賃金管理研究所では次のように予測しました。
- 主要企業は、対前年比 4.5%減の 807,400円
- 中小企業は、対前年比 5.5%減の 360,500円
- 金額ベースの指標としては、主要企業=厚生労働省「主要企業夏季一時金妥結状況」、中小企業=厚生労働省「毎月勤労統計調査:夏季一時金(事業所規模5人以上)」を用いています。
賞与の本質は「利益の配分」ですから、対象期間の企業業績を基準に賞与原資が決定されることが基本です。この夏の賞与は、新型コロナウイルスを端緒とする業績悪化の影響を受けるのは必至でしょう。2020年3月期の上場企業の決算は、減収減益となる企業が36.8%、増収増益は29.7%(東京商工リサーチ調べ、5月27日時点)ですが、決算発表を延期している企業もあり減収減益企業の比率は今後増えることが予想され、賞与支給額を抑制する動きが広がるでしょう。直近の業績の影響を受けやすい中小企業ではその傾向が強く出やすいものと思われます。春季労使交渉時点では新型コロナウイルスによる一時金への影響は限定的でした。今後、その影響が顕著に表れるのは今年の年末賞与からとなるでしょう。